―――少々、時間をさかのぼる。美琴が去ってから、程なくのことだ。
何たることだ。それが、ゲンブの偽りない本音だった。
アルマの予測に従って訪れたストラウル跡地で、協力者である
崎原 美琴が暴走していた。アルマが確保にかかったものの、予想を上回る対応力でノックアウトされ、自身も追撃で少なからぬ負傷を負った。命にかかわるほどではないが、戦うのは難しかった。向こうでは瓦礫の中から這い出したアルマが、立ち上がって頭を振っている。こちらもそこかしこに負傷が見られ、やはり本格的に動くのは難しいと見えた。
だが、問題はそこではない。
「なぜ、こんなところにお前がいる……!?」
「なぜも何も、グーゼンだよ、グーゼン。たまにゃ仕事しねぇと、鴉がカーカーうるせぇんでね」
3対6本、そのすべてに、エンブレムを刻んだ剣を装備した腕。赤い傷跡を無数に走らせた顔。ゆるりと歩むその異形、対照的に悠然とした佇まいは戦の神の似姿か。
スキュアロウ・バルカンチ。
ホウオウグループの中でも、単純な戦闘力なら最強と言われる危険人物が、そこにいた。本来の得手は水中戦らしいが、陸であってもその力は衰えない。それは、以前のブラストルの一件で、
シスイとスザクを圧倒した事実から鑑みても間違いない。
「つっても何すりゃいいのか見当もつかなかったんだが……コイツぁチャンスって奴だな。キヒヒ……」
傷だらけの顔で、異形の男は嗤う。
「普通にてめぇとぶつかりゃ、俺でもさすがに手こずったが……そんだけボロボロなら楽なもんだ」
(まずい……)
まずいどころではなかった。スキュアロウの戦闘力は尋常ではない。戦闘に秀でた聖や光一であっても、単独では絶対に勝てない。勝てるとすれば、ゲンブが思い当たるのは二人。一人は他ならぬホウオウその人。そしてもう一人は、かつて模擬戦で完敗を喫した時の相手。
「頭を潰しゃそれで終わりだ、痛みを感じるヒマもねぇ。安心して地獄に逝きなっ!!」
(ちぃっ!!)
獣の如き瞬発力で、スキュアロウはゲンブに襲い掛かる。六つの刀身が閃き、命を刈る牙となって迫る。
だが、それらの一本として、ゲンブを貫くことはなかった。なぜなら、
「!? ごはぁぁっ!」
突如として起こった連続爆発が、スキュアロウを明後日の方向に吹っ飛ばしたからだ。
(!?)
「が、誰、だ!?」
痛む体を押してゲンブが、立ち上がりながらスキュアロウが目を向けた先に立っていたのは、浴衣姿の女性。腰まで届く美しい黒髪を靡かせた彼女は、問いには答えずスキュアロウに手をかざす。
瞬間、またしても連続爆発が起こり、立ち上がったばかりのスキュアロウを地に這わせていた。
「全くの偶然でしたけど、目にした以上放っても置けませんわ」
「てめぇ……」
女性にターゲットを変更したのか、スキュアロウの目がぎらりと光る。が、地を蹴ろうと一歩を踏み出した瞬間だ。
「!?」
危機感に駆られ、その足で後方に飛び退る。直後、今踏んでいた地面が切り裂かれた。もしあのまま飛びかかっていたら、頭と足がさようならをするところだった。
「っ、今度はなんだ!?」
思うように進まない事態にイラつくスキュアロウが見たのは、瓦礫の上に佇む少年。背丈も顔立ちも極々平凡なその少年だったが、彼があの斬撃を何らかの方法で放ったのは疑いない。
「チッ、どいつもこいつも邪魔ぁしゃあがってよ……」
明らかに苛立つスキュアロウから、明確な殺気が発せられる。女性も少年も少なからず怯んだようだったが、そちらをじろりと一瞥し、異形の男は言う。
「……向こうからも来てやがるな。しゃあねえ、ここは退いてやるぜ。命拾いしたな、ガメラさんよ」
言い捨て、スキュアロウは跡地を横断してその場を去った。
残された4人のうち、ゲンブがぼそりという。
「……誰がガメラだ」
それから最初に言葉を発したのは、何とか調子を回復したアルマだった。
「とりあえず、礼を言う。名前を聞いてもいいだろうか?」
まずそれに応じたのは、浴衣姿の女性。
「ええ。わたくしは『シスイ』と申します」
「シスイ?」
「あら、ご存じですの?」
「や……知り合いに、同じ名前の者がいるので」
そう言われ、シスイと名乗った女性は「そういえば」と何事か思い出すように首をかしげた。黒髪が、さらりと揺れる。
「以前、ルナと旅行に行った時にもそんなお話を聞きましたわね」
「旅行……」
もしや、俺の株が大暴落したあの時か? などと思いつつ、何とか立ち上がれるまでに回復したゲンブが、未だ瓦礫の上の少年に目を向ける。
「それで、お前は? 学生か?」
「はあ。『
ザルク・ゼドーク』と言います。いかせのごれ高の学生です」
「ふむ……わかった。ともあれ助かった、礼を言おう」
「いや、俺は……うぉおおっ!?」
それは突然のことだった。ザルクの立っていた瓦礫の山……その下の方がぐらついていたのだが、それが遂に限界を迎え、爆発のような派手な音を立てて弾けた。
3人が思わず身を庇った直後、瓦礫の山はザルクを乗せたまま、轟音を立てて崩壊した。
「うおっ!?」
「ザ、ザルクさん? ご無事ですか?」
「げほっ、何とか……いてて」
シスイの呼びかけに返事。濛々と立ち上る土煙の中から、手で口と鼻を覆いつつザルクが出てくる。
「良かった、無事だったか」
「最近なんかついてないなぁ……この間も財布落としたし……」
ぶつぶつと呟くザルク。どうやら怪我はないようだ。
「やれやれ、ヒヤリとさせてくれる。……ともあれアルマ。美琴の件だが……」
「解析は出来ましたが……結果は芳しくありません。少なくとも、説得は現状不可能ですね。もう少し手を考えなければ……」
若干焦るゲンブだったが、アルマは冷静に応じる。
「そうか……」
「ともかく、この場では何も進展しません。元凶は大方見当がつきましたが、そちらについても詳しく説明をする必要があります」
「わかった。……お前達二人は家に帰るといい。ここを出るまで送ろう」
「はい……わかりました。それでは、お願いしますわ」
「ありが……」
シスイに続いてザルクが礼を言おうとした時だった。入口に近い方から車いすの少女が猛スピードで突っ込んで来たのと、別の方向から何やら大人数がやって来たのと、バイクの音が聞こえてきたのは。
トリプル・エンカウンター
「……おーい、佑ー、起きろー」
「……ふぁ、はいっ?」
「何かさーわがしいからさー、とーりあえず跡地を出ーるぞー」
「は、はい」
「さーっきの人には……俺ーの携帯貸すかーら、後で連絡しーときなー」
(そして、同じころ)
(道化師と少女が、跡地を去って行った)
最終更新:2012年03月25日 14:54