アットウィキロゴ

ザ・スクールライフ~朱雀と朱鷺in放課後~

あくまで僕の感覚では、だけど、久し振りの学校は少し疲れた。僕が「死んでる」間に母さんは何をやったのか、みんなしてどうした、様子が違った、あれは何だったんだと質問してくる。

都度都度適当に誤魔化して来たけど、そろそろ整合付けるのが怪しくなって来た。こりゃアオイに一働きしてもらうかな?

「んじゃ、また明日なー、鳥さん」
「! あ、ああ」

なんてことを考えてたら、教室から出ていくハヤトに声をかけられた。「鳥さん」、か。
トキコ以外からそう呼ばれたのも何か久しぶりな気がする。ハヤトを見送りつつ、放課後の教室に一人残る。

「……ふー」

何に対してか、溜息が零れた。このいかせのごれ高校に通ってどれくらいになるのか、もうよく覚えていない。学年だけ考えれば2年のはずなんだけど、記憶を探ると明らかにそれ以上の時間が経過している。

「!! うっ、痛ッ……」

ただ、それを考えようとすると途轍もない威力の頭痛が襲って来る。酷い時にはこれで意識を失う事さえある。
前々からこんな兆候はあったけど、原因はさっぱり不明。しかもこれを誰かに相談しようとすると、その場で意識がブラックアウトしてしまう。おかげで今日一日で4回も気絶、その都度玉置先生の世話になるハメになった。
こんな時間に、こんなところで気絶するわけにもいかないから、とりあえずそれ以上考えるのはやめた。

「……あー、疲れた」

頭痛が引いたら、今度は精神的疲労が襲ってきた。椅子に座ったまま、机に頭を投げ出して窓の方を見る。真っ赤に燃える西日が眩しい。
鞄は机にかけてあるけど、今はそれを取って帰る気にならない。もうすぐ門限だっていうのに、全然動く気にならない。

「……帰りたい。けど動きたくなーい……」

我ながらダメダメな台詞だと思うけど、率直な話これが今の本音。正直このまま寝てしまいたい。
けど、残念ながらそれは出来そうになかった。

「あれー? 鳥さん、まだ残ってるの?」

廊下を走る足音が近づいて来たかと思うと、すぐ横でもう聞きなれた声がした。頭を少し持ち上げて顔を反対に向けると、そこにいたのは。

「……なんだ、トキコか」
「なんだはないでしょー。せっかくヒトが心配して来てあげたのに」
「言うよ。どうせ連絡か何かで足止め喰ってて、慌てて帰るところだったんだろ?」

言いきったら固まった。どうやら図星だったらしい。

「ま、いいよ。僕にはあんまり関係ない」
「……関係ない、かな? 私の『連絡』が何かは知ってるでしょ」

そう、僕は知ってる。トキコはホウオウグループのひとり。その『連絡』となれば、アースセイバー……少なくともその協力者にとっては、看過してはならない事態だ。
看過してはならない、のだけど。

「確かにアースセイバーの協力者なら、放っておく理由はないよ」
「……なら」
「けど、僕はあいつらのやり方に一から十まで賛成してるわけじゃない」

そう。僕がアースセイバーに協力しているのは、ただその方が都合がいいから。
曲がりなりにも社会を守る組織に逆らって睨まれるより、非常時に協力して普段の平穏を得る方が大事だからだ。

「だから、お前が誰にどんな連絡をしようと、僕は関知しないよ。わざわざ知らせる義理もないし」
「……私が言うのもなんだけどさ、鳥さん、そんなスタンスで本当に大丈夫? 亀さん、一応そっち側でしょ?」
「ゲンブ? あいつのことはどうでもいいよ。あいつ、僕がお前と付き合うって聞いて何言ったと思う? 関係利用して情報引き出せ、だぞ?」

今思い返してもイラッと来る。要するに、アースセイバーのためにトキコを利用しろって話だからな、アレ。

「見捨てるのもあれだけど、だからって不用意に関わる気はもうないね。こうして暮らす上で必要だから連絡くらいはするけど、それ以上はもう期待しない。結局のところ、あいつは骨の髄まで『あっち側』なんだから」
「……? 鳥、さん……?」

そう。「あっち側」だ。

「……僕はな、トキコ。ホウオウグループの言ってることも、一理あるとは思ってるんだよ」
「!?」

ここからは、僕の話だ。

「やってる事は色々無茶苦茶だし、何としても止めろって言う奴の言い分もよくわかる」
「…………」
「でも、一から十まで否定する気はないよ。少なくとも僕が知る限りでは、賛成できる部分も色々とある」

答えは返らない。僕も求めない。

「僕をこうしたのはUHラボ……逸れ者のバカ達だし、グループ自体にはもう恨みも何もない。仲間になれって言われたらさすがに困るし、破壊活動とかするなら止める。でも、普段お前達がやってることを邪魔もしない」
「鳥さん……」
「……僕はどっちの味方でもないし、敵でもない。それはつまり、両方を敵に回すことと一緒だ」

ただ、今はアースセイバーとは戦っていない、というだけの話。僕としてはこっちからコトを構えるつもりはないけど、向かって来るなら全力で潰す。それだけだ。

「ゲンブは多分、その辺わかって言ってるんだろうな。どっちでもないなら、今の内に自分達の方に引き込もう、って」

けど、それは間違いだ。

「僕は、決めかねてるわけじゃない。自分で考えて、感じて、『どっちでもない』ことを選んだんだ」

身体を起こして椅子を引き、座ったまま正面から向かい合う。あらためて見たトキコは、いつになく真剣な顔をしていた。

「どちらにも賛成できるけど、全部に挙手は出来ない。そして、賛成できる点は、僕がそこにいてもいいと思えるほど、多くもない」
「………」
「だから、僕はこのままでいる。名目の上ではアースセイバーの協力者だから、多分この先ホウオウグループとぶつかることはあると思う」

けど、

「もし、アースセイバーが……ウスワイヤが、僕にとって賛同しかねる存在だったなら……僕は、協力することを止める」
「!」
アキヒロさんがいつか、言ったよ。『能力者に未来があるなら、人間の未来はない』って」
「……人を超える、人でない力を持ってる誰かが大勢いたら、そうでない、普通の人は生きて行けなくなる……」
「そういうことさ。だけど、僕はそれを鵜呑みにする気はない」

それに、もしかすると別の意味を含んでる可能性がある。

「だから、鳥さんは……」
「ああ。これが、僕のスタンスだよ」
「…………」

何を思ったか、トキコが僕の足の上に座って来た。自然、至近距離で目が合う。

「……どうした?」
「……鳥さん、ちゃんと選んだんだね。どうやって生きていくか」
「そうかな。多分、僕は我儘なんだよ。自分の意に沿わないものが嫌いで、だから距離を置いてる。好きな人だけを、近くに置いてる。きっと、そういうことさ」
「……いーよ。それでも私、鳥さんが好き」

抱き締めたその体は、思ったより暖かかった。




すっかり遅くなった帰り道、トキコが口を開いた。

「さっき思ったけどさー」
「?」
「鳥さんって、髪綺麗だよね。それって天然?」

意外なことに、話の内容は髪の毛について。僕にはとんと経験のない美容の話だった。
ちなみに質問に対する答えは用意してある。

「んや、ちゃんと毎晩手入れはしてるよ。ちゃんとムースとか使って……」
「ほへ? ま、毎晩? お手入れ?」
「当然だろ、髪は女の命だからな。……って、何だよその顔」

見ると、トキコはそれこそ、鳩が豆鉄砲でも喰らった、という形容がぴったりの顔であんぐりと口を開けていた。

「……………」
「……おーい?」

呼びかけると、はっ、と我に返った。

「ご、ごめん。……や、鳥さんからそんな台詞が出て来るとは思わなくて」
「……どういうコトだ?」
「そっかそっか、すっかり忘れてた。鳥さんって女の子だったよね」
「……おい」

正直、僕もたまに自分が女だってことを忘れそうになる。髪の手入れはアオイに言われてだいぶ前から始めてたけど、こうして話すまで自覚がすっぽり抜け落ちてた。

「そんな鳥さんとお付き合いしてる私って……」
「言いたいヤツには言わせとけ。僕達は結局、こういう関係さ」
「……ん、そだね」



ザ・スクールライフ~朱雀と朱鷺in放課後~



(ちなみに)
(スザクの髪の手入れとは)



「……あーもう、なによこの櫛の入れ方は、どうやったらこんな形に……もー、ほんっとにスザクはドジなんだから……(ぶつぶつ)」


(概ね、深夜の綾音のフォローによって成り立っている)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年05月02日 21:14