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道化者、語る

話していいものかどうか、少々悩んだ。
特殊能力。常人の持たざる、このいかせのごれにおいてはごく普通の「異常」の証明。いずれ下される、世界からの三行半。それを受け取ることが定められた者の証。
佑がそれを持っていることはもはや疑いようがなかったが、どんな能力か詳しくはわからない。
ただ、大体こういうものらしい、ということは何とか予想がついていた。

「…………」

しばしの沈黙を置き、理人は先ほどまでの奇妙に間延びした喋り方から一転、表情を消して言った。

「……最初に言っておく。これを聞いたら、後戻りはできなくなる。今までのようには、生きていけなくなる。それでも良ければ、話してあげよう。あの時、何が起きたのかを」
「………!」

理人の様子から、自分が知りたいと願うことが、本来踏み入ってはならない領域であったことを遅まきながらに佑は悟る。だが、ここまで来て聞かずに終わるわけにはいかない。あの機械兵に襲われたことは、紛れもない事実。そしてそこには、恐らく自分の知らない何かが介在している。
それを知らずして、この一件から去るわけにはいかなかった。
不退転の意思で見つめ返すと、理人は根負けしたように息をついた。

「……仕方がないな」
「……すみません」
「最初に言っとくけど、何が起こったのか詳しくはわからない。ただ、事実として言えるのは、君に特殊な力があるということだ」

特殊な力。それを聞いた佑には思うところがあった。
たまに小耳に挟む「能力者」の噂。いたらすごい、とは思っていた。けど、それは今まで単なる噂、都市伝説の住人に過ぎなかった。だが、こうして目の前に理人という実例がいる。そして、恐らくは自分も。

「無論、俺にもある。これはもうわかっているはず」
「……はい。聞かせてもらいました」
「ああ。俺の力はさっきも説明したように、無機物に能力を付加する力だ。そしてパニッシャー……あの機械兵を倒した時に君が使ったのもそれだ。ただ、同じ能力が同時に存在するのはかなり珍しい。そうはいない」

人工的に付与されたか、クローンでもない限り、同じ能力の持ち主が同時に現れることはそうそうない。火波姉妹がその「そうそうない」の実例だが、それはまあ今は関係ない。

「ならば君の力は何か? あの時俺が見た状況から判断するに、恐らくは『他人の能力を一時的にコピーする能力』だ」
「コピー……」
「コピーの条件なんだが……それはわからない。俺が予想するに、能力者の血、じゃないかと思うんだけどね」

この理人の推測は、図らずも真実を言い当てていた。
「無断拝借(エゴイストレンタル)」。それが、我孫子 佑の持つ特殊能力だ。この時点では誰一人知る由がないが、その力は能力者の血液を媒介に、能力をコピーして使用するという転写系統のものだ。これを使う場合、佑の体は能力に合わせてアジャストされる。その反動が解除後に来るため、気を失ったり頭痛に見舞われたりするのだ。

「じゃ、あの時は……」
「俺がヘマやったからなぁ。あれだな、多分。あれで俺の力をコピーして、鞄に能力を付加して、倒したんだな」

パニッシャーによってハチの巣になった理人の左腕。今は治癒しているが、その時に散った血が佑にかかったらしく、どうやらそれでコピーが発動したようだ。

「事実としてはそんなとこなんだが、注意してほしいことがある」
「注意?」

そうだ、と前置きし、理人は語る。

「ウスワイヤ、という組織がある。これは、特殊能力者を収容・管理するための施設だ。なぜそんなことをするのか……」
「……普通の人と違うから、ですか」
「ちょっと違うが概ねその通り。特殊能力者の持つ力は、普通の人間を超えたもの。それは、今ある社会秩序を崩壊させかねない。それを防ぐための施設だ。……だから、気を付けろ。もし、その力を持っていることが発覚したら、収容される。日常が崩壊する」
「ぇ――――」

佑の動揺が覚めるのを待たず、理人は続ける。

「もう一つ。ホウオウグループという組織がある。こいつらの目的は『世界の合理化』。それが何を意味するかはわからないが、奴らは目的のための犠牲を躊躇わない。関わるな、逃げろ。これが最善だ」

まるで、畳み掛けるように。

「ではこれからどうするべきか? 簡単だ。誰か、本当に信頼が置ける人にだけ明かし、後はその力を隠して普通に生きていればいい。幸いなことに君の力は、能力者に近づかなければ発動しないらしいから、今までどおりに生活していればいい。それでも困ったら、そうさな。火波って子に聞いてみるといいさー」

最後の最後で口調が戻る。それにも気づかず、佑は「火波?」と首をかしげた。

「火波って……2年の? 火波 スザク?」
「そーう、そう。決して悪ーいようにはなーらないから、ホントーに困ったーら聞いて見るといい」
「はあ……」

ひとしきり話が終わったところで、さて、と理人がその場を立ち上がる。

「なーがながと話こーんだけれども……さーすがに帰らーないとマズいか。送ってくよー」


道化者、語る



「……で、家はどーっちかな?」
「………こっちです」

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最終更新:2012年04月16日 00:02