とん、とんと足音を響かせながら屋上へと続く階段を上る。
そして、この先に誰もいないことを願い、ゆっくりと扉を開けた。
「やった、だれもいなーい!」
この落ちこぼれ高校のことだ。サボりの一人や二人、この屋上に来ていると思ったが。
どうやら今日は運が良かったらしい。この「屋上」という場所を数十分独り占めである。
謎の高揚感に自然と笑みが零れる。歌でも一つ歌えそうな、幸せな気持ちで屋上へと踊り出る。
ちょうど真ん中辺りまでスキップしながら辿り着くと、ふぅ、と息を吐いた。
いっそこのまま大声でも出してストレス発散でもしようかと考えたが、
どこかの教室の窓が開いていたりでもしたら大変なのでやめておく。
そして、誰もいないということをいいことに、
自分の不思議な「力」について自分の目でもう一度確認してみることにした。
すぅっと右手を前に出す。そして、手のひらに全神経を集中させる。その瞬間。
カカカッ、と何かが「三つ」地面に刺さる音。
目を開けて見てみると、そこにはシャーペンが三本。突き刺さっていた。
「これと、あの数字。関係あったりするのかな」
「何、今の」
「?!」
後ろから聞こえた低い声にユウイは目を見開き肩を跳ねらせ反射的に振り返った。
彼女の後ろにいたのは、グレーのパーカーを深く被った男子生徒。
誰もいないと思っていたのに。
「い、いつからいたんだよ?!」
「お前が来るずっと前からだよ。 ……それより今、手の辺りが光って鋭いモンが飛んだように見えたんだけどなァ」
「…あ、えっと」
床に刺さっているシャーペンを隠したくても隠せず、言い訳も出来ず、ユウイはきょろきょろと視線を泳がせた。
どうにかして、どうにかしてこの状況から抜け出さなくては。
ユウイがうろたえている間にも、パーカーの男はずんずんと近付いてくる。
このままではマズイ、彼女がそう思った、時だった。
パーカーの男が、ユウイに向かって蹴りを入れたのである。
「―――ッ?!」
自分の体に向かって、蹴りが飛んでくる。一瞬ちらりと見えた男の口元は、弧を描いていた。
(や、やだ――当たりたくない、当たりたくない!)
そう強く思うと同時にパン、と頭の中で何かが弾けるのを感じた。
全体に広がる数字の列。様々な公式。様々な記号。
男の動きが酷くゆっくりに感じられる。その男も、やがて数字の束に変わっていった。
こっちに6、そっちに4。それなら―――。
それなら、あっちに2……?
「ん?」
「ッ!」
ブゥン、と蹴りが宙を切る音がした。男の顔からも笑顔が消えた。
(あ、当たらなかった…!)
しかし、安心してほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、今度は正面から拳が飛んでくる。
ユウイはそれを素早く右に避け、続けて繰り出される膝蹴りも避けてみせた。
それを見て、再び男の顔に笑みが広がる。
「お前、やっぱ「一般人」じゃあねぇな?」
「っあ、あんたがどんにゃ…どんな奴か知らないけどっ、剣道部員を舐めないでほしいな…!」
彼女はおそらく「反射神経には自信がある」と言いたいのだろう。
だが彼女の動きは明らかに「普通の人間」がする動きではなかった。
例えるなら、相手の動きを先読みしているような――。
「お前も「あれ」か?」
「……「あれ」?」
「これ」
「あぁあッ?!」
突如として彼女の近くで爆発音がした。思わず両耳を塞いでしゃがみこむ。
威力は加減したようで、怪我することはなかったが…。
おそるおそる耳から手を離し、男を見上げると、左手を宙で振っていた。煙が出ている。
「っは、は――、な、何」
「死んで手に入れたんだけどさ、これ」
「死んで、って……!!」
「お、ビンゴ?」
にぃっとパーカーの男が笑い、瞳が輝いているのがわかった。
ごくり、とユウイは息を呑む。
「へへ、じゃあお前の力がどんなものか、見せ」
「コラーーーーーーー!!」
男が拳を振り上げた瞬間、屋上の扉が勢いよく開き、一人の女性が入ってきた。
赤茶色の髪を一つ結びにした女性の名前は「
十川 若葉」このいかせのごれ高校の教師の一人であり、美人、として有名である。
「何かでっかい音がしたと思ったら…何してんだ
カクマ!ハルナ!」
「いたいっ(こいつカクマっていうんだ)」
「…(こいつハルナっつーのか)」
ぽかんぽかんと二人の頭を叩くワカバ。
ユウイは涙目になったが、カクマの方は痛みも何も感じていないらしく瞬き一つしなかった。
「ったく…さっきの音はなんだったの?」
「ハルナが放屁」
「違います爆竹です!爆竹で遊んでたんです!」
とんでもないことを言われそうだったので、咄嗟に言い訳を考えた。
だが、それは失敗だったらしい。ワカバの顔がみるみるうちに鬼のようになっていく。
「へぇー、授業サボって爆竹、ねぇ…へぇ。中学生か!!」
「いたいっ」
「…(なんで俺まで)」
「さー、二人とも。先生と少しお話しましょーかねぇ」
再び殴られた。更に、二人とも服を掴まれ強引に相談室へと引き摺られていくことになった。
「っくそ、なんで俺まで…。こういうのは飽きたっつーのに」
「なぁ、あんた…カクマだっけ?あんた、こういうの嫌じゃないのか?」
「こういうの、って?」
「だから…変な力、みたいな」
「嫌なわけねーだろ?俺は今までのただの「日常」に飽き飽きしてんだよ」
「……アタシに向かってあんなことしたのは?」
「暇つぶし」
「……」
「んだよその顔」
「二人ともぐちぐちうるさい!反省してんのか!」
「す、すみません…」
「(めんどくせー)」
「異端者」と「異能者」
(変な力手に入れて嬉しい奴もいるんだ。)
(――――変なの。)
最終更新:2012年12月29日 02:53