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色のない森

「ついたー!」
「……だ、だいぶ、距離あるんだね…」

ふぅっ、と息を吐き涼しい表情をしたフミヤの後ろから、ぜぇぜぇと息を切らした袖子がやってくる。
急に動かしすぎてがくがくと震える足を、両手で落ち着かせつつ息を整えた。

「袖子、大丈夫?」
「だいじょうぶ…」
「ねーさん、体力ないね」
「うるさいな!」

「…で、ここで何をするんだ?」

これまた涼しい顔をしてやってきた二人、亮と静葉。
「睨んでいる」と言われても仕方がないような瞳で、静葉はフミヤを見つめた。
にぃ、とフミヤは笑うと、

「えっとね、化け物を探す!」
「化け物だと?」
「ちょっと、恐い顔しないの、静葉」

「そうなんだ、ここ最近、「この森で化け物を見た」だとか「恐ろしい声が聞こえる」とかいうウワサが絶えないんだよね。
今のところ死人とかは出てないみたいなんだけれど…警察やら何やらがここに手を出す前になんとか調べておきたくて。」
「ウチも立場上、いかせのごれの異変について放っておくようなことはできないから…」



「……命に関わるようなことがあれば、すぐに帰らせてもらうぞ」
「その時はおれ達だって逃げるさー。なぁに、今まで死人は出てないって言ったろ?だぁーいじょーぶだって!
さー!『色のない森へ入りますよー!みなさーん!』」

まるで観光名所を案内するのお姉さんのように、片手を上げて森へと入っていくフミヤ。
何があっても変わらないその彼の態度に、静葉は大きな溜め息をついた。

「あいつは、なんだってあんなにテンションが高いんだ…?」


――――・――――・――――


森の中を歩き回ること数十分。
彼らの探す「化け物」とやらは、一向に姿を現さなかった。
「色のない森」と言われているこの場所だが、今のところ色がなくなっているところはない。
見えているのは、どこまでも続く緑の道。そう、どこまでも続いている。


―――異変に真っ先に気が付いたのは、亮だった。


「…おかしいな」
「どうした?」
「さっきから景色が全く変わっていない気がする」
「森なんだから、そう思うのは当たり前じゃないか?」
「いや、でも、なんか…」
「私も、そんな気がするわ」

………?

「ウェ?!」
「誰だお前?!」
「っうわあびっくりした!君は…」
「こんにちは、お兄さん」
「え、だれ?」

いつの間にか化け物を探し隊に紛れ込んでいたのは青い髪と無機質な目付きが特徴な「夜波マナ」だった。

「おれがこの間レストランに行った時に知り合った子さ」
「……夜波マナです。よろしく」

マナは静かな声で袖子を初めとする四人に挨拶をする。
そしてくるりと背を向けると、森をきょろきょろと見渡し始めた。

「……だめね、気配は感じるのに、先に行けない…」
「君は、どうしてここに?」

マナは振り返らずに答える。

「……一つは、貴方が心配だったから。貴方みたいなヒトは早死にする。絶対」

うへぁ、とフミヤが間抜けな声をあげる。
その隣で袖子がうんうんと頷き、亮、静葉、成見も「あぁ、確かに…」と言いたげな表情を見せた。


「そしてもう一つは、この先に私の友達がいるから」

「ともだち?」
「俺達以外にも、ここに来ている奴らがいるのか?」
「えぇ、とてもたくさん。その中に…私の友達がいる。とても、大切な」

「助けないと…大変なことになる、きっと。 一人で抱え込んで、一人で壊れていくような子なの」

「そう……じゃあさっさとこのループの謎を解いて、先に行かないとだね?」
「そうね」

けど、とマナが小さな声で言う。

「こんな現象…一体、どうすれば」
「あ、猫だー!おいでおいで」

マナの呟きをかき消すように、野良猫を見つけた亮が、嬉しそうに声を上げながら猫に近付こうとする。
しかしそれを、成見が止めた。何故だか、その手は震えている。

「…なんだか、様子が変だ…」

直後、猫がふらふらと揺れ、それから地面に伏した。立ち上がろうとすることはなく、ぴくぴくと痙攣している。

「―――――!」

その瞬間に、見えた。見えてしまった。成見は見てしまった。
この猫に何が起こったのか。……この先に、何がいるのか。

「う、……」
「成見くん、どうしたの?!」

突然頭を抱えこみ座り込んでしまった成見の肩を抱き、亮は顔を覗き込む。
成見は頭を押さえたまま、顔を上げようとはしない。見たくもない「過去」の出来事が、流れ込んでくる。

――独りでに動く植物の蔓が、猫を絞め殺している光景――

「みんな…!」

片手で頭を押さえながら、成見は立ち上がった。
顔色が悪い。少々大人びてはいるが、それでも12歳の少年だ。精神的にくるものがあるのだろう。

「ここから、動かない方がいい…この先にいったら、きっとみんな死ぬ――!」

「死ぬ」…その言葉にフミヤたちは凍りついた。
ぐ、と拳を握り締め、今にも殴りかかりそうな勢いで静葉はフミヤに近付いた。

「フミヤ!お前、前に一度此処に来たと言っていたな?!
どういうことだ?!お前まさか…最初から俺達を騙して――!」
「いや、おれが前に来たときにはこんなことなかった!道がループするなんてこともね。」
「……私も、こんなことになるだなんて聞いたことがないわ」

このいかせのごれの情報を全てと言っていいほど把握しているマナでさえわからないこと。
フミヤは苦笑いしながら軽く「は」と息を吐くと、

「…どうやらおれ達、とんでもないことに巻き込まれてるみたいだね…」


(とにかく、ナニカを怒らせたりしないようにここで大人しくしているしかない、か…?)


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最終更新:2013年06月25日 00:14