最近、いかせのごれ高校で妙な噂が飛び交っている。
女の子の幽霊が出る、というのだ。
「幽霊だって?」
僕自身、帰り際にそれを聞いた時は半信半疑だった。最近激化の一途を辿る苛めの問題で正直苛々していた、ということもある。
その情報を齎した当人、ミオが僕に言う。
「俺自身、にわかには信じられないですけど」
ちなみにこんな口調だけど、ミオは女だ。
「何か本当らしいですよ、火波先輩。夕方頃から深夜にかけてが多いそうですけど、下手すると昼間っからも出るって」
「随分とアクティブな幽霊だな……」
ミオが他に教えてくれたのは、その幽霊に関する噂。
曰く、学校建設時の事故で死んだ女の子だ。
曰く、この学校に何らかの執着を持つ生霊だ。
曰く、学校自体の化身だ。
曰く、この近辺で殺された子だ。
曰く、生徒の誰かに恨みを持つ怨霊だ。
「凄まじいな……」
「ですよね? 祟られたって人もいるみたいですし」
何でも、その幽霊を目撃した女子生徒が一人、原因不明の体調不良を訴えて入院したのだが、その入院先でなぜか錯乱してしまったのだとか。
事態の恐ろしさを加速させているのが、数ある噂の中でもまことしやかに囁かれているこれだ。
曰く、苛めに耐えかねて自殺した子だ。
「何で、誰も彼も内心でビビッてるみたいで」
「心当たりがある人間が多い、ってわけか……」
その幽霊が誰かは知らないけど、誰かに危害を及ぼすなら放っては置けない。
後でアオイかマナにでも話してみようか、と思いつつ(ゲンブは最初から考慮の外だ)、僕はミオに礼を言ってその場を後にした。気が付くともう4時を回っていた。
さすがに帰らないと。
「またな、ミオ」
「また明日、先輩」
その頃、別の教室。
「そろそろ帰るー?」
「そーだね、さすがに遅いし」
帰り支度をしつつそんな話をしているのは、ここ最近みくやその周辺にまで苛めの手を伸ばしている女子達だ。
実のところ
ヴァイスによる「より徹底的に」という暗示が未だ生きている影響なのだが、それを知る者はいない。
「……それにしても何? あの優池とかって奴」
「何がシメるよ、カッコマンかってーの」
本人を目の前にした時は戦いて逃げ出したというのに、当人たちだけになるとこれである。
人間の習性の一つともいえるが。
「どいつもこいつも……あれ?」
ふと、一人が空っぽの教室に目をやる。夕日に照らされて真っ赤に染まった教室の真ん中に、女子生徒が一人佇んでいる。
身長がやけに低い。160あるかないか、と言った程度だ。
「………」
ほんの気まぐれだった。どうにも思い通りにならない苛立ちを、そいつにぶつけようと教室に全員で踏み入る。
「あっゴメン」
明らかに故意とわかる動きで、足を引っかける。が、その足が空を切った。少女が素早く身を引いたからだ。
「……何? 生意気なんですけど?」
別の女子が背後から引っかけるが、今度は横に逃げられる。
「逃げんじゃないわよ」
何度繰り返しても、少女は異様に素早くその足をかわし続ける。
そんなことが続き、ついに女子グループの一人が限界に達する。
「この……いい加減にしろってんだよ!!」
その背中を怒号と共に、思いきり突き飛ば――――せなかった。
「――――ぇ?」
少女を突き飛ばそうと勢いよく伸ばした手が、何の抵抗もなく少女の体をすり抜けたからだ。その女子は、勢いのままつんのめって机に突っ込み、ガラガラと派手な音を立てた。
「……ちょ、ちょっと……」
「何、今の……」
もちろん、その現象はその場にいた全員が目にしていた。
そして同時に、考えたくなかった可能性に至る。
曰く、
「ゆ、幽霊……!?」
苛めに耐え兼ねて自殺した子の幽霊だ、と。
その少女が、俯いたまま、目線だけで傍らの一人を見つめ、
「あなたは……いらない」
瞬間、悲鳴が爆発した。
我先にと出入り口へ殺到するが、いつの間にか閉まっていたドアはぴくりとも動かない。ならばと窓に向かうが、どういうわけか鍵が開かない。硝子も割れない。
はたと気づくと、いつの間にか差し込む光が失せ、夜の帳が降りていた。
だというのに、車の音もしない。どころか、月も星も、全く見えない。外灯の光さえ、差し込まない。なのに、暗闇の中、少女の姿だけははっきりと浮かび上がっていた。
出るに出られない密室の中、ゆったりと歩く少女から少しでも遠ざかろうと、女子グループは教室を壁沿いに逃げ回る。
「ひいいいい!!」
「く、来るなっ、来るなぁぁぁっ!!」
何を叫んでも、少女は意に介さず、ただゆっくりと、距離を詰めていく。女子グループは走っているはずなのに、後を追って歩く少女との距離は広がるどころか縮まりつつあった。
やがて、教室の端に全員が追い詰められたところで、少女が止まる。その代わり、目の前の彼女らに向けて、ゆっくりと手を伸ばす。
いよいよ恐慌状態に陥った女子グループは、何とか逃れようとドアに殺到するが、やはりビクともしない。
間近に死を感じ、ほとんど泣き叫びながら外に出ようと暴れる。その時、
「ぁ」
少女が小さく、吃驚の声を漏らす。瞬間、ドアが開―――かず、ガターン! と大きな音を立てて外側に倒れた。
次の瞬間には、女子グループは全員逃げ去っていた。
一人残った少女は、出しかけた手を引っ込めて息をつく。
「……失敗した。ドアを『私』に出来なかった……」
呟く彼女の背後から、外灯の光が差しこんできていた。
幽霊騒動~マナの学校訪問?
その日の某家、夕食後。
「ま、マナちゃん、そんなことしたの?」
「何やってるの、マナちゃん……学校で怪奇現象起こすなんてご法度だよ~?」
「私は遊びにいっただけ、学校に。向こうが暴力振るって来たから、お返ししただけ、ちょっと」
「閉じ込めて、怖がらせて、ですか? それのどこが『ちょっと』や言うんですか」
「別に加えてない、危害は。驚かせただけ、少し」
「だからですなぁ、それのどこが……」
「……そういえば、最近いかせのごれ高校に幽霊が出るらしいが……」
「多分私、それも」
『…………』
最終更新:2012年07月28日 16:30