(ん~…ちょっと残念だなぁ。でも、ま、知らないことが知れるのならいいか!)
フミヤは、緑色の手帳を口にくわえながら街を歩いていた。
火波スザクについての情報が得られなかったのは残念だったが、
代わりに悠里ミミの「秘密」とやらを教えてもらえることになった。
(火波スザクについては…まぁ、「
ホウオウグループ」辺りが動けば嫌でも知れるだろうし、ネ。
なんだっけ… げんりゅーけん、だっけ?
ケイイチのヤツの赤いバージョン、みたいなの)
くわえていた手帳を服にしまいこむと、ばっと手を出して幻龍剣を出す真似をしてみる。もちろん、何も起こらない。
「ばっかみてぇ」 自嘲気味な笑いと共に呟くと、青い空を見上げた。
―――たまにはこういう「日常」らしいのもいいかもしれない。
フミヤが求めているのは「非日常」だが、非日常も毎日毎日毎日毎日起こっていれば日常に変わってしまう。
「だから、日常も悪くはないかな…ねぇ、クロ!」
ばっと両手を広げ笑顔で振り返る。
そこで、フミヤはやっと気付いた。
「………学校に置いてきちゃった…」
振り返ったその先にいたのは、一人の女性。
いかにも怪しい人を見るかのような目付きでフミヤを見た後、足早にその場を去っていった。
どうやら女性はこの辺りで友人と待ち合わせをしていたらしく、手を振りながらもう一人の女性の元へ走っていったかと思うと、すっとフミヤを指差した。
『ネェ、聞いて聞いてー、アタシさっきあのイケメンに話しかけられちゃったー!』
『ウソぉ!まじィ!?いいなぁ、うちも話しかけられたかったー!』
「ってところかなー?あははーおれってばモテモテっ彼女作る気ないけど」
気持ちの悪い裏声を使って、アフレコをしては一人でけらけらと笑い出した。
恐るべきポジティブ思考である。明らかに女性二人は怯えているというのに。
「さぁーって、メガネちゃんとの約束の時間まで何をしようかなぁ」
ううん、思い切ってウスワイヤに不法侵入して…怪我をした「水波 ゲンブ」でも見に行こうか?
それとも、ちぃちゃんとこの世界について語り合うか! ああいや、それじゃあ約束の時間に間に合わなくなっちゃうなぁ。
それともそれとも、あの紅い情報屋さんのところに行ってちょーっと悪戯しちゃうとか…。
だっておれより多くのことを知っていたら悔しいじゃないの。
それとも! ちょっと大胆に、
都シスイのそっくりさんについて調べちゃう…とか?
「何故知ってるかって?それはおれがこの世界、大好きだからでーす」
つまり彼は、
「この世界大好きだから知らないことなんて作りたくないんです、どんなことでもいつか調べ尽くしちゃいます、おれが知らないことなんてないようにしてあげる」
等とでも言いたいのだろう。誰に聞かれたわけでもないが。
ホウオウグループとアースセイバーのぶつかり合いも、連続殺人事件も、彼にとっては楽しいものでしかない。
いかせのごれを見渡せるビルの上まで瞬間移動すると、両腕をぐっと伸ばして太陽に翳し、「大好き」と告白してみせた。
…どう見ても変人だ。頭のイカれた人だ。 彼のこの行動を見たとある「人」は、そう思い深い溜め息をついた。
その頃、いかせのごれ高校の廊下では
「………クロ、はん…どすか?」
「………咲埜子?」
あぁ―――不幸中の幸いとはこのことだろうか。
この学校の生徒に変身中の姿を見られたかと思いぶわっと全身の毛が逆立つような気持ちになったが、目の前に現れた半妖の娘を見てほっと胸を撫で下ろす。
彼女の名前は「
御影 咲埜子」フミヤの行きつけのお店、「
風月堂」の看板娘だ。
そしてこれは余談だが―――風月堂の苺大福はとても美味しい、らしい。
らしいというのも、クロは風月堂の苺大福を食べたことがないのだ。
――クロも食べるー?はいあーん…なぁんて、あげると思ったー?残念でした、
おれはそこまで優しくありませーん 猫は黙ってそこで丸まって「大福猫」にでもなってな
思い出されたのは、マフゥ、と見せ付けるように苺大福を食す彼の姿。
(お、思い出したら腹立ってきた…… !いや、それよりもだ…)
「や、やっぱりクロはんや…!こんな能力持ってたんやなぁ…」
目を丸くして驚く咲埜子を横目に、クロは黒いマフラーをぐるぐると巻き直す。
「……咲埜子が、どうしてここにいるんだ?」
「新しいお菓子ができたんよ、やから皆に食べてもらいたくて…」
「……、………」
「……?クロはん?」
じっと咲埜子の持っている箱を見つめ、近づくクロ。
すんすんと鼻を鳴らした。
「……もしかして、食べたいん?」
「ぎくっ」
「クロはん、いつもフミヤはんにお菓子取られとるもんね…よっしゃ、今日は特別にクロさんにご馳走したるわ!
もう昼休みも終わってしまうし…私の店行こ、な!」
「い、いいのか…」
「もちろん!クロはん常連さんやもん!」
(これは思わぬ収穫だ…ふふん、そもそもわたしにとって「人の情報」とかどうでもいいことなのだ。ザマあミロ!フミヤ!)
黒猫は心の中で青年に対してあっかんべーをすると、軽い足取りで半妖の娘と共にいかせのごれ高校を後にした。
この「世界」の住人は
最終更新:2012年08月27日 16:39