次日。道場にて。
ショウゴは再び相対する。
ショウゴはニヤリと笑いながら挑発する。
「昨日までの俺とは違う、二人一緒にかかってきな。
…言っておくが銃はそっちのアドバンテージにならねぇぜ?」
「言うじゃない、この前の時はあんなにコテンパンだったのに。
私はこんな足手纏いと組む必要はないわ。」
「いい加減にしろよアンジェラ。気を抜いてやられかけただろ、この前は。」
「ああん?果てろクソゴミ男」
「んだと爆ぜろスカタン妹!」
勝手にヒートアップするこの二人に挑発はいらなかったかもしれない。
既に道場には障害物の段ボールや板などが設置されていた。
「おい、アホ兄妹。そろそろ始めるぞ。」
「「誰がアホ兄妹だ!」」「果てろ!」「爆ぜろ!」
仲のいい兄弟だ、と思いながら腰だめに銃を抜いた。即座に二人は別方向へと駆け出す。
罵りながらも息の合った動きに感心しつつ、ショウゴも障害物へと隠れた。
ウミネコはショウゴの言動を注意深く観察していた。
そんなウミネコに
シスイが話しかける。
「ショウゴさん、憑き物が落ちたというかなんというか…」
「…。」
「少し変わりましたよね。吹っ切れたというか。」
海猫は観察しながらも何かを考え込んでいるようで、シスイの話も半分くらいしか聞いて無いようだった。
「ああ。」
「何か心配でも?」
「いや、ちょっとな…。」
「なんで?なんで当たらないんだ!?」
アンジェラの悲鳴がヒロヤに届く。
相変わらず前衛を彼女に任せ、後衛をヒロヤが担当していたのだが、
障害物にうまく隠れるショウゴを捉えられずにいた。
ショウゴが障害物から銃を向ける瞬間を狙って狙撃も試したが、当たらない。
いや、当たった感触はあるのだが、降参しないのだ。銃弾のあたり判定は申告制で、
ルールに対してきちんと守るのが前提である。
ましてや頭に血が上ったアンジェラならともかく、ショウゴがルールを破るとは思えない。
「何か仕掛けがあるのか…?」
「いやいや、大した仕掛けじゃないよ。」
「なっ!?」
いつの間にかショウゴが後ろに立っていた。
隠れたと思っていたが、回り込まれていたことには気づいていなかった。
障害物をうまく使ったらしい。
咄嗟に持っていたアサルトライフルをショウゴへ向けて放りつつ障害物を乗り越え、距離をとろうと遠ざかった。
もちろん短機関銃を抜いておくことも忘れず、その場へ弾をばら撒いた。
一般人や訓練の積んでいないテロリストであれば、この動きに対応できる人間はほぼいないだろう。
熟練の兵士でさえ怪しいものだ。
しかしショウゴは動じない。
迷わずライフルを掴むと横に跳びながら発砲してきた。
そこにアンジェラが割り込んでくる。
格闘になり、アサルトライフルを器用に振りながらアンジェラのガンカタをいなして崩して邪魔をする。
「くっそコノヤロさっさと果てろ!」
なかなか当たらない事にイラついてきた時だ。
「!?」
いきなりショウゴの姿が消えた。
(いや、これは!?)
「下だアンジェラ!」
ショウゴが寝そべりこちらへ銃口を向けていた。次の瞬間。
銃声と共に、バサッ、という羽音が轟いた。
「危ない危ない、しかしこの姿になったからにゃもうあんたに勝ち目はないよ」
先ほどまでとは一人分上の位置にアンジェラは浮いていた。
いや、正確には背中から生えた黒いガラスのような翼で羽ばたき、飛んでいた。
「この姿でならアンタも楽に倒せるよ。
ホントは使いたくなかったんだけど、やっぱ手抜くのはダメよね。」
冷や汗も乾かないうちにニヤリと笑うアンジェラ。
「ついてこれるかしら!?」
着地すると再び銃を構える。
ショウゴは俯くとクックックと肩を揺らした。
「面白れぇ、『ついてこれるか』ね、こりゃ良い前哨戦になりそうだ。」
ショウゴがふらりと体をひねったところを、ヒロヤの支援弾幕が横切る。
同時に先刻よりも速いスピードでアンジェラが突っ込んでいた。
接近戦闘になる前にショウゴは拡散弾を撃つ。
拡散する前に上へ回避し、スピードを落とすこと無く突っ込んでくるアンジェラ。
ショウゴは排莢し銃に弾を一発詰める。アンジェラの「飛び」蹴りをかわし、追撃に銃を構えようとして、
すっぽ抜けた。
その決定的なミスを勿論アンジェラは見逃さない。
「いただきよ!」
ショウゴの銃を咄嗟に奪うと、トリガーを引き絞る。
轟音とともに、皆の目が驚きに満ちた。
まごう事無き実弾の音に。
その弾丸がショウゴの銃から放たれた事に。
銃弾を掴むように伸ばしたショウゴの腕が、吹っ飛んだと思ったら瞬時に元に戻ったことに。
アンジェラは呆然と立ち尽くす。
ヒロヤは構えを崩した。
シスイは飛び出しかけ、
ウミネコはシスイの裾を掴んで引き戻す。
「…どうした?効かないと言っただろ、銃弾は。
俺はなぁ、一度死んでるんだよ。ナイトメアアナボリズムっつーのを持っている。これはその証明だ。
もう一度言うぞ、『銃は効かねぇ』。分かったらホレ、かかってこい。」
突然の事に動揺したのもあるだろう。
急に戦法を変えることも少なくない戦場で戦ってきたアンジェラだが、銃が効かないというのは厄介だった。
勿論ヒロヤにも言える事で、苦戦を強いられる事になる。
アンジェラは戦法を切り替え、ガラスのような黒い羽による攻撃と、ヒットアンドアウエイを高速移動しながら行い、
ヒロヤはショック弾で気絶させる戦法に出た。
だが。
やがてアンジェラが降参を叫び、粘ったヒロヤもギブアップを宣言した。
2戦目。シスイ対ショウゴ。
「シスイ、本気で戦ってくれ。」
突然の申し出に、シスイは困惑する。
「本気って…手を抜いてはいないですよ?」
ショウゴは首を振りながら答える。
「天子麒麟じゃねぇ、天士麒麟だ。天装を見せてくれ。」
「そんな…あれは、そうそう簡単に使うものじゃ」
「シスイ。…これが見えるか。これは実弾だ。お前との模擬戦にこれを使う。意味は分かるな?」
「!?」
「俺はお前を殺す気でやる。お前も本気で来い、シスイ。」
言い終わるか終らないか。そのタイミングで、ショウゴが発砲する。
シスイの後ろに置いてあった鉄の的に、ヒビすら入らない穴が開く。
「っ!」
シスイは遮蔽物を移動しながら、考える。
(今日の先輩…明らかに何かが変だ!早めに止めなくちゃ、危なくないか…!?)
チラリとウミネコを見たら、ウミネコもこちらを見ていた。
(構わん、やれ)
ウミネコの目はそう伝えてきた。
ええい、考えても仕方ない、先輩を止めよう、とシスイは若干自棄になりつつも詠唱を始める。
「――其は、四天の中心に座したる天帝の証」
障害物を乗り越え、更にショウゴを中心として円を描くように、銃弾の雨を回避していく。
「目覚めよ、黄道の獣。汝が往くは、王の道」
肩を銃弾が掠め、風切り音が耳を打つ。そして…
「我、護国の剣と成りて――魑魅魍魎を打ち破らんッ!!」
最後の一言と共に、シスイの動きが変わった。
十数分後。
「…満足ですか、先輩。」
大の字に寝転ぶ二人の姿がそこにはあった。
障害物はほぼ全てが吹き飛び四散し粉々になっていた。
シスイは大汗をかきながら、ショウゴの方を見る。
「…まさか、先輩が『デッドエボリュート』を使えるようになっているとは。」
シスイよりもボロボロになりながらも、ショウゴはニヤリと笑った。
「おう、満足だ。予想通りでもあった。ありがとよ、お前のおかげで俺は『弾を込められた』。」
「装備」は整った。「覚悟」も整った。残すのは「時」と「場」、そして。
「敵」。
最終更新:2013年12月02日 19:29