夕暮れの中、畳の上で、ショウゴの父であり鬼英会総長であった九鬼兵一が正座していた。
ああ、またこの夢か。ショウゴは首を振る。
父の声は聞こえない。相変わらず、何かを喋っているが、聞こえない。
いい加減にしてくれ、とショウゴが呟く。
次の瞬間。
「グッ…!?」
激痛に目を見開くと、見慣れた天井が目に入った。
同じ夕暮れでも、場所が違う。世話になっている
出雲寺組の屋敷の中だった。
辺りを見回すと、本格的な治療道具がショウゴの周りにあった。
布団の横ではアスミが座りながら眠りこんでいて、腕を掴んでいる。
ショウゴは痛みをこらえ、首をひねるので精一杯だった。
体は全身が悲鳴を上げていた。
ズキズキと刺すように痛む手足、迂闊に息も出来ない程傷付けられた内蔵。
今にももう一度失神しそうなほどの痛みだったが、壁掛け時計で日時だけは確認する。
ミヅチと戦ってから2日が経過していた。
「クソ…おい、組長さん…、起きてくれ」
かろうじて捻り出した声だが、アスミの眠りは深いのか起きる気配が一向に無い。
「仕方ねぇな…」
ショウゴが脂汗をダラダラと流しながら掴まれていない方の腕を動かすと、アスミの鼻をつまんだ。
数秒後、アスミがバタバタと慌てて起きた。
下手に動くと飛びそうになる意識を何とか繋ぎとめ、ショウゴは状況をアスミから聞いた。
昨日は一度心臓まで止まったらしい。手当は完璧に行なわれていたが、
治癒には時間がかかるという。しかしミズチの期限は悠長に自然回復を待てるような長さでは無かった。
「今日除いてあと…四日か。クソ、どうしろってんだ畜生…」
「…冷静に考えて下さい。あんなのはただの挑発、真に受けてバカを見るだけ損です。
鬼英会と、出雲寺組の精鋭を選りすぐって攻め込むなりなんなり、他にも手立ては沢山ありますよ。」
「それじゃ、筋は通せねぇよ…組長さん、昨日のやり取り、聞いてた、だろ?」
ショウゴは携帯を探りながら言う。
「そんな…死んで花など咲くものではありません、命は大事にすべきです。
それに今の貴方が、どうやって戦いに赴けるというのですか。」
「甘い。この業界は、ぽっくり人が死ぬもんだ。命の重さが…軽いからな。
…ミヅチさんもあながち間違ったことは…。」
ショウゴはそれ以上口に出すのをやめる。探り当てた携帯を操作しながら、アスミに聞いた。
「そういや組長さん…俺は、完全に血が上がっちまって…醜態を晒しちまったが、
あの時、『何に気付いた』んだ?…ぶっちゃけ、俺がミヅチさんと…組手してた時は、
いつもああなんだ…慣れ過ぎてて、わからねぇ。」
ミヅチとの戦闘の最中。ショウゴがキレる前に彼女が「日和物のお嬢さんは、気付いたようですねぇ」
と言っていた事を思い出す。
「ああ、そうです。あの方、もしかして…特殊能力者では?」
「なんだって?」
「動きがおかしかったんです。明らかに。」
頭が冷えている今のショウゴには、ピンと来るものがあった。
「何か、移動系の…能力者?」
「断言はできませんが、能力者の可能性が高いです。」
それ以降、暫く二人は沈黙し、互いに考え込んでいた。
先に口を開いたのはアスミだ。
「ショウゴさん。能力者が相手であるなら、アースセイバーに援護を頼むことができます。」
「お断りだ。それより…すまねぇけども、通話押して、耳元に当てて…くれねぇか」
ショウゴが辛うじて握っていた携帯を受け取ると、アスミが耳に当てる。
「先輩…どうしたんですか!?」
1時間後。ショウゴが眠っている所にやってきたのは
シスイだった。目を白黒させながら尋ねる。
「敵が来た。ショウゴがボコボコにされた。うちの組員も巻き添え食った。以上。」
アキトが簡潔に説明する。彼は出雲寺組員が戦闘の巻き添えを食った事と、ミヅチに出雲寺組を馬鹿にされた事、
ミヅチに手玉に取られた事、ショウゴが目を覚ました時にたまたま看病していたのがアスミだった、という事に
イライラしているらしく、未だに機嫌が悪い。
アスミに代わって看病をしていたリュウザが、ショウゴを起こす。
「グッ…ん、来たかシスイ。」
「電話で『
緊急事態だ、すぐ来てくれ』というから何があったかと思えば…」
「単刀直入に…頼む。お前の能力で、俺の体を…動けるように、してくれねぇか?急がにゃ…ならねぇ。」
「どうして…?」
「頼むぜ、おい。数日後に…リベンジマッチ、しなきゃならねぇってのに…このザマだ。こんなんじゃ、闘えねぇ。」
事情を説明すると、溜息をついてシスイは天子麒麟を発動させた。
「とりあえず、これでどこまで回復できるかなんてわかりませんけど、やれるだけやってみますよ。」
一晩中、ショウゴとシスイはしゃべり続けた。ショウゴは始め喋るのも辛そうであったが、次第に楽になってきたようだ。
時にはリュウザやコトハ、アスミやアキトなどもやってきて話に混ざる。
アースセイバーの事。最近の事件の事。アッシュの事。鬼英会や出雲寺組の事。いかせのごれの世界の事。
そして、今回の事件の事。
そうして、夜が明ける頃には。
「…すげぇな、歩くぐらいは出来るぜ。」
体をふらつかせながらも立ち上がる事ができるようになっていた。
「ね、眠い…」
「すまねぇなシスイ、んでもってありがとう。これだけ回復すりゃ、特訓できるわ。」
シスイだけでなく、眠そうにしていたアキトやアスミ、コトハも目を剥いた。
「その体で何するつもりなの!?」
「つい昨日死にかけたばかりなのよ!?」
「特訓ってお前どういうことだよ!」
脂汗はまだ流れている。それでもショウゴは笑みを受かべて言い放つ。
「座して死を待つほど俺も愚かじゃねぇ。こういう時は多少無茶してでも特訓だ、って相場は決まってるんだよ。」
<ショウゴの目覚めと瀕死回復>
最終更新:2013年05月21日 17:43