「ねーねー、今日はどうしよっか?」
「とりあえず、ノート何冊か盗ってきたからさ、ゴミ箱行きにしよー」
「おっ、ナイスじゃん!」
とある日のいかせのごれ高校。
いつも通りの日常の中、
張間みくを虐めている女子グループが陰湿な会話を交わしていた。
「絶対泣きながら必死こいて探すよねー」
「マジざまあ」
「次は鞄を体育館裏の倉庫に隠そーよ」
下卑た笑い声を上げ、女子達はどこかへ去る。
だがそれを聞いていた少女がいた事には、気付いていなかった。
「………(コックリ)」
少女は女子達がいなくなった事を確認すると、ゴミ箱からノートを取り出し、付着したゴミやホコリ等を丁寧に払う。
綺麗になったノートを見て満足そうに頷くと、それをしっかり抱えて持ち主の教室へと赴く。
しかし曲がり角に差し掛かった時―――。
「あっ! ついでにジュースのパック捨ててくる!」
「うん、分かったー」
「!?」
慌てて引き返そうとするが時は遅し。
声の主である一人の女子と鉢合わせしてしまった。
「…ん? 何よアンタ」
「あ…え……そ、その…」
「どうしたのー?」
「何か変な奴がいるんだけど」
「変な奴? …あっ、挙動不審ヤローの
緋沙子さんじゃん」
名前を呼ばれて体が跳ねる少女、緋沙子。
「こんな所で何してんの~?」
「べ、別に…俺、急いでる、から」
まだノートに気付いてない様子に半ば安心した緋沙子は、教室へ一目散に駆け出そうとする。
が。
「あれ~? そのノート…」
「ヒッ!?」
「…何でアンタがそれ持ってんのかなぁ?」
「だ、だだ…だって、これ、俺、の、ノート…だし」
「嘘つくんならもっとマシな嘘つけよ!!」
怒号を口にしながら、一人の女子が緋沙子を突き飛ばした。
その拍子でパーカーのフードが脱げる。
「それ…ちゃーんとゴミ箱に捨ててきたら、見逃してあげる」
「え…」
「けど捨てなかったら…分かってるよな?」
「え、う…」
恐怖で震える緋沙子。
パーカーのフードを戻しつつ、震えながら思案する。
「………」
「どうすんの? 早く決めなって」
「………」
ノートを捨てれば、いたぶられる事は無い。
過去故に、彼女は暴力を振るわれる事にすっかり臆病になっていた。
だが、それでも。
(みくさんは…今でも辛い目に遭ってる……)
意を決した彼女は、弱々しい声ながらもはっきりと言った。
「…嫌だ」
「あ?」
「す…捨てない!」
ダッ
「あっ! コラ待て!」
涙を目に溜め、逃げ惑う緋沙子。
しかし、途中で足がもつれ転んでしまった。
それと同時に、武器でもあるお守りの赤いクレヨンがポケットから飛び出す。
「ったた……あぐっ!?」
クレヨンを拾って立ち上がろうとするが、追い付いた女子に背中を強く踏みつけられ、もう一人の女子が知ってか知らずかそれを踏み潰した。
「おとなしく言うこと聞けば良かったのにね~?」
「………い、やだ」
「…ッ、うっぜぇなあ!!」
「ガ…ッ!?」
強く殴られ、頭の中がぐわんぐわんと鳴り響く。
「ねえ、折角だからノートと一緒に、倉庫の中に閉じ込めちゃおーよ」
「あーそれいいねー」
「…!」
緋沙子の未だ意識が半分抜けているが、それでも会話を聞き取れていた。
しかし捕まった以上、何もできない。
それにここは学校。
能力を使って振り切る、など出来る訳が無かった。
緋沙子にはもう打つ手が無かった。
「ほら、入りなよ」
「………」
かろうじて人一人入れる倉庫。
暗く狭いそれを見た彼女の脳裏には、母親からの虐待の末に、光が差さない狭い収納スペースに監禁されていた記憶が浮かんでいた。
「早く入れっつってんだろ!」
「わっ」
背中を蹴られ、その勢いで倉庫の中に入る。
「いてて…」
「じゃあね~♪」
「!! いや、やめ、て、待」
ガシャン!
「…って、待って! 待って待って待って待って!!! 嫌だ! 出して!! 出してお願い!」
扉を引いてみるが、ガタガタと言うだけで開かなかった。
恐らく何かがつっかえているのだろう。
「誰が出すかっての」
「その内誰かが見つけるんじゃなーい?」
「有り得ないけどーアハハ!」
女子達の笑い声が遠ざかっていく。
恐怖に囚われた緋沙子は益々扉を揺らすしか無かった。
どうしてここにいるの? 何故閉じ込められた? いつまでここに?
疑問までもが浮かんでくる。
「…あ、そうだ能力で…!」
とポケットに手を入れるが―――。
「え? 嘘…無い………あ!」
先ほど転んだ時に落とし、踏み潰された事にようやく気付いた。
払った筈の恐怖心と絶望感が再び沸き上がる。
「…だ…嫌だ……出して…出して出して出して出して出して出して!!!」
扉を強く殴り付けるが、変に頑丈な上に緋沙子の力ではうんともすんとも言わない。
「お願い出して! 出して出して出して出して出してここから出して!!!」
殴り付ける速度が上がる。
悲鳴も徐々に大きくなっていった。
すっかりパニックに陥った彼女の頭に過去の記憶が浮かび、現状と交差し出す。
『もう二度と使わないから…これから良い子でいるから!!!』
「怖いよ怖いよ怖いよ怖いよ!!! 真っ暗な場所は嫌だ!! だから出してお願い!!!」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
「一人ぼっちでここにいるのは嫌だよ!!! 許して許して許して許して許して許して許して!!!」
『誰か…誰か助けて!! まだ死にたくない生きたいよ!!! だから早く出して!!!』
「誰か俺を探して…俺を見つけて早く!!!」
『痛い…よ……お腹すいた…苦しい……ここから―――』
「早く早く早く早く早くここから―――」
『「出してぇえええええぇえぇえぇぇえええぇぇぇえええええええ!!!!!!」』
「―――子、緋沙子!」
「!」
外から声が聞こえる。
緋沙子はその声が誰の物なのかすぐ分かった。
クラスメイトにして、幼馴染みの優池 鶴海だ。
「ユッケ…ユッケ!
「緋沙子! 今出すから…」
つっかえている板を何とか引き抜き、扉を開ける。
「大丈夫か!? 痛い所は無いか!?」
「…うっ……うわぁあああ!!!」
「おわっ…と」
安心感から思わず抱き着いてきた緋沙子を、鶴海はよろめきながらもしっかりと抱き止めた。
「ひくっひくっ…」
「暗くて狭かったから、怖かったろ?」
「うん…昔を思い出して、怖くて怖くて…早く出たかった……」
「もう大丈夫だからな」
よしよしと背中をさする鶴海。
「でも何でここが…?」
「さっき、バカ女子共がお前を閉じ込めた話をしてたのを、たまたま耳にしたんだよ。みくのノートをゴミ箱から拾ったのも聞いた」
「そうなんだ…」
「相も変わらず、酷い事好き好んでやる奴らだな。その内シメとくか」
「い、いいよユッケ。そこまでしなくても」
慌てる緋沙子。
それを見て鶴海はニカッと笑って言った。
「冗談だっつの。さ、そろそろ行こうぜ」
「うん。あ」
「ん?」
「…ありがとう、見つけてくれて」
「ははっ、気にすんな。オレら幼馴染みだろ」
「うん…そうだね」
(そう言って、いつも助けてくれるもんね)
(いつもありがとう、ユッケ)
暗転からの光
余談。
「あの挙動不審女…一体どうやって出たのよ」
「今度はアイツの机に落書きしよーよ」
「そうねーやろやr」
「オイお前ら」
『!?』
「何してんだ」
「そ…そっちこそ、な、何よ」
「勝手にオレの幼馴染みの机に、心に無いこと書くなよ。やめるつもり無いなら…シメるぞ(ボキボキ)」
『ヒ…ヒィイイイ!!!(逃走)』
「…臆病者」
最終更新:2012年07月28日 16:29