「あ、アタシもしかして今とんでもないこと聞いちゃったんじゃ…。」
この半開きの扉の向こうには四人の人間がいる。
一人は「
火波 アオイ」 元々ユウイは彼女に用があって此処へ来たのである。今日一緒に買い物でも行かないか、と誘いに。
もう一人は「
都シスイ」、そして「トキコ」それから―――「
火波 スザク」…ではなく。彼女の母親。
「え、えぇえ…そんなのあり得るの…?」
今朝登校の際にちらりと見かけただけだが、今日のスザクの様子はおかしい。何が一番気になるって、あの髪の色だ。
スザクと同じクラスのリオトも彼女になんらかの違和感を感じていたらしく休み時間にユウイのクラスへとやってきて
「今日のスザク、色々おかしい。…お淑やかすぎる」と言っていた。
そしてもう一つ、スザクとトキコの関係について。
「な、何あの子「殺す」とか物騒なこと言っちゃってんのー!?
スザクも同じことをって… つ、つまりどういうことなんだよ!」
ごくりと息を飲むと、壁に体を預けた。
「……ど、どうしよう…なんて、アタシが言ってたって仕方ないか…」
取り敢えず、あの話は聞かなかったことにして、彼女達とはいつも通り普通に過ごそう。
うん、それがいい。そうしよう。そうしなければ。
「じゃあ、買い物にも誘わないほうがいっかぁ…大変みたいだし」
アオイの好きなものとか知りたかったんだけどなー、と残念そうに呟き階段を降り始めた、その時だった。
「「いでっ!?」」
「突然」目の前に現れた「何か」と衝突してしまった。ぐわん、と眩暈がする。
無意識のうちに片手を壁へと伸ばしぶつけた頭を押さえた。
「い、一体何が……って、あ…れ…?」
あまりの痛みに「これたんこぶ出来たんじゃないか」と思いながらゆっくりと目を開く。
が、目の前には何もいなかった。
彼女は確かに今、此処で「何か」とぶつかったはずなのだ。それなのに何故…?
「あァくッそ、いってぇ~~!!」
「 ! 」
後ろから声が聞こえる。振り返ると赤いフードを被った青年が頭を抱えて蹲っていた。
「あ、アンタは…って、ああああんまり大きな声出さないでくれ見つかる…!」
「み、見つかるって………ハッ!もしかして不思議なナニか!?」
「待てこのバカ…!行こうとするなって…!」
なんとしてでも「コイツ」は扉から遠ざけなければ。
その一心でユウイは青年の腕を両手でぐいぐいと引っ張る。
「おぉお、離してよ数学少女!「行くな!」と言われたら「行く!」それがおれのポリシィー!
さっき教室で聞いたんだ、『「火波 スザク」の様子がおかしい。いつものボーイッシュな感じが消えてなくなっている。妹の「火波 アオイ」と
友人の「都シスイ」、それから恋人カッコはてな、の「トキコ」を連れて屋上へ上がっていった』って、ネ!聞いたところによると自慢の赤い髪が山吹色に変わっていたんだとか?」
「変なあだ名はヤメロ!っていうかそれデマだから、な…!」
「あっはっはっは、嘘だねぇ。ほんと、君はわかりやすい性格してるよ」
すっと琥珀色の瞳を細める青年。ユウイは寒気を感じて黙り込んだ。
正直恐怖した。いつもこいつは何を考えているかわからない。
目の前の青年がこの学校の生徒やこの世界の住民のことを調べているのは知っている。
これまでに何度もインタビューを受けた(真面目に答えてやったことはないはずなのだが)
一体、何を、どこまで知っているんだ。
「……じゃあ仕方ないから…君に聞こうか数学少女!君はいったい、此処で何を見たんだい?」
「…えっ…、」
「…言えないってことはさぁ…「普通」のことじゃないよねぇ?大丈夫だよ、聞いた情報は誰にも言わないから、ネ!」
やたらと何かを隠し通そうとするユウイに興味を持ったらしい。
能力を使えば簡単にこの場から逃れられるというのに、彼はそれをしなかったのだ。
(ど、ど、ど、…どうしよう…!)
―――「あのこと」を彼に話してしまっていいのか、悪いのかはユウイにはよくわからない。
が、彼に友人のことを話したくはない。ただその思いだけが彼女の心を埋め尽くしていた。
――― 一方、「彼」と数分前まで行動を共にしていた黒猫は、
「あいつ…わたしを置いて能力を使うなんて…うう、これじゃ道がわからないじゃあないか…!」
…そこで、黒猫は思った。
(…そうだ、人間の姿になってしまえば見つかっても「誰だアレ転校生?」程度で済む。女子生徒の制服はさっき見た。
よし…、そうと決まればさっさと変身して「スザク」と「
フミヤ」を見つけて此処から逃げ出してやるぞ。ふふん、待っていろ、「火波 スザク」とやら!)
気持ちを固めた瞬間、ぐっと猫の体が大きくなり、耳と尻尾が消えていく。
黒猫の代わりに、黒髪を二つ結びに、細く赤い瞳を持ち、口元までマフラーを巻き、
いかせのごれ高校の制服を身に纏った少女がそこに現れた。
「……はやく…、はやく「スザク」とやらの情報を手に入れて帰りた」
「え…、今猫が、人に…?」
「―――!!」
(しまった―――!)
黒猫と漫画家、学校へ。
最終更新:2012年08月25日 20:57