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振り返らずに

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『私はね、ニンゲンが大嫌いだったんだ』

「え…どうして」

『自分勝手で、何もかも破壊して…』

「………」

『でも、それは私達ニンゲンじゃないものも、同じだ』

「!」

『そうだな、確かに、皆同じなのかもしれない。この世に生まれれば。生きていれば…』

「うん、そうだよ!」

『君は――あの子によく似ている』

「…あの子――?」

―――――――――
今朝の星座占いは見ていないが、きっと今日の双子座は最下位だったと思う。
授業は毎回当たるし、好きなパンは売り切れるし、部活ではいい一本が入らないし。
朝は妙な旅人と出会うし、弟が「色のない森」のことを言いふらすせいでクラスの皆から質問攻めにあうし。

「疲れた…」

この言葉を発するのは人生何度目だろうか。口から魂が出て行きそうだ。
きっと自分の次の死因は過労死だろうな、と苦笑する。
お風呂上りで濡れた髪を乱暴にタオルで拭きながら自室へと向かう。
その途中で弟、譲の部屋の前を通る。今日は部屋の扉が開けっ放しになっていた。
そこで、部屋の中にあるとある一枚の絵が気になった。

「ゆーちゃんこの絵まだ飾ってたんだ」

壁に掛けられていたのは、ふわふわとした羊が緑の中で元気に走り回っている絵だった。
たしか、自分と弟が幼い頃に父親が描いたものであったはずだ。
そういえば、ユズリが描いて欲しいと父親に頼んだんだっけ。
寝れない寝れない、と弟が号泣していたのを今でも覚えている。

「…でもどうして羊なんだ?」

眠れない時は羊を数えればいい、という話からだっただろうか。
―――いや違う。もっと、もっと違う理由からだ。

『……っ、あの、ね…ひっく、あいたいの…』
『おー、泣くな泣くな、ほら、何に会いたいんだ?とーちゃんが描いてやるから』

「いッ―――!!?」

昔を思い出した途端、頭痛が走った。頭が割れるように痛む。
ごおん、ごおん、と低い音が頭の中で響く。揺らす。

「う………」
きもち、わるい。
はやく、部屋に行ってねてしまおう。
晩御飯はあまり食べなかった。お風呂はいつもより30分ほど長めに入って母親に怒られた。
いつも欠かさずしている木刀の素振り100本も今日は出来なかった。立ち上がる気すら起きなかった。
ユウイの心とは正反対に、空には雲一つなく星が輝いていた。
(どうして、貴方の心はそんなに曇っているの)
(そんなの、しったことか)
明日は土曜日だ。幸い部活もない。よかった、明日は一日中寝ていられる。
そんな喜びに包まれ、ユウイは夢の世界へと誘われていった。


「ここ、は…」

気が付くと、自分は湖の上に一人で立っていた。少し歩くと水の跳ねる音がする。
どうして水の中に落ちないのだろう?此処は、夢か?そうか、夢か。
周りには何もない。ただ、白い空と青い湖が広がっているだけだ。
ぱしゃぱしゃと水の音を立てながら歩いていると、いつの間に現れたのか、遠くに白い人が自分と同じように佇んでいた。

「あなたが、そう――「あなた」、なのね」

白い人――長い白髪に、花の髪飾りを付けた女性は振り返り、ユウイに向かって微笑んだ。

「ごめんなさい、こんなところに呼び出したりして でも、どうしても伝えたいことがあって」
「伝えたいこと?」
「あの人を、ヤハトを救って…!」
「ヤハト?誰だよ、それ」
「お願いよ、私ではどうにもならない。私では…」
「さっきから、なんのことだよ!!」
「あなたしかいないの、彼を救えるのは…」
「………」
「勝手なのはわかってる、でも、あなたの力が必要なの。…お願い、「色のない森」へ――」
「色のない森…」
「大丈夫、私が道案内をするわ」

そこで、世界が、黒く染まった。


「ハッ?!」

目を覚まし急いで起き上がって部屋の床を見た。良かった、ただの床だ。湖なんかじゃあない。

(なんだったんだ、さっきの…)

湖、白い女性、ヤハト、色のない、森。

(――――――!)

「……行かなきゃ…!」

夢の中、いや、あれはきっと夢であって夢じゃない。
あの女性が自分に話してくれたことを思い出す。「貴方にしかできないこと」。
自分にしかできないことがあるならば、自分以外に誰がやるというのか。
あれだけ嫌々言っておいて、随分と身勝手な話だと思う。けれど――。
はやく、はやく「あの場所」に向かわなければ。

「ゆーちゃん!」
「あ、姉貴ッ?!なんで竹刀袋…今日、部活休みじゃ」
「行こう――「色のない森」に!」



外に出ると、見覚えのある二人が。

「ユウイ、ユズリッ!」
「凪!リオトも、どうして?!」
「昨日ユズリが言っていたことが気になってな…本当に行ってないか不安になって、来てしまった」

ふ、と凪はクールに笑う。
リオトは何も言わなかったが、きっとユウイの身を案じてここまで来たのだろう。

「――やっぱり、行くのか?」
「…うん、行かなきゃいけない、そんな気がする」

凪は最初こそ納得のいかないような顔をしていたが、やがてユウイの頭をぽん、と叩き。

「なら、私も行こう。噂はただの噂だとは思うが…心配なのだよ」
「! で、でも…」
「いいから。人数は多ければ多い方がいいだろう?」
「……ありがとう、凪――!」

一方、ユズリの方は、外に出てからずっとリオトと睨み合いを続けていた。

「なんで、リオ兄が来てんだよ」
「ユウイのことが心配になったから。じゃ、だめか?」
「あぁダメだね。なんてったって、そっちは」
「おい、二人とも、喧嘩するな」

ギロリと凪が二人に睨みをきかせる。少し、その場の温度が下がったような気がする。
なにはともあれ――頼もしい仲間が増えた。

「…よし、行こう!」

(何があっても、迷わずに進め)
(そう、背中を押された気がした)


振り返らずに


――――――――

『どう、かしら。初めて作ったのだけれど…』

「…悪くない」

『よかったぁ~!』

「…うまいと、思う」

『えっ…』

「いや…、う、うまい」

『…め、珍しいね、ヤハトが褒めてくれるなんて』

「…うるさいな」

『お母さんにね、教えて貰ったの。私のお母さん、アップルパイ作るのスゴーク上手で――』

「………」

『あっ…ご、ごめんねっ。嫌、だった?このハナシ…』

「…いいや、そんなことはないよ」

『で、も』

「いいから。もっと、そっちの世界の話を聞かせてくれ。」

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最終更新:2013年03月28日 20:27