「ねぇ、知ってる? 最近、こんな噂があるんだよ?」
「どんな噂?」
「何でもね。ガラクタにしか見えないんだけど九個の道具があって、それがいかせのごれのあっちこっちに散らばってるんだって。それを九個全部集めたら、その人の願い事が叶うんだって」
「ちょっとそれ、どこのドラゴンボール?」
「ドラゴンボールじゃないよ! 最近流行りの都市伝説!」
「ふぅん……だけどそれ、私が聞いたのと違うな」
「え、そうなの?」
「うん。私が聞いたのは――」
――願いを叶えるには、九人の生贄が必要らしいよ?
――・――・――
久々の酒の席。珠女と一緒に飲んでいると、不意に彼女がそう聞いてきた。
「ああ、知ってる。何でも、どんな願いも叶えてくれるらしいの」
「九人の命と引き換えにね。物騒な噂よ、全く。その噂が原因で、どっかの高校で三人殺した馬鹿がいるらしいわ」
「本当かの?」
「うん。全く、迷惑な話よね」
珠女の言葉に、うんうんとタマモは頷いた。
どんな願いを叶えたかったのか知らないが、そんな独り善がりの都合で殺される九人はたまったものではないだろう。命に対して無責任にも程がある。大体が、そんな本当か嘘かも分からない噂に踊らされて殺人を犯すのは愚劣に過ぎる。
「じゃが、逆に言えば、そこまでして叶えたい願いが、その者にはあったと言う事じゃな……」
「あら? タマモったら、そいつに同情するの?」
「同情はせん。されど――他人の命を奪ってまで叶えたい願いがあったとすれば、それはどんな願いだったのだろうか、と思っての」
「そうね。考えもつかないわね、私らには」
「そうじゃの」
それはおそらく、結局自分達が報われた立場、強者の立場に立っているからだろう。他人を思い遣る気持ち、それは紛れも無く強い心から生み出されるものだ。そしてその反対――他者を犠牲にしてでも自らの望みを果たそうとする、その心は強いものに見えて、実際はそれは、手段を選べない弱い心の形なのだから。
「……ねぇ、タマモ」
「うん、なんじゃ?」
珠女の方を向くと、彼女は頬杖を突きながら、おちょこの中身を見つめていた。酒の影響で赤くなった頬や、とろんとした目付きが艶っぽい。
「もし、どんな願いでも叶うとしたら……アンタだったら、何を願う?」
「妾か? 妾なら――」
何を願うだろう。そう思い、顎に手を当てて思考したタマモであったが、
「……何も、望まぬ」
「あ、そう?」
「うむ。今の生活で、十分満足しておるからの」
「あらら、意外に無欲なのね」
「そう言う珠女は、何を望むのだ?」
「んー、私? 私はぁ……」
――嘘だ。
本当は、願いはあった。
叶えたい願い。そう聞かれて、タマモの脳裏を過ったのは一人の女性。
顔立ちは全く同じ。しかし、雰囲気が全く違う。タマモが月光なら、彼女は陽光。タマモの様に妖しげではなく、まるで太陽の様に暖かく笑っている。その笑顔が、タマモは好きだった。
もし、願いが叶うとすれば、自分は――
(……馬鹿な願いじゃ、全く)
自分で自分に嘆息してしまう。こんな事を考えてしまうのはきっと、酔い足りないのだろう。そう思って、タマモは手にした杯を飲み干した。
「飲むぞ、珠女」
「おおっ? 良い飲みっぷり! いいね、飲もう飲もう!」
タマモに触発され、珠女も自分のお猪口に酒を注ぐ。タマモも負けじと、酒を煽り流し込む。
頭に沸いた、想いを忘れようとするように。
(もう一度、かか様の笑顔がみたいなどと……)
<亡き女(ひと)を想う>
(亡い女を想うと書いて、)
(人はそれを妄想と読む)
(人に夢と書いて、)
(人はそれを儚いと読む)
最終更新:2012年12月06日 21:27