「さて、問題の場所はここだが……」
先ほど、ブラウという男に関する通達を連絡して回っていた
クロウのもとに、
一本の電話がかかって来た。明らかな敵意を持ったものからのその連絡に、彼は応じた。
放置しておくのは危険であったからだ。
(どのような手段でこのアドレスを知ったのか……でなければ、何らかの能力によるものか)
興味は目下、相手の力にあった。憎悪や怒りを向けて来る相手は、飽きるほどに見て来た。殺した者は多く、取り逃した者もまた多い。
(ともあれ、成すべきは一つ)
思うクロウの前に、
人影が一つ。ショートボブの金髪に、茶色の釣り目の少女。
「何者だ?」
「
レオナ……と言ってもわからないだろうね。お前らのおかげで、地獄を見た女だよ」
「………」
刃のような殺意と敵意を受けてなお、クロウは動じない。
その様子が気に障ったのか、レオナの眉が不快そうに寄る。
「……随分と余裕だなぁ? これから死ぬっていうのに」
「飽きるほどにやって来たことだ。今更興味も沸かん。それに……」
言い切る前に、レイピアの一突きがクロウを襲っていた。
が、それはクロウに届く前に、不自然な軌道を描いて逸れる。
「!?」
「お前は、俺を甘く見ている」
返す一撃もまた、レオナが入れた力とはまるで違う方向に曲がり、逸れる。
「ふぅん……軌道を操る力か。それが噂のイントルーダーって奴? まさに『介入者』だな」
「知っているなら隠す意味もないな」
言うが、クロウはそれ以上口を開かない。
無駄に情報を与えてやることもないからだ。
この間にも、絶え間ない刺突が連続して7回、クロウを襲っているが、そのどれもがかすりもしない。
「さて、手札はそれだけか?」
「………」
答えは返らない。
代わりに返って来たのは、血を吐くような怨嗟の声。
「……偉そうな口を聞くな。お前達にそんな権利はない。アタシは、お前達が、ホウオウグループなんか死ねば良いのに死ねば良いのに死ねば良いのに死ねば良いのに死ねば良いのにアタシはアタシはアタシはアタシはアタシはお前らのせいでお前らのせいでお前らのせいでお前らのせいで……お前らのせいでぇぇぇっ!!」
憎悪に彩られたその一撃は、クロウが能力を作用させるよりも早く、その身に届いた。
「む!」
「!! 届いた……ハハァッ!!」
そこからは一方的な展開。レオナの繰り出す刺突の雨が、間断なくクロウを襲う。
(ちっ、ぬかった……!!)
体の至る所が貫かれ、裂かれ、血しぶきが舞う。
返り血を浴びながら、レオナは狂笑する。
「アァァアァァッハハハハハハ!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェェェェッ!!!」
「ちいっ!!」
ダメージを辞さず、クロウは一端大きくバックステップして距離を取――――れなかった。
「ガ……!?」
どういう理屈か、それよりも遙かに速く踏み込んだレオナの一撃が、胸部を深々と貫いていたからだ。
「殺ッたァァァァッ!!」
狂喜の叫びと共に、レイピアを押し込んでくる。
「だが、掴んだ、ぞ」
「ッ!!?」
途切れがちながら酷く冷静なクロウの声に、狂気に染まっていたレオナの意識が引き戻される。
ふと気づくと、レイピアを持った右手が、クロウにがっちりと捉えられていた。
「は、離せ!!」
「戦闘経験は、あまり、ないようだな……接近戦を、挑んだのは、ともかく……不用意に、寄り過ぎた、のが、失敗、だ」
言うや、クロウは空いている方の手でレオナの頭を鷲掴みにする。
「俺の能力は、察しのとおり、軌道を操る、力……だが、それを、人体に、作用させれば、どうな、る?」
「!?」
言い知れぬ悪寒が、レオナの背筋を駆ける。
が、逃れようとしたときには遅かった。
「血管、神経……ルートが、既に、確定し、変更が効かない、ものは、対象外……答えは、一つ」
瞬間、
「―――――ッ!!!!」
レオナの喉から、甲高い音が迸り、消えた。同時に、その体が頽れ、地に伏す。
肺の中の空気が「イントルーダー」で一気に逆流し、酸欠に陥ったのだ。
だが、クロウの方もただでは済んでいない。
「ッ、無茶を、し過ぎた、か……」
がくり、と膝をつく。
人間の体の中というのは、能力を使う方からするとある種の結界だ。そこに無理やり干渉しようとすれば、体力なり精神力なり、多大な力を消耗する。
レオナの猛攻で重傷を負った身でそれだけの力を発揮した以上、クロウ本人もただでは済まなかった。
(戦闘続行は不可能……ブランクが仇になったか。だが、何とか……)
思う間に、
「!?」
目の前のレオナの姿が消えた。慌てて目を巡らせると、見覚えのある顔が視界に飛び込んできた。
濃い茶髪のショートヘア、窓枠から投げ出す足にはズボン。
「
スパロウか……」
「ちわっす、鴉さん。何ともまあ酷い仕儀っすね」
彼女の能力は、視界内の任意の何かを思い描いた場所に転送するものだ。大抵は人員輸送を行うのだが、最近は暇を持て余しているとか。
「奴はどこへ?」
「とりあえず、ここから出来るだけ離れた場所へ。どっかの森の近くっす」
「そうか……ひとまず帰還するぞ」
「それはアタシに働けってことっすね、わかります。んでは失礼」
スパロウが指をスナップして一瞬、クロウの姿はストラウル跡地から消えていた。
未だ深き、その闇
「さぁて」
一人残されたスパロウは、ビルから飛び降りてひらり、と着地する。
「もう出て来てもいいっすよ」
最終更新:2012年07月28日 16:50