時間を遡る事、数十分前――
「――何時まで、そうしているつもりですか」
部屋の入り口に立ち、その中に向かって
ジングウは言った。
部屋の中にあるのは、ハンガーに固定されたバイオレンスドラゴンだ。明かりの無い薄闇の中で、それは物言わず彫像の様に、そこに立っている。
「…………」
「戦況は分かっている筈です。聞いて、理解している筈です」
部屋の隅にはスピーカーがあり、そこから音が聞こえて来る。彼らがいる場所から少し離れた場所で行われている、ムカイと
千年王国との戦いの音だ。
「貴方が戦わなければ、皆が死んでしまいます。貴方は、それでもいいのですか?」
「……何で、僕なんですか」
薄闇の中から返事がした。バイオレンスドラゴンの足元で、何かが動いた様な気がした。
「ジングウさんが行けばいいじゃないですか……ジングウさんの方が、僕の何倍も強いじゃないですか……」
「ええ、そうですね。私は確かに、貴方より強い」
「だったら――」
「でも、バイオレンスドラゴンを動かせるのは貴方だけだ」
「…………っ」
「魔蟲は強い。私の能力では、おそらく倒す事は出来ないでしょう。仮に魔蟲を倒せたとしても、後にはまだムカイのバイオアーマーが控えています。彼らを破れるのはバイオレンスドラゴンだけであり、それを動かせる貴方だけなんです」
「……僕じゃ、無理ですよ……」
涙声だった。ぐすっ、と鼻をすする音も聞こえる。
「一人で戦う事も出来ない。バイオレンスドラゴンをうまく操る事も出来ない。僕じゃ、戦っても勝てませんよ……」
「いいえ。この戦いに勝てるのは貴方だけです」
「何でなんですか……何でジングウさんは、僕に戦う事を強要するんですか……」
しばらくの間、すすり泣く声が室内に響く。
「僕みたいな弱い人間に戦わせて、貴方は何がしたいんですか……」
「……私にはこの世で一番許せない事が、一つだけあります」
「…………?」
「それは、優れた才能を持っているにも関わらず、それを腐らせて終わる人間です」
静かな、それでいてはっきりとした口調で、ジングウは言い放った。
「戦う才能を持つにも関わらず、戦おうとしない者。学ぶ才能を持つにも関わらず、学ぼうとしない者。他者を助ける才能を持つにも関わらず、その様に生きない者……そう言った「怠け者」が、私は一番大嫌いだ。輝く宝石をその身に宿らせていながら、その価値に気付く事も無く死んでいく愚か者共が、私は一番許せない」
「……ジングウさんは、僕に戦う才能があるって言うんですか……? だから僕に、戦えって言うんですか……?」
「いいえ。残念ながら、貴方には戦う才能は無い――ですが、それとは別の才能があります」
「別の……才能……?」
薄闇の中で、バイオレンスドラゴンの足元にいる者が、顔を上げたような気がした。
「思い出しなさい、花丸さん。貴方の才能を。貴方の異能を。貴方が生まれ持った、貴方だけの、誰にも負けないたった一つのチカラを」
≪キミだけの力≫
「僕だけの……チカラ……」
(薄闇の中で、花丸は自分の手を見る)
(脳裏に浮かぶのは、ミツが言い掛けていたあの言葉)
(それはまだ分からないが、)
(しかし、自分が戦えばみんなが助かるのなら)
(だったらもう一度、勇気を振り絞ってみようと思った)
最終更新:2013年09月10日 20:45