「主、久しぶりに本を読みませんか。」
堅く閉じられた扉越しに、
カイムは声をかけた。その手には原稿が数枚。彼自身がしたためたものだ。
「…どうですか?」
「駄目ですね。ここにいるのは違いありませんが、反応がありません。」
「そうですか…」
心配する撫子が溜息を吐く。
「いっそ扉を無理やり開けるとか。」
「そんな横暴なことできませんよ…。でも、そうでもしないと開きそうにありませんね。」
キリが消えたと報告が入ってから、春美は自室に籠りきりである。
彼女さえ先導をとれば一つにまとまることができるというのに、そんな元気は彼女にはなかった。
二人が並んで考えていると、騒ぎを聞きつけて寺院に戻っていた月光が二人を見つけた。
「カイム殿、撫子殿。春美殿の様子は?」
「一貫して変わりはないようです。」
「そうがか…。まぁ、無理もないぜよ。」
「彼女がいなければ今回の計画を実行に移せないわけですが…。」
「ん…。仕方ないぜよ。」
月光はカイムから原稿を取り上げると、扉を引いた。
鍵の掛ってない扉は案外あっさり開き、布団を被った春美が見えた。
そうよ、そうよ。
医者なんて皆そんなもの。
助かる命も助からないと切り捨てる。
私が信じていた彼だって、そうだった。
そうだと分かっているのに。
どうしてこんなに胸苦しいの?
罪悪感に苛まれるの?
彼は、本当にキリを見捨てたの?
違う。
違うって信じたい。
あの、お化けが嫌いで、強気に見せかけて、実は心優しいあの怪盗は。
私から信頼を盗んだりなんかしないって信じたい。
信じたいのにどうして。
信じられないのはどうしてこんなに苦しいの。
誰か助けてよ。
誰か、誰か。
誰でもいいの。
そう。
例え奇跡が起きて、あいつが違うって言ってくれるとしても。
戸惑う、惑う
最終更新:2013年06月25日 00:10