「う――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
『W――Ooooooooooooooooo!!!!!!!!』
バイオレンスドラゴンが、花丸が雄叫びを上げる。掴まれた魔蟲の両腕部が、ミチミチと音を立てながら引き千切られていく。
「GYAaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」
魔蟲が奇声を上げる。それは悲鳴にも似た声だった。そうはさせまいとするように、魔蟲は胴体から伸びた大クワガタの顎で、ドラゴンの身体を押さえ付ける。
「く――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
しかし、それも抵抗らしい抵抗にならずに終わる。ドラゴンが魔蟲の両腕から手を離し、大あごを掴んで力を込める。バキリ、と言う骨の折れた様な音が聞こえた。まるで割り箸でもへし折るような容易さだった。
「GyAaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」
魔蟲の両腕に備わった刃が、バイオレンスドラゴンへと襲い掛かる――かわせない! 二つの刃はバイオレンスドラゴンの両肩を切り裂き、食い込んだ。
「Gi――!?」
しかし、そこまでだった。食い込んだ刃が動かない。魔蟲が引き抜こうと力を込めても、それは微動だ一つしない。盛り上がったドラゴンの筋肉が、刃を絡め取って押さえ込んでいる。
「――捕まえた」
魔蟲の目の前で、ギラリとバイオレンスドラゴンの眼が輝く。その瞬間、本来は感情を持たない筈の魔蟲が、まるで恐怖に驚くようにのけ反った。
右アッパー。魔蟲の頭部を捉え、下から粉々に打ち砕いた。
続けてボディーブロー。魔蟲の身体の中でもっとも柔らかい腹部を打ち据え、炸裂した威力が内臓を破裂させる。
力にだけ頼る者は、より強大な力によって滅ぼされる。
まさしく、その通りと言うべきか。
千年王国が束になって勝てなかった魔蟲が、更に強大な力を持つバイオレンスドラゴンによって成す術も無く蹂躙されていく。その光景を、周りの者はただ茫然と見つめていた。
「はぁ……はぁ……」
コクピットの中から、花丸は魔蟲を見下ろしていた。
見るも無残な有り様だった。ほとんど無抵抗に殴られ続け、その全身はぐちゃぐちゃに潰れている。装甲こそ形を留めているが、外部から受けた威力を軽減しきれず、内蔵は完全に潰れてしまっている。
「う――うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
堪えきれず、花丸は嘔吐していた。バイオレンスドラゴンの体液に満たされたコクピット内に、黄色い吐瀉物が漂う。
「ぜぇ……ぜぇ……」
酷い。非道い。ヒドイ。
ここが戦場。これが、戦うと言う事。
お互いの生死を賭けて戦う、惨たらしく、不条理で、無慈悲な世界。
ああ、確かに、花丸は戦う事には向いていない。
なぜなら、彼は他の命を奪う覚悟が無い。魔蟲を殺したのだって、不本意に違いないだろう。それを止める方法が殺す以外に無かっただけであり、もし殺さずに動きを止められたのであれば、そちらを選んでいたであろう。確かに彼には、
ジングウの言う通り、戦う才能は無かった。
「――アバベルゼ、ファイナルモード」
「!?」
ドラゴンの聴覚が、その声を捉えた。瞬間、ドラゴンの足元に倒れている魔蟲の死骸が起き上がった。花丸が驚くのにも構わず、それはドラゴンの身体に絡み付く。
「魔蟲の体内熱量が増大している――!?」
ドラゴンの全身に絡み付いた魔蟲の身体が、赤く発熱し、煙を上げ始めた。それがただならぬ事であるのだと、誰が見ても気付けただろう。もっと詳しい者が見ていれば、それがいわゆる「自爆モード」であった事も。
魔蟲の身体は、ドラゴンの関節部分を狙って絡み付いている。力づくで振り解こうとするが、間に合わない。
「せめて、みんなを巻き込まないようにしないと……」
無理矢理翼を展開し、ドラゴンの身体を空へと運ぶ。だが、絡み付いた魔蟲のせいで、うまくバランスを取る事が出来ない。五十メートル程飛行したところでコントロールを失い、墜落するように森の中へと落ちる。巨体が地面の上を滑り、木々を薙ぎ倒しながら停止した。
その、次の瞬間、
爆発と閃光が、バイオレンスドラゴンを包み込んだ。
――・――・――
『……ほう。あの爆発に耐え切れたのか』
クレーター状に抉れた爆心地に降り立つと、その中心に彫像の様に立つバイオレンスドラゴンを見てムカイは少し驚く様に呟いた。
『溶鉱炉を生み出す位の熱量は与えていた筈なんだが……』
ムカイの言葉を裏付けるように、クレーター内はそこに存在していたすべてのモノが焼き尽くされていた。木は炭と化し、土は融解して赤くなっている。大気は高温と化し、ゆうに百度は超えていた。まさしく、魔蟲の最後の咆哮が生み出した、死の世界だった。
『だが、如何に外側が頑丈とは言っても、中身までは果たして無事でいられるかな?』
バイオアーマーを纏ったムカイが、灼熱の中を歩いて行く。それに対して、ドラゴンは立ち尽くしたまま動かない。
『……ふん、死んだか』
マスクの下で、ムカイは嘲笑を浮かべた。
だが、
『う……』
微かであるが、声が聞こえた。若い、少年の声が。強化装甲服特有の、くぐもった声だ。
『ほう、まだ息があったか』
『ム……カイ……コクジュ……』
『あの時の少年が、まさかこんな物を纏って現れるとはな。それ程、私に敗れたのが悔しかったか?』
『…………』
『それとも、DSX‐001の仇でも取るつもりか』
バイオレンスドラゴンを前にして、ムカイには余裕があった。魔蟲を苦も無く屠る姿を彼も見ていた筈であろうが、しかし今のドラゴンから先程までの覇気を感じない。彼の言うように、外装は無事でも、パイロットである花丸が受けた衝撃はとてつもなかった筈だ。これならば自分のバイオアーマーでも倒せる。こう確信しての事だ。
『な……で……』
『ん?』
『何で……こんな、事を……』
『…………?』
花丸の言葉の意味が分からず、ムカイは首を傾げる。マスクの下にある表情は、「こいつは一体何を言っているんだ?」と小馬鹿にしてすらいた。
『貴方には、聞こえないんですか……この子達の声が……痛い、痛いって、言ってるのに……みんな、熱い熱いって言いながら死んでいったのに……それなのに……』
『……聞こえませんね、そんな声』
『…………!』
『この蟲達は皆、私の作品です。私が生み出した。言うなれば私は、彼らの創造主です。創造物が創造主に従うのは、当然の事でしょう』
『……貴方には聞こえないのか……この子達の声が。蟲達の声が、叫びが、嘆きが、苦悶が! 貴方は誰よりも、この子達の傍にいるのにっ!!』
『生物兵器は生き物ではなく道具です。貴方だって「使っている側」の人間でしょう? 何をそんな、偽善者の様に……』
『……違う』
花丸の胸に、燃えるモノがあった。自分にもまだ、こんなモノがあったんだと驚く程の熱さ。今、花丸にもはっきりと認識出来た。
目の前の男は敵である。そして、自分にとって見紛う事の無い『悪』なのだと。
『違う、それは違う! 生物兵器だって生き物だ! 兵器として生まれただけで、生き物に違いは無い!』
『だからどうした。結局のところ、命を玩んでいる事に変わりはないではないか』
『違う! 貴方と僕らは全然違う。だって――貴方は命に、これっぽっちも敬意を払っていないじゃないか!』
花丸は知っている。
確かにジングウは、命を自由に生み出して作り変えてしまう。そうやって彼は今まで、いくつもの生物兵器を生み出してきた。色んな命を、玩んできた。
だが彼は、何時だってそうやって生まれてきた命を一つだって軽んじる事は無かった。生きている命を、「生きている」と言う事実を、彼は大切にしていた。
花丸だってそうだ。
彼は生物兵器に限らず、どんな生き物とも友達でありたいと接していた。目の前の生き物が、ただの道具などと一度だって思った事が無かった。
そうじゃなければ、デルヴァイ・ツァロストが破壊された時だって、
フェンリルが傷付いた時だって――コハナがいなくなった時だって、悲しんだりなどしない。涙を流したりなどしない。
『敬意……敬意、だと? くく、くはははははははは!!! そんなものを、一体どうして払うと言うのだ! たかが道具に、たかが手足に!』
花丸の言葉を、ムカイは鼻で嗤った。
彼にしてみれば当然だ。昆虫型生物兵器の最大の特徴は、その量産性の高さである。「その気になればいくらでも生み出せる命」に、一体どうして敬意を払えると言うのだろう。
『大量に生み出し、大量に消費する! 使い捨ての道具にいちいち敬意など払えるか!』
『…………――ッ!!!!』
許せない。許してはいけない。
この男の思想を。この男の所業(おこない)を。この男の在り方を。自分は絶対に許容出来ない。
この男はここで、絶対に倒す。
『貴方は――僕が倒す!』
バイオレンスドラゴンの眼に光が宿る。赤い輝きはまるで、花丸の激情を映すかのようだ。
『勝負だ、ムカイ・コクジュッ!!』
『良いだろう! 私の最高傑作で相手をしてやる! 君も出来そこないの人形と同じ運命を辿るが良い!』
≪D×D≫
(対峙する一対の、)
(装甲と装甲)
(意思と意志)
(人造魔と人造竜)
(勝つのは、虐げられた者の野望か、)
(それとも、すべてを奪われた者の願いか)
――to be Conthinued
最終更新:2013年09月15日 07:14