「え…一日空ける?」
週末のいかせのごれ高校、保健室にて。
玉置静流の言葉に、
ノワールは思わず驚いてしまった。
「うん。ウスワイヤで色々仕事が舞い込んで来てしまってね…ここにはいられないんだよ」
「そ、そんな…」
困り果てるノワール。
何せ対人恐怖症の彼にとって、生徒達に必要な保健室で一人きりというのは、歓迎すべきではない事態だからだ。
しかし玉置はウインクをして「大丈夫」と告げる。
「昼休み以外鍵は閉めておくし、ののかさんにも言っておくから」
「あ、あの…氏型さん、は…?」
「ああ、あの子は今日休みなんだよ」
「…そうですか」
「それじゃあ行ってくるね。勉強、頑張るんだよ」
「あ、はい」
そう言い残し、玉置は保健室の鍵を閉めて去っていった。
「……何しようかなあ」
彼からはああ言われたが、実を言うと今はあまり勉強する気になれなかった。
ふと時計を見ると、針は9時過ぎを差している。
まだ1時限目は終わってないらしい。
「…しばらく寝てよう」
ベッドの中に潜り込み、目を閉じる。
瞬く間に眠気がやって来た。
「……ん…?」
どこからか聞こえる歓声に、ノワールは目を覚ました。
グラウンドの方からのようだ。
「何…?」
窓から覗き込むと、大勢の生徒達がサッカーをしている。
どうやら体育の授業をやっているらしい。
またここでベッドに潜り込むのも勿体無く感じ、ノワールはその様子を見ることにした。
「皆体力あるなー……ん?」
と、眼帯で隠した左目を撫でるノワール。
「『オンブラ』も見たいの? …うん、大丈夫。誰も来ないから」
眼帯が外され、顕になった左目は―――黒一色だった。
瞳どころか、白眼の部分さえ黒に染まっており、パッと見だとまるで眼球が無いように見える。
と、そこから黒い影が現れ、左目は黒から白一色に様変わりしていく。
黒い影は小動物の様な形を成すと、窓際に座り込んだ。
これが彼がオンブラと呼ぶ相棒の、一つの姿である。
「今、体育の授業でサッカーをやってるんだよ。クラス対抗みたい」
『キュイー』
オンブラは耳を動かし、機嫌の良い声を上げている。
それを見て、ノワールは思わず笑みが零れた。
「あの黒髪の子、早いなあ……あっ、あのバンダナの子は…あの時の………………」
『キュー……?』
顔を曇らせるノワール。
オンブラは心配そうに声を上げた。
「…あ、うん。大丈夫。ありがとう」
オンブラを撫でながら、再び外に目を向ける。
「あの赤い髪の子、どっかで見たような……それにしても、青い髪の子と顔似てる様な…あっ! ちっちゃい子が猛スピードでボール奪ってった…凄いなあ」
『キュイキュイ』
「いいなあ…僕も皆とやりたいなあ………まあ、無理だろうけど」
『キュ?』
「……僕には、誰かと遊ぶなんて一生出来ないよ。まして、誰かと仲良くなれるなんて……」
例え、誰かと絆を結べたとしてもそこまでだ。
そこから先には進めない。
否、進みたくない。
自身の心が、望んでいないからだ。
「………」
―――自分から歩み寄らなきゃ、何も変わらないよ。
いつだったか、玉置から言われた言葉。
しかし。
「無理だよ…玉置先生……僕みたいな化物に、友達なんて………仲間なんて……」
貴方みたいな役立たずは、もういらない―――…。
「『あの人』に見捨てられた僕なんか…生きてる意味ないよ…」
黒のある日
最終更新:2012年07月28日 16:56