強くなりたい。
―――杠殿! いけませぬ!!
―――強くなりたい…強くなりたい…強くなりたい…なりたい…強く……
―――杠殿! その剣を抜かれては…悪霊が主を!!
…そして、私は…剣を……。
「……?」
『目醒めたか』
「………誰」
『俺か? 人間共は”大妖怪”と呼んでいる』
「大妖怪……」
抜かれた剣。
間欠泉の如く溢れ出る悪霊。
私を引きずり込む何本ものの手。
そして―――赤で縁取られた、両目…。
ああ、思い出した。
「…ここから出せ」
『出せ? 出ていけ、の間違いだろう?』
「え?」
『ここは、お前の内の深い深い場所…心層、だ』
「心、層…」
真っ白な、何もない世界。
…これが私の心の世界、と。
”大妖怪”は語り続ける。
『直にこの世界も消える。見ろ』
彼が指差した方を見ると、空間にヒビが走っていた。
少しずつ、少しずつ。
走らせていた。
刹那。
ズキィッ!
「ッ!?」
『悪霊達がお前を仲間にしようとしている』
「私…を…?」
痛みと黒ずんだアザが走る、首の左側と左足の脛を押さえ、抱え込む私。
…が。
ピシッ…ピシッ…
ズキィッ!
ズキィッ!
「ぐぅぁあああッ!!」
『…哀れだな』
ヒビが走る度、体の至るところに痛みとアザが広がる。
それを”大妖怪”は皮肉染みた眼差しを向ける。
私はつい鋭く彼を睨み付けた。
『…何だ』
「何とかしろ」
『…俺がそんな頼みを聞き入れると―――』
「私は強くなるんだ…これで私自身終わりとか許さない……強くなるんだ…強く…強く!!!」
ぶつぶつと呟く私を、彼は珍しげに見つめ出す。
「絶対強くなってやる…強くなってやる…悪霊になろうが絶対に…絶対に……」
『…お前は、強くさえなれば…奴等と同じ存在になってもいいのか?』
「強くなる事…それが私という存在!!!」
吼える様に私は言った。
すると彼は。
『…ッハハハ!』
「何がおかしい」
『意味も理由も無く、純粋に強さを欲しがる人間など、早々いないからな。大抵は誰かを守りたいだの、とにかく快楽に溺れたいだの抜かすものだ……フ、気に入った』
『お前の強さの一部になってやろう』
「…何?」
『お前を仲間にしようとしている悪霊から助けてやるし、窮地に陥ったのならば代わりに戦ってやらなくもない』
「ただし」と付け加え、彼は続ける。
『………封印を、解いた者は、人生を悪霊退治に、捧ぐ事になる。…しかも悪霊がお前に触れすぎた為に、邪気を持つ者を引き寄せる体質に変わった。つまり、お前はその呪縛から永遠に逃れられぬという事…それでもいいか?』
「……ハッ。上等…強くなれるのなら……受け入れてやる! お前もその呪縛も!!」
『……面白い人間だ』
「あれからもう5年だな」
『そんなに経っていたのか?』
「妖怪のお前には、時の流れなんて関係ないもんな」
今、私と彼は心層で他愛の無い話をしている。
かつて出会った、この世界で。
一つだけ違うのは、”大妖怪”としか呼ばれていなかった彼が、私が与えた”虚空”という名を持っている事。
思わず印象で名付けちゃったけど、何故か彼はそれを受け入れた。
「…虚空」
『何だ』
「これからも頼むよ」
『…気が向いたらな』
ハクノセカイニテ―業と邂逅―
「だけどお前の気まぐれさには呆れた」
『忘れたのか? 戦って”やらなくもない”と言ったのだ。それに他の人間など知らぬ』
「……とんだ妖怪だな」
最終更新:2012年09月03日 16:15