「こ、こんにちは…」
「おや、みくちゃん」
「僕もいますよ」
「斎君もでしたか」
ある日のいかせのごれ高校。
養護教諭の
玉置静流は、突如保健室に来た張間みくと
水無瀬 斎を迎え入れた。
「どうしたんだい?」
「張間さんの怪我の手当て、お願いしても宜しいですか?」
「い、斎君、ボクは大丈夫だから…」
「いけません、可愛い女の子が痣や傷を拵えていたら。それに今日はいつもより多いし…優池さんにも悪いですよ」
実は、みくがいつも通り暴力を振るわれていた際に、たまたま通りかかった優池 鶴海が当人らを軽くシメ上げたのだ。
「でも…」
「皆、貴方の事心配してるんです。元気な姿を見せて、皆を安心させて下さい」
にっこりと笑う斎。
それを見たみくは俯きながらも言った。
「……分かった。ごめんなさい…」
「いいんですよ。では玉置先生、後は宜しくお願いします」
「うん」
一礼した後、斎は保健室を後にする。
「とりあえず、消毒液とか探して来るから、ベットに座って待っててくれるかな?」
「あ、はい…」
手前のベットに座るみく。
(斎君とユッケ君に迷惑かけちゃったなあ…)
と、その時。
カタンッ
「え?」
どこからか小さな物音が響いた。
どうやら後ろにあるカーテンの向こうかららしい。
(誰か寝てるのかな…)
そっとカーテンを開ける。
しかしベットには誰もいなかった。
「あれ? おかしいな…ん?」
視線を感じ、ベットの下を覗き込むと…不気味に光る一つの緑色の目がこちらを―――。
「「うわぁああああああああああああああああああああああ!!!??」」
「ごめんねみくちゃん、先に言うの忘れてたよ」
「い、いえ…ボクもごめんなさい…」
悲鳴を聞いた玉置が駆け付けると、みくと銀の髪の少年が体を震わせて泣いていたのだった。
特に少年の方はベットにも振動が伝わるほどに。
「はい、手当て終わり」
「あ、ありがとうございます……ところで先生、あの人は…? 1年じゃないみたいだけど…」
「ああ、2年2組の
ノワール君だよ。最も、ここか図書室で勉強してるから、教室には滅多にいないんだけどね」
と、ノワールを見やる玉置。
本人はと言うと、ベットの下には潜り込んではいないが、ベットの毛布にくるまって未だに震えていた。
それを見かねたみくは、少し近付いて話しかけてみるが。
「えっと…さっきは、ごめんなさ…」
「ヒッ!」
今度は毛布にくるまったまま隅の方に逃げてしまった。
「あ…」
「彼、対人恐怖症でね。保健室に誰か来ると、今みたいにベットの下に隠れたり、隅っこの方に逃げ出したりするんだ」
「そうなんですか…」
「まあ僕なら少しだけ慣れてるんだけど…ノワール君」
今度は玉置がノワールに話しかける。
すると僅かだが二人の方へ顔を向けた。
「……」
「この子は1年の張間みくちゃんだよ。たまにここに来るんだ」
「…1……年…? 張間…みく?」
ようやく体の向きも二人の方に向かう。
「そうだよ。ののかさんの事は知ってるだろう? 彼女のクラスメイトだよ」
「…張間…みく……君が…」
「え…?」
自身を知っている様な口を利くノワールに、みくは少し驚いた。
「…虐めの噂で…名前、聞いたから」
「あ…」
この人の耳にも入っているのか。
自分の事が。
みくは何故だか、急に塞ぎ込んでしまいたくなった。
「…辛い?」
「えっ?」
「虐め、って…僕にはあまり分かんない、け、ど……辛いんだよ、ね…?」
「…………」
ノワールは泣きそうな目でみくを見つめつつ、言葉を紡ぎ続ける。
「僕も…僕も、自分なんか生まれてこなきゃ良かったって…思ってる…」
「え…ど、どうしてですか?」
「…僕は、いらない子だから……役立たずで、臆病で、愚図な悪い子だから……だから、何で僕、は生きて、る、かなって…な、で…死んでっ、ないの、かなっ…て……ッ!!」
泣き出すノワール。
玉置は彼の背中を優しくさするが、それでも嗚咽が止まらない。
「僕な、か…僕なんか生まれてこなきゃ、良かったのに……そうすれば、そうすれば……」
「………」
フワッ
「…!」
ノワールは急に触れられた別の体温に驚く。
それは自身を抱き締めているみくのものだった。
「ボク、先輩の事よく知らないけど…でも、何となく分かります。先輩もボクと同じぐらい…それ以上に辛い事があったんだって」
「……張、間さん…?」
「ボクも、今はこんな感じだけど…でも、良い事や嬉しい事もいっぱいあるんですよ。だから、先輩もそんな風に、自分で自分を傷付けないで下さい。苦しめないで下さい」
「………」
茫然とみくを見つめるノワール。
そしてはにかんだ笑顔で。
「…ありがとう。張間さん」
「い、いえ…上手く言えないけど…先輩にも、きっと嬉しい事が起きますよ」
「嬉しい事…か」
と、ノワールは首にぶら下げたペンダントのトップを手に持つ。
「それは…?」
「昔、雪の様な女の子からもらったんだ。…僕が、初めて好きになった子」
「へえ…」
「その子も、君みたいに優しかった。綺麗な暖かい心を持ってた…」
懐かしそうに、目を細めて言うノワール。
「…また、会えたらいいなって。その子に」
「会えます、きっと」
根拠は無いが、何故かみくははっきりと言った。
「……張間さん」
「はい?」
「その、良かった、ら……」
「僕の、友達になってくれるかな?」
臆病と黒
(黒の言葉に)
(臆病が笑って応えたのは)
(言うまでもない)
最終更新:2012年07月28日 16:36