《ひーまー。キング構ってー》
「後にしてください」
《えー》
機械じみたような声に答える、白衣の少年。
一瞬、チラリと向けていた視線の先は大きなモニター。
液晶の中で、オーバーオールを着た少年が、暇人の顔でくるくると回っている。
ただその少年は人間じゃないようで、青い目は人間の生気を持たず、足は脛辺りから消えていた。
《キングだって、どうせ暇人の癖に》
白衣の少年をキングと呼ぶ、電子世界の生命体。
名前は
エレクタ、という。
「それは昔の話です」
《ねーつまんないよー。する事ないよー》
「
クロウで遊べばいいでしょう」
《飽きた!》
「さいですか」
と言いつつ、退屈そうなジングウの目は、書類を見ている。
すると、何かを思いついたように、彼は口を開いた。
「……旅に出掛ければいいのでは?」
《旅?》
「ええ、旅です。電子の世界の」
《旅……旅、かあ。うん、楽しそう!》
電子少年の顔がぱあっと明るくなった。
「ただし、夜までには戻って来て下さいね」
《えー。何でそんな、良い子は暗くなる前に帰りましょうみたいな》
「あの鴉に感付かれてみなさい。小言を聞かされるのは私なんですよ」
《むー…分かったよ》
「あ、後、念のために言っときますが……自分の身分を明かさないように」
《はいはーい》
その瞬間、エレクタの姿が消えた。
「……いってらっしゃい」
文字コードの羅列柱と光る海。
数多の部屋を繋ぎ止めるネットワーク、蜘蛛の糸。
情報が、止めどなく押し寄せ、溢れていく。
これがエレクタの目に映る、電子の世界。
「ふっふっふ~ん♪」
そんな空間の宙を飛び、時にはくるりと回りながら、エレクタは電子欲の旅を楽しむ。
個人ホームページ、ネット掲示板、百科辞典サイト。
あらゆる場所を練り歩いた。
「同族がいたりしないかな~。……無いか」
いくら特殊能力が溢れる地でも、この世界で生きる命は滅多に無い。
現に今まで出逢ったことがないのだ。
「ま、仕方ないかー!」
適当に部屋を出入りしては、青い文字列を楽しむ。
と、ちょうど百個目の時だった。
「……アレ?」
視界に、ヒトらしき形のものが入った。
目を擦ってみたが、異常でも幻覚でもなく、本当にヒトがいる。
よく見ると、ツインテールの女の子だった。
(まさか、本当に……?)
好奇心で満たされる心。
エレクタはそれに近寄って行った。
やがて、少女が彼に気付く。
少女の顔も、エレクタと同じ、驚きと期待が混ざっている。
お互いを無言で見つる時間が流れ、ようやく少女の方から話し出した。
「ど…どちら様ですかっ?」
「ぼくちん? エレクタ!」
「エレクタさん…ですね! うわあ~まさか仲間がいるなんて!」
「ぼくちんもビックリー! 嬉しいな~」
跳ねるように舞うエレクタ。
「あっ、名前も言わずに失礼しました! 私はアイって言います!」
「アイ? 一緒だ!」
「一緒?」
「知り合いにね、同じ名前の人いるんだ~!」
ジングウに釘を押されたにも関わらず、
ホウオウグループの情報を流す。
しかしエレクタは「名前くらい大丈夫」と、深く考えることはない。
「そうなんですか! 是非お会いしてみたいですねー」
「うーん……でも最近は、どこにいるから分かんないから、無理だと思うよ~」
「ありゃ、それは残念……」
「それより、アイはどうやって生まれたの?」
「そうですねー……簡潔に言えば、実験でしょうか」
「わあ! ぼくちんも似たようなものだよー!」
「おおっ! 共通点多いですね~」
笑い合う二人。
「因みにですね。私はこの世界の生物ではあるんですけど、普通に外にも行けちゃうんです! 実体化して!」
「外って……現実世界?」
「その通り! ついでに、ネットで落とした服着たり、別の姿に変身も出来ちゃいます」
そう言って、アイはドヤ顔を決めた。
それを見たエレクタは、何故だかプッと吹き出してしまう。
「む、何で吹き出すんですか!」
「ごめんみ! 何だかおかしくって~。あはは」
「おかしいって、失礼な!」
と口は言うが、彼女もどこか楽しそうだ。
「実はぼくちんも、昔は外に出れたんだ~」
「昔…ってことは、今は出来ないんですか?」
「そうだね~。ホログラム化なら出来るけど、あまり電子機器から離れられないんだー。実体は無いまんまだし」
ジャージの余った袖を振る。
「でも別にいいんだ! あっち好きじゃないし」
「どうしてですか?」
「だって、現実世界はさ! 痛くなったり、傷ついたり、辛かったりするでしょ? ぼくちん、そういうの嫌!」
「あー……確かに、そうですね。でも…」
と、笑みを浮かべるアイ。
「あっちはあっちで、楽しい事やステキな事いっぱいありますよ! それに、こっちには無い、人の温もりが感じられますし!」
「温もり……かあ」
エレクタの脳裏に、同じドグマシックスズの仲間が映る。
その時だけ、透ける薄っぺらな体が恨めしくなった。
それでも本音を押し込んで、
「でもやっぱり、痛いのやだな!」
「ありゃありゃ。そんなんじゃあ、見た目どころか、中身も女の子みたいになっちゃいますよ~」
「み……見た目、って!! それ、ぼくちんがそう見えるって事ー!?」
「あははは。すいません~」
「謝ってるようで謝ってないでしょー!」
頬を膨らませ、エレクタは笑いながら逃げるアイをポカポカ叩いた。
二人のエレクトロソウル
最終更新:2013年07月27日 12:07