その日、
クロウは珍しくメンバーのところにいた。
理由は全く単純なことで、またも脱走を図ったミーネを連れ戻して来た、というだけのことだ。
「まったく……」
あいつは
ホウオウグループの自覚があるのか、と嘆息するクロウ。だがその一方、その在り方を許容しつつある自分にも気が付いていた。これは以前ならば絶対にありえなかったことだ。組織の「歯車」を自認するクロウは、世界の合理化に向け、一切の不確定要素を排除しようとしていた。それが、
ジングウの復帰を境に少しずつ狂って来ている。
(いや)
それは違う、と自答する。
(狂っているわけではない……そう、これが最善なのだ。少なくとも、今、「ここ」では)
そんな彼に、
「クロウ」
「ん?」
いつの間にか現れたルーツが話しかけて来た。何やら深刻そうな表情をしている。
「ちょっといいか? 話があるんだが」
「……ここでは何だ。外で聞こう」
場所を変えて早々、クロウは切り出した。
「話とは?」
「ああ……俺達のことなんだが」
俺達……即ちホウオウグループ。文脈からその在り方に関する話だと見ぬき、クロウの眉根が自然に寄る。
ルーツは言う。
「俺達……本当にこのままでいいのか?」
「……何を今更」
それこそ今更のように、クロウは平然と返す。
「これでいいのか、ではない。これしかないのだ、俺達にはな。世界を合理化する、それが我々の目的だ」
「それはわかる、それはわかってるんだ。ただ、よぉ」
「……何だ?」
妙に落ち着きのないルーツに、クロウは若干怪訝そうな目を向ける。
「総帥……最近、俺達の方に全然指令を寄越さないだろ?」
「そんなことか……総帥はただ、世界の合理化と並行して、独自の目的を進めておられる。それだけだ」
「いや、それもいいんだ。……俺達、本当に総帥の役に立ってるのか?」
問いの内容が、微妙にルーツの本題からずれている。それを認識しつつも、クロウは律儀に返答する。
「大局的に見れば、役には立っているだろう。少なくとも、何らかの意味がある」
「それなら、いいんだが……」
なおも、ルーツの表情からは疑念が消えていない。それを見て取ったクロウは、眼を鋭く細めて切り出した。
「ルーツ。お前の考えを言ってやろうか」
「な、なに?」
「お前は、俺達がグループから丸ごと斬り捨てられたのではないか……そう思っているのだろう」
全く以って図星のようだった。とはいえ、ここまで明確な問いがあれば普通は気づく。
クロウが勘付いたのは、そこではない。
「だが、それは有り得ない。なぜなら、俺達はホウオウグループだからだ。それを切り捨てることは、総帥に取って何のメリットにもならない」
言いながら強引な理屈だ、と思ったが、それ以外に答えが見つからない。それに、クロウ自身、以前から感じていたことがある。
「……しかし、本当の焦点はそこではないかも知れん」
「は?」
唐突な話題転換に目を丸くするルーツだが、クロウは構わず続ける。
「……
シュバルツ。おかしいと思ったことはないか」
「おかしい……?」
そうだ、と一言おく。
「我々ホウオウグループは、世間に認められなかった才能の持ち主の集まりであり、ホウオウという男に共鳴した者の集団であり、その数は100に満たない」
「あ、ああ」
「だが、現実はどうだ? ここに常駐しているメンバーは、判明しているだけでも50人を超えている。明らかに、異常だ」
「た、確かに……けどよ、数が増えること自体は悪くねえだろ? アースセイバーも似たようなもんだしよ」
「そこだ」
疑問符を浮かべるルーツに、クロウは言う。
「気づかないか? ここ最近、能力者の確認数が爆発的に増加している。無所属を含めれば300をゆうに超える。しかも、以前はなかった体系の能力や、人間以外の知的存在、挙句には精神生命体まで存在している。いかにここがいかせのごれとは言え、ここまで『手違い』が続発するものか?」
「そ、そりゃあ……」
「幾度となく総帥の悲願を阻んで来た、あの救世主気取りも、我々の前に全く姿を現さない。奴は確かに、いかせのごれ高校にいる。それは潜入メンバーや、他ならぬ俺自身が確認している。だが、いざ事件が起きた時、なぜか奴は動かない。ブラストルの一件の時でさえ、アースセイバーの精鋭が揃い踏みしたというのに、奴やKEAと言った面子は現れなかった。これはどういうことだ?」
「……………」
言葉を失うルーツ。確かに、あの救世主気取り……
ケイイチが、ホウオウグループである自分達の前に全く現れない。これは明らかにどうかしている。彼ならば、ホウオウグループが動けばすぐに察知するはず。ましてや、ここ最近はストラウル跡地で異常事態が頻発しているうえ、
パニッシャーや
ガルダの暴走も少なくない。それだけの事態にも拘わらず、なぜかケイイチが現れない。
「答えられまい、ルーツ。……そうだ」
「俺達の歩いている『この場所』は、既に総帥たちの歩く場所とは違って来ている」
衝撃的な事実をさらりと口にするクロウ。さらに、彼は続ける。
「お前は知らんだろうが……個人的な知り合いに、『物事の流れを見る』という能力者がいてな。そいつに、今のいかせのごれを見てもらったことがある」
「そ、それで?」
「そいつは仰天して言ったよ」
『なんだ、これは? ……大きな流れが見える……それも二つ? 片方には龍と虎、鳳凰が見える……もう片方には、多くの歪みが見える。これは、なんだ?』
「……つまり?」
「つまり、俺達の道と総帥の道、爆発的に増えた能力者の道とあの救世主気取りの道は、世界という屋根を同じくしながら明確に分かたれている。俺達がホウオウグループとして、アースセイバーの連中とぶつかることはこの先もあるだろう。だが、それは、どちらにとっても現状の維持、あるいは確実だが小さな変化をもたらすに留まるだろう」
「…………」
「そして、総帥は総帥で、あの救世主気取り達とぶつかることになる。それぞれの場所で、それぞれの戦いを続けていくことになる。その先に何が待っているのか、それは俺にはわからない」
だが、と鴉を名乗る男は言う。
「少なくとも、俺達がここにいることには、何らかの意味があるはずだ。この世界に存在する以上、無意味ということはあり得ない」
「………お前は……」
何かを言おうとするルーツを手で制し、クロウは珍しく仏頂面を解く。
「特段、気にし過ぎる必要はない、ということだ。大きな変化が訪れるとするならば、向こうの道からこちらの道へ干渉があるだろう。その時まで、今までどおりのことをやるだけだ」
「……そう、か。さし当り、何をすりゃいい」
「それは……」
言いかけたクロウの耳に、叫び声が聞こえてくる。
「あ、おい! 逃げるな
ミネルヴァ!!」
「あ~っはははは~ッ!」
「…………」
「…………」
盛大に沈黙した後、クロウは握りこぶしを振るわせつつ呟く。
「……あの鳥頭が……今度と言う今度は……!」
「それを言うならお前もそうじゃn」
鴉と闇、世界について語る
(1時間後、そこには)
(無茶苦茶な勢いで雷を落とされるミーネと)
(なぜかボロボロで地面に埋まっているルーツの姿があったとか)
最終更新:2012年09月22日 09:58