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京とアンと腹話術

「あら?」

その日、隠 京はアンを連れて外出していた。ついこの間聞かされた情報屋『Vermilion』なる一団について品定めをすべく―――具体的には彼らの動向と目的を確かめるために―――もっと言えば野次馬根性込みで―――出て来ているのだ。

そんな彼女が目を留め、立ち止まったのは、大量の買い物袋を前に大声を上げる少女の姿だった。

『もーーーーーーっ!! ハヅルの馬鹿!! ばぁーーーーーーーーーか!!!! 「すぐ戻る」って言って全然戻ってこないじゃないかぁーーーーー!!! こんな量の買い物、僕らだけじゃ持って帰れないよーーーーーーー!!!』
「……どうする?」
「見つけた以上、放っておくわけにもいかないでしょう」

いつもの如く真面目なアンの返事を受け、京はその少女に歩み寄る。

「どうしたの、さっきから大きな声出して」
『ハヅルの……っと、すまないね。さっき、仲間に置いてかれたもので』
「そうですか。時に、あなたは?」

アンの問いに答えたのは、少女ではなく、彼女の右手にあるパペットだった。

『おっと、失礼。僕はロッギー、こいつは相棒のアーサー・S・ロージングレイヴさ。よろしく』
「へぇ、喋る人形? 凄いね」
「京様、腹話術だと思いますが」

わかってるわよ、と苦笑する京。やはり、冗談の通じないアンの性格は若干苦手なようだ。

「で……察するに、買い物袋を置いてったその人が全然帰って来なくて立ち往生してる、ってとこ?」
『まさにその通りさ。僕はもちろん、アーサーもこの量は持てないからね。どうしようかと困ってたんだよ』

その結果があの荒れ様、というわけだ。……しかし、

(パニックを起こしても腹話術をやめないって……)
(筋金入りのようですね)

アーサーの奇癖に肩を竦めつつも、京はそれなら、と申し出る。

「持ちましょうか? どうせ今日は暇だし」
『え、いいのかい? それじゃあ、悪いけど頼むよ』
「京様、ここは私が」

ロッギー、というか彼(?)を手に嵌めたアーサーが買い物袋を示し、それに手を伸ばした京を制したアンが素早く袋を取り上げた。
突然の早業に、さっきまで不機嫌そうな表情だったアーサーがぽかん、となる。

「あなたがあまり重いものを持つのは、推奨しません。ましてや、手に提げて歩くものならば、なおのことです」
『? わけありかい? まあ、詳しくは聞かないことにするよ』

ありがとう、と微かに笑む京。
―――彼女は、アースセイバーとして最後に携わった任務で右足の膝から下を失っている。現在はその部分に義足を装着して生活しているのだが、如何せん強度が中途半端で、単に歩くだけならともかく、重量物を持ったり、大きなものを提げてバランスが崩れると簡単に転んでしまう。そのため、アンが独断でより頑丈で、かつ元の足に近い重量の義足をある場所に発注しているのはここだけの話だ。

『あ。でも、ハヅルはどうしよう? 戻ってきた時僕らがいなかったら、困るよねぇ……』
「ご心配なく」

即答で請け負うアン。

「荷物を届けた後、私がここに戻って待ちますので」
「それなら安心ね。アンの仕事は確実だから……」

それじゃあ行きましょうか、と京はアーサーの持っていた文房具などの袋を左手で持ち、

「……えぇ、と、ロッギー君?」
『ん、何かな?』
「代わりと言っては何だけど、後で道教えてくれない? 行きたいところがあるのよ」



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最終更新:2012年08月26日 19:40