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<ショウゴの特訓と合同練習。>

ウミネコに連れられて、私とヒロヤは小汚い道場にやってきた。

「んで?ついこの間まで軍にいた私を鍛え直す、というのはどういうこと?このバカならまだしも。」

まだ道場には誰も来ておらず、ウミネコに対して不満をぶつけた。

「バカっていうな。」
「うるせーよバカ」
「喧嘩すんなアンジェラ、ヒロヤ。
文字通りだ。軍隊での戦闘経験があるのは危険に巻き込まれた時大きなアドバンテージになる。
それは間違いないよ、だが」

振り向きざまに睨まれる。

「ここはいかせのごれだ。外の軍隊での『常識』が通用するとは限らない場所だ。だから鍛える。そういうことだ。」
「そうそう簡単に負けることはないと思うけどなぁ。」
「…まぁいい。これからの訓練で嫌ってほど教えてやるから覚悟しな」

そういうとウミネコは黙って腕組みをし、こっちを見なかった。

私は海外の軍隊で、戦闘訓練を受けてきた。
血を吐きそうになる事など何度もあった。
厳しい訓練に裏付けられた自信がある。
そしてその経験と自信によって戦い抜いて勝利してきた戦績がある。
正直、今回の訓練にも不満だった。まるで私達が――

「お、来たな。」
「よう、早いな。そいつらは?」

明らかに不調、といった体でやってきた男がウミネコに話しかける。ウミネコは、

「修行に混ぜようと思ってね。ショウゴの戦闘スタイルに似てる奴らだ。
ちょいと鍛えてやろうと思ってたんだが、丁度いいから切磋琢磨してくれ。シスイは?」
「野暮用だとよ。後から来るとさ。」
「ふーん、そうかい。んじゃ三人ともストレッチ。トレーニング量は昨日の3分の4な、
アンジェラとヒロヤは昨日ショウゴがやった分。」

修行が、始まった。







「ちょ、ちょっとこのメニュー、多くない…?」

黒板に書き出された練習メニューを見てヒロヤが後ずさる。アンジェラも正直驚いた。

「回数よりも種目の幅の広さね…。こりゃ本腰入れてやらないと。」
「おいおいお二人さん、コレの後の戦闘訓練がメインだからな?宜しく頼むぜ。俺はショウゴだ。」
「…私はアンジェラ。こいつはヒロヤ。よろしく。」

互いに軽い挨拶を交わすと、トレーニングを始めた。

そして。

「ぶはー、あ、ありえんこの量…昨日ほんとにこなしたんですかショウゴさん?」
「おう。息も絶え絶えにな。昨日よりかマシとはいえ、つれーわ…。」
「つーか遅れてきたくせに平然とこなして追いついてきたアンタは何?」
「シスイだ、俺の名前は。能力を使用しながらだから、ペースも上がるさ。
先輩は昨日は僕のペースに引きずられたから息も絶え絶えになったんでしょーが。」

休憩中、肩で息をしながら話していた。ヒロヤは大の字に寝転がっているし、
ショウゴは胡坐をかいて座っていた。

「それにしてもショウゴさん、調子はだいぶ良くなったみたいですね…。」

体の動きは痛みをこらえているように不自然で、柔道着の下に巻かれた包帯とテーピングが
下着かと思う程の量を巻かれていたのが見えていた。そのためアンジェラはシスイの言葉に驚いた。

「え、この人これで『良くなった』の!?」
「二日前は起き上がる事どころか這って動く事すら微妙だったなぁ…。
天子麒麟の能力の副産物で回復力が上がったとはいえ、滅茶苦茶ですよねショウゴ先輩。」
「うるせー、俺の事をビックリドッキリ人間みたいに言うなや。気合だ気合。」
「ようし、その気合とやらで次は模擬戦だショウゴ。昨日よりはまともな戦いを見せてくれるんだよな?」

ぎくりとショウゴが後ろを見ると、そこにはウミネコが。

「なんだかんだ言っても今回ショウゴの修行が第一目標だからな。
アンジェラ、シスイ、ヒロヤの順にショウゴと戦ってもらう。
ヒロヤの得物と戦闘スタイル的にはここのような広く隠れる場所の無い場所でのタイマンは闘いづらいだろうが、
明日障害物を用意してそういう訓練を行うから。」



ショウゴとアンジェラがのろのろと立ち上がると、各々の方法で気を引き締めていく。

アンジェラは、太股のホルスターに入った銃を抜き、スライドを引いて模擬弾を確認すると、
いつでも発砲できるような状態にしてホルスターに戻した。
腰に着いているナイフを取り出し訓練用のガードを嵌めると、これもまた抜きやすいように腰に戻した。

一方ショウゴは、柔道着の帯を解いて締め直し、帯にリボルバーを2つ差した。
よくよく見ると種類の違うリボルバー拳銃で、しかもモデルガンだ。
あんな骨董銃のおもちゃで何をしようというのか、とアンジェラは思ってしまう。

二人が道場の真ん中に立つ。ショウゴが頭を下げてアンジェラは一瞬ぽかんとした。
武道の礼と気付かず、慌ててアンジェラも頭を下げる。

そして、二人はぶつかった。
ショウゴが一瞬で左腰のSAAに手をかける。
アンジェラはそれがモデルガンだとわかっていても、戦場の癖でつい射線を逃れるようにショウゴの右側へと走った。

結果的にはこれが功を奏し、ショウゴの撃った弾は後方へ流れていった。
腰だめで構えているため、体ごと捻らないとアンジェラの動きに追いつかない。
抜き撃ちの初撃こそ早かったものの、6発の速射は距離を詰めたアンジェラに有効打を与える事にはならなかった。

が、アンジェラは

「ふざけんな見た目はおもちゃの癖に改造モデルガンとかなんだそれ詐欺か警察に捕まれ果てろ!」

と両手に拳銃を構えショウゴの眼前に突きだして引き金を引き絞った。
一瞬早くショウゴが、SAAの撃鉄を起こしていた右手を跳ね上げアンジェラの腕も跳ね上げたため、
銃弾はあさっての方向に飛んでいく。

アンジェラは銃撃を諦め、足を跳ね上げる。反射的にショウゴの右胴を蹴った。

ショウゴは右からの蹴りを耐えて足を掴みに行くが、
足を掴んで振り回そうとした時にアンジェラは跳んで掴まれていない足を頭に合わせた。

受けきれず倒れるショウゴ。一緒にアンジェラも巻き込まれる。
倒れながらも銃を互いに向け合い、射線を奪い合い外し合いながら撃ち合う。

やがてアンジェラは弾が切れ、油断なく立ち上がると弾倉交換を行った。
ショウゴも立ち上がると弾倉交換を――

「なっ!?」

せずに、アンジェラに突っ込んできた。
もうすでにショウゴのリボルバーは弾を撃ち尽くしているハズだ。
弾倉交換は済んだものの、薬室に初弾を込められないままアンジェラは近接戦を続行した。

オートマチックの拳銃は発射ガスの反動により次弾を装填する仕組みであるため、
熟練の兵士や歴戦の戦士は薬室に一発残った状態で弾倉交換をするものである。
アンジェラも勿論この技術は体得していたが、さすがに至近距離での戦闘において
この技術が咄嗟に出来なかったからと責められない。
その一発で勝敗・生死が分かれる事も有るからだ。
だが今回、この判断が仇となり拳銃が封じられた。かくなる上は…

役に立たない拳銃を上へ投げるとナイフを掴み、抜く反動でショウゴのタックルに合わせ頭を打ち抜いた。
柄の一撃はこめかみに吸い込まれるように当たり、ショウゴの目が泳いだ。
落ちてきた銃を掴み取り、ショウゴがふらついている間にスライドを引くと、

「チェックメイト。」

額に銃口を当てた。







「なんだぁ、強そうだったけど案外見かけ倒しじゃない。
 怪我してるのもあるのかしらね?ウミネコさん、これで私の番はおわr」

ズッ、と硬い感触がアンジェラの腹に押し付けられ、アンジェラは視線を戻す。
弾切れのはずのSAAを、頭を射線からずらし膝を付きながらニヤリと押し付けているショウゴの姿がそこにはあった。

回避が間に合わず、腹に1発食らう。空気の塊だろうか、実体としての弾は無かった。
連続で、無制限に、ショウゴは撃鉄を起こし撃ち続ける。が、

「しつこい、果てろ、このやろ!」

下に躱してショウゴの真下に滑り込むと、顎を爪先で蹴った。

ショウゴがのけぞり、壁にぶつかったところでようやくウミネコから「そこまで!」と声がかかり、
アンジェラはホッとした。


シスイとショウゴが闘っている様子を見て、ようやくウミネコの真意が掴めてきた。

そうなのだ、ここはいかせのごれ。非常識が常識たりえる摩訶不思議な土地。
ここで起こる現象全てに理屈が通るとは限らない土地。
『弾丸が撃ち尽くされたなんてどうして言えるのか。』
そう、今までの常識だけではない、様々な可能性を考慮せねばならないという事、
つまりはどんな些細な油断、慢心さえも命取りになるという事。

丁度、ショウゴがシスイの打撃の手数に対応できず掴んだ手を利用され引き寄せられ吹き飛ばされた所で、
アンジェラはそう思った。
どう考えても人間離れした速さと威力を扱うシスイも、
そのシスイ相手に2戦目にして善戦するショウゴのタフさにも、
アンジェラは『外』の常識のみで測れない事を再認識したのだった。
『まるで認められていないかのような』?
いいやそうではない。
事実ショウゴ相手に一発喰らったのだ。
真剣に取り組まねば、このいかせのごれで沈んでしまう。
より一層気を引き締めねば。



「私が勝った相手に負けんなよ」
「お前アレ勝ったって言うのかよ…。」
「うるせぇ果てろ。大体私まだ本気出してないしー」
「ンだとコラ。」

3戦目。ヒロヤにとっては正直闘いづらい…とウミネコが言っていた。
確かにそうなのかもしれない。では、敵を近づけないような戦法をとろう。そう思った。

ヒロヤは他人の意見を無条件に受け入れる傾向がある。
それは自らに自信がない為であるが、別に自分の意志まで預けているわけじゃない。
模擬弾を詰めた重機関銃に装弾すると、ヒロヤは構えた。

ショウゴは息を整えながら、両腰の銃に弾を込めている。
アンジェラとシスイの2連戦で相当消耗したらしく、
汗はダラダラと流れ、足元はふらついている。だがこれはそういう訓練だ。

ウミネコの合図と共に、斜め後方へジグザグと跳び下がって距離をとる。
ショウゴは横へ飛び、射線を逃れるように回り込もうとしてくる。

重機関銃のトリガーを引き絞る。横薙ぎ一閃、銃弾はショウゴの胴体に…

「んなっ!?」

刺さらない。ふらりと倒れるように伏せたショウゴは、間一髪で弾を避ける。
すかさずヒロヤは横へ走りながら照準を戻すが、ショウゴの照準が一瞬早かった。
持っていた重機関銃の銃身に模擬弾が当たり、ヒロヤは使用不能と判断して放り投げる。

投げ捨てるという選択肢に、ショウゴの動きが一瞬固まった。
その隙に今度はSMGへ持ち変える。
1分間に千発以上の弾をばら撒く銃だが、わざと散らばるように撃った。

銃を扱う戦闘で距離と遮蔽物を盗られると、スピード勝負になる。
ヒロヤ達のような玄人ならば猶更であり、その僅かな差が命取りになる。
荒野の決闘であろうがジャングルでのゲリラ戦であろうがそれは変わらない。

よし勝った、ヒロヤはそう思った。

ただ、今回は、ショウゴが障害物を『作った』。

姿が一瞬隠れた。いいや違う、畳を捲って壁を作ったのだった。
模擬弾でなければいともたやすく撃ち抜けただろうが、ビスビスビスという音と共に弾かれた。
そんなの有りかよ、と思いちらりとウミネコの方を見るが、何も言わない。有効、とみなされたようだ。

目を逸らしている間に、畳が目前に迫っていた。ヤバい、体当たりを食らう。
そう思い撃ち尽くしたSMGから拳銃へ持ち替え、横へ飛ぼうとしたら、一瞬早く畳が飛んできた。

何をされたのか分からなかったが、急加速され飛んできた畳を蹴り落とした所で謎が解けた。

足を上げ蹴り落としたヒロヤと同じ体勢をショウゴもとっていたのだ。
そう、驚いた事に、畳を蹴って飛ばしていたのだった。

ショウゴの右手には既にリボルバーが握られている。
ヒロヤの右手にも拳銃が握られている。
躊躇わず、二人とも引き金を絞る。
足を動かそうとするが、後退し距離をとろうとするヒロヤと間合いを詰めようとするショウゴでは、
前進と後退という特性と先制という一瞬の差で、ショウゴの方が早かった。

だが。

初弾がヒロヤを外す。ショウゴはあろうことか…ヒロヤが放り投げた重機関銃に躓いたのだった。

次々に発射される弾丸はそのどれもがヒロヤから逸れていく。

倒れながらでは照準も定まるまい。スローにも感じるその転倒に…ヒロヤは、正確かつ冷静にトリガーを絞った。








「今回も酷い結果だなぁ、ショウゴ?」

倒れたままのショウゴに、ウミネコが言い放つ。
シスイ達は一旦水分補給に自販機へ行っている。

「歯車、そうまるで空転した歯車だよ今のショウゴは。悉く戦い方が空回りしてる。気付いてないの?」

「ああ、気付いてる…気付いてるんだが、どうにもうまくハマらねぇ。これがスランプってやつなのかね…」

のろのろとうつ伏せの状態から立ち上がる。疲れ切りフラフラとしてはいるが、
体幹はしっかりとしており余計な力が抜けている。
今までショウゴの積み重ねてきた基礎、基本、素の戦い方がすこしづつ出てきている。
だからこそウミネコには分かった。

「ショウゴ…あんたさぁ、何か足りてないんじゃあないかい?」

ハッキリ言ってウミネコは苛立っていた。苛立ちの原因は、その足りないものにある。
ウミネコはそう感じた。

「何も言わずに訓練に付き合ってくれ、って言われたけど、やっぱり気になってきたわ。
 なんであんたはいきなり訓練してくれなんて言い出したんだ?」

「…。」

ショウゴは何も言わない。

「今日の模擬戦だって、戦い方自体は悪くない。
 アンジェラとの時は見事なガンカタだったし、不意を衝いて戦況をひっくり返そうとしたよね。
 シスイ戦は銃に拘らず体術だけで受け切り反撃しようとしてたし。
 ヒロヤ戦に至っては前に進み続けて間合いを自分のものにしようとしていたでしょ?
 戦い方自体は悪くない。アンタは弱いわけじゃない。だが、」

一旦言葉を切る。

「足りてない。何かが。だからアンジェラにも潜り込まれて叩きつけられたし、
 シスイの手数に押し切られたし、ヒロヤの重機関銃に躓いた。
 しかも、アンジェラ達は本気の力をまだ出してない。」

ショウゴは顔を背ける。

「なぁ、ショウゴ…あんた一体どうしたいんだ。強くなりたいの?
 訓練したという事実が欲しいの?頑張ったねと言う言葉でも貰いたいの?
 …こっちを見ろ、ショウゴ!」

感情を押し殺したショウゴの無表情が、ウミネコに振り返った。
悔しさや苛立ち、そういったものを押し殺した表情だった。

「…悪いウミネコ。俺は強くならなきゃいけねぇんだ。これからある戦いの為に。」

「詳しい事情を話すつもりはないのかい?」

ショウゴは諦めたかのように、ポツリポツリと話し始めた。




「つまり…纏めると、アンタはヤクザの隠し子で、親父さんと妹と組員が敵にやられたと。」

「…。」

「死んだと思っていた妹が生きている可能性をチラつかされたと。」

「ああ。」

「自分だけでなく鬼英会や出雲寺組までコケにされたと。」

「…ああ。」

「汚名返上する為にその知り合いをブッ倒さにゃならんと。」

「…。」

ウミネコは深い深い溜息を吐いた。

「ショウゴ、アンタ…いや、何も言わない。今日はもういい頃合いだし、訓練終了だ。
 明日以降は…そうね、アンタがどうして勝てないのか、何が足りないのか、
 そのあたりをキチンと理解したら呼びな。それまで私は顔を出さないしシスイ達も違う所で訓練させる。」

「…あ?」

「わかんないのかい。わかんないから『スランプ』なんて言葉が出るんだよ。考えな、理解しな。
 それが出来なきゃ先になんて進めるか。」

気付いているが明言しない。言ってやるのは簡単だが、本人が自覚し行動しなければ先へと進むことはない。

「3人とも戻ってきたみたいだ。今日の所はこれでおしまいだ。」


呆然とした表情で。
ショウゴは一人、柔道場に残された。

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最終更新:2013年07月03日 16:08