アーサーたちが救急車に乗り込み、病院へついた頃。
いかせのごれのとある場所では、二人…正確には片方の後ろにもう一人、合わせて三人が対峙していた。
「………」
「………」
「ふふっ…カチナー、頑張れーっ」
睨み合っているのは、
ホウオウグループの一員である
クロウと、UHラボの元実験体である
カチナ。
カチナの後ろには、UHラボの元研究員であるセラが、命を懸けた戦いをしている二人を観賞している。
その声はこの場に場違いなほど明るく、カチナに声援を送る姿はまるで運動会か何かで我が子の勇姿を見守る親のようだった。
そんなセラの様子に、クロウは苛立ちを募らせる。
「…何のつもりだ」
「いやだなぁ、カチナの晴れ舞台なんだよ?応援しないで何をするのさ」
くすくすと笑いながら、当たり前だろうと言わんばかりの声音で言う。
クロウの殺気を込めた視線も、どこ吹く風のようだ。
「それに、何かしてないと僕暇なんだもん。進展ないしさー」
ぶうぶうと子供のように口を尖らせるセラに、クロウの顔がさらに顰められる。
しかし、セラの言葉もあながち間違ってはいない。
先程からクロウとカチナの戦いは続いているが、お互いに全くダメージを与えられていないのだ。
クロウの攻撃はカチナの相撃ちで相殺され、カチナの攻撃はクロウのイントルーダーによって軌道を逸らされ空振りに終わる。
クロウが何度か隙を突いてセラへ攻撃を試みたが、全てセラの命令を受けたカチナによって阻まれた。
結局、二人とも決定打を与えることができず、膠着状態に陥っているのだ。
「…ねえ、クロウ君。僕も暇じゃないんだ」
「何?」
「カチナにもっともっと色んな勉強をさせてあげないといけないんだ。この子を一人前の兵器にしてあげないといけないんだよ。君も確かに素晴らしいけど…君にだけ構っていても経験値はなかなかたまらないんだ」
ふぅ、と手を組んで小さく息を吐く。
困ったような口調ではあったが、その表情はとても楽しそうに、歪んだ笑顔を浮かべていた。
「まだまだカチナは半人前だからねぇ…僕が手伝ってあげないといけないね。…ね、カチナ?」
名を呼ばれたカチナは、一瞬怯えたように体を強張らせる。
「……カチナ。分かっているね?」
震えるカチナに、もう一度優しく、しかし有無を言わせない強制感を持って、セラが呼びかける。
いつどこから攻撃が来てもいいように、クロウは身構える。
次の瞬間、カチナの持っていた木槌が地面を殴りつけた。
「!?」
地面を殴りつけ、腕を振り上げる衝撃で、砕かれた土が砂埃となって宙を舞う。
10秒も経たないうちに、カチナとクロウの周りは舞い上がった砂と土によって取り囲まれた。
「ちっ…!」
クロウは小さく舌打ちをすると、砂埃の中から抜け出そうと移動する。
幸い砂埃の範囲は狭い。すぐに視界は晴れた―
「!?」
首筋に、ちりっとした痛み。
次の瞬間、クロウの視界は歪み、ぐるりと反転した。
あまりのことに立っていられなくなり、がくりと膝をつく。
「……な……にを、した…!」
「ちょっと動けなくなってもらったよ。このまま始末しちゃってもいいんだけど、それじゃあカチナの勉強にならないしね」
楽しそうに笑うセラが、クロウを見下ろす。
歯を食い縛ってセラを睨みつけるが、その視界はぐわんぐわんと揺れ続け、とてもまともに相手を見ていられる状況ではなかった。
「ごめんね。また今度、一緒に遊ぼう?その時までに、カチナを一人前にしておくからさ」
7年前と
同じように高らかに笑うと、セラはクロウを残し、カチナを伴って姿を消した。
街中の人通りの少ない路地。
セラとカチナは、そこを歩いていた。
セラは途中、どこかからかかってきた電話に出て話をしている。
「借してもらったあれ、役に立ったよ。やっぱり君らに頼んで正解だったねぇ」
「え?見返り?…やだなぁ、分かってる分かってる。君らの『お手伝い』をすればいいんだろ?いつもみたいに」
「その代わり、いい子がいたら殺さないで僕に頂戴?カチナのお友達にしたいんだ…」
「ふふ…じゃあ、いつもの時間に、いつもの場所でね」
その言葉を最後に、通話は途切れた。
狂おしき毒牙
「…狂っているのは、お互い様だろう?」
(心底楽しそうな笑顔で誰にともなくそう呟いた)
最終更新:2013年05月30日 10:50