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3年前との決別(仮)

親愛なるホウオウ

僕は、巣立ちを決意しました。

決して、裏切りなどではありません。

でも、僕はもっと広い世界がみたいのです。

今までありがとうございました。

そして、これからもお元気で。

貴方の健康を心から祈って
           ノルン

「あれ、あの龍は…;」
「どう見てもホウオウの生物兵器だな、うん。首筋にマークはいってる。」
「ちょ、何呑気にしてるがか!丁度「怪盗狩り」の時間じゃし、早く止めないと…!」
「いいんだよ。あいつを止めるのは、私らじゃない。」
「でもこのままじゃと街に…!」
「…たく、しゃーねーなぁ…。」

彼女は生物兵器を睨む。
その瞬間、生物兵器はビクリと反応し、そのまま倒れ込んだ。
「…これでしばらく大丈夫だろ。」
彼女は立ち上がった。

「こいつにとどめをさすのは、「あの人」なんだからよ…。」





その日、レストランに轟音が響いた。
その音に驚いた店長、由衣、奏は、慌てて外に飛び出す。

見上げるほどの生物兵器。
大きさこそ違えど、その姿に、店長は見覚えがあった。
いや、それどころではない。
かつて、店長が最大の後悔を残した、忘れられない生物兵器。

「3年前の事件」の生物兵器だった。

「姉さん!?危ないだろ、外に出てちゃ!」
遠くから誰か走ってくる。
KEA!どうしてここに…。」
「どうしてもこうしても、出動命令が出されたんだよ!」
最悪だ、と、店長は唇をかんだ。
なんでよりによってKEAなんだと。
なんでよりによって「この子」がいるんだ…と。

「ホウオウの野郎…どこまでも卑劣な…!」
店長の意志がKEAにも通じたのだろう。舌打ちをしながら悔しそうに声を上げる。
一方、由衣と奏はなにが起こっているのかさっぱり分からず、黙って成り行きを見守っている。
KEAは店長の肩をつかんだ。
「姉さん!これは緊急事態だ!またあの時みたいにぶっ飛ばして…。」
「…無理だ。」
「姉さん…?」

「忘れたのか?3年前も、私だけじゃ全く歯が立たなかったろうが。これは以前の数倍は大きさがある。強さも比例してるはずだよ。」
「でも、俺たちがやらないで誰が…。」
「私は3年前に戦線離脱してるんだよ。」
「それをまだ引きずってるのかよ!今はそれどころじゃ…!」
上から振り下ろされる爪に反射的に気がつき、KEAが咄嗟にだした幻龍剣で防いだ。
「!?」
その光景に、由衣と奏が驚く。
能力者の存在を知らないわけではなかったが、龍義真拳を初めてみたのだ。驚きを隠せないのも当然である。

「ぐっ…;」
流石のKEAでも重いのだろう。横に弾いてなんとかかわしたが、手が震えている。
「姉さん!そこの女の子二人任せた!」
それだけ叫び、KEAは突っ込んだ。
「KEA!!」
呼びとめる声を振り切り、KEAは果敢に生物兵器と戦う。
何もできない店長は、二人を連れて建物の陰に隠れた。

「おい!KEAを放っておいていいのかよ!」
「よかないわよ!でも、私たちの力じゃどうしようも…。」
「…店長、いつもの店長じゃないみたい…。」
奏が小さく呟いた。
「奏…?」





「いつもの店長は、どんな時でも笑って飛ばすみたいな余裕とか、的確に判断する冷静さとか、そういうのが感じられるはずなんです。なのに今の店長は焦ってて…なんだか…。」
「…私も同感だ、店長。」

由衣は立ち上がった。慌てて店長が止める。
「何する気!?」
「戦うんだよ、私も。生憎能力の応用の仕方ははっきりわかっちゃいないけどな。」
店長の手を振り払い、由衣は建物の陰から出た。

「あんたっ…、能力者ってばれたらウスワイヤに搬送なんだぞ!」
「自分の事情なんて二の次に決まってんだろ。…私が初めて守りたいと思った場所なんだしな。」
「っ…!」

両手を下に構える。
そこから黒い砂のようなものが現れ、形作っていく。
出来上がったのは無数の鉄柱。過去、由衣がみた「倉庫の惨劇」の鉄柱そのものである。
「いっけぇ!!」
前方に大きく振るう。鉄柱が一斉に飛んで行き、生物兵器に次々と当たっていく。
見た限りダメージにはつながってないようだが、攻撃の軌道を反らせることができた。

当然KEAは由衣の方を見る。
「お前…!?」
「へっ、悪いな。あんたばっかりに良い顔させてたまるかっての!」
軽く笑い飛ばすと、また両手に黒い砂…砂鉄を集めていく。
今度は形が出来上がる前に爪が振り下ろされた。
「危な…っ!」
KEAが飛び出すのを横目に見ながら、由衣は鉄の塊を振り上げた。

頭上すれすれで止まる爪。
その間にあるのは巨大な剣だった。
両手剣より大きいであろうその剣を、由衣は片手で軽々と持ち上げる。これもナイアナの力なのか。
「…っだりゃぁ!!」
大きく弧を描き爪を弾くと、一度間をとった。

「由衣、お前能力者だったのか!?」
「ずいぶん前からな。気付いたのはつい最近の話だけど。」
由衣は大剣を担ぐ。
「でもKEAのも初めてみて吃驚した。強いんだな、それ。」
「たりめーだろ。弱かったらあいつも救世主やってねぇし;」

二人が会話してる間にも、奏の視線は生物兵器に向いていた。
弾かれたために傷ついた爪を見る。あの大剣でやられたのだ。掠っただけでも相当深い。
しかし。みるみるうちにその傷がふさがっていくではないか。
「え…!?」
完全にふさがるまであっという間のことだった。
爪が治るのをみとめると、再びそれを振り上げた。
「お姉ちゃん!!」

後ろから飛び出す白く淡く光る縄。
生物兵器を絡め取ると、そのまま引き上げて間をとらせた。
「…。」
「奏、あんた無意識に能力を…。」
店長が呟く。当の奏は放心していた。





「…はぁ、姉妹そろってナイトメアアナボライザーか;どう報告するかな;」
KEAは頭をかいた。が、直ぐに生物兵器を見、突っ込んでいった。
「龍精落!!」
両手から放たれた光の球は、真っすぐに生物兵器の腕を貫いた。
巨大な腕は、激しく土ぼこりを上げて地面に落ちた。
「よし、これで幾分有利に…?」

ところが、腕が千切れた部分から直ぐに蘇生しだしたのだ。
そして、ものすごい速さで元の腕が生えてきた。
「なんだよこれ!前の時はそんな性能なかったのに!」
「蘇生能力…まさか…!」
傍観していた店長の顔が更に青ざめる。当然だ。あれは間違いなく…。

生物兵器は咆哮一つあげると、大きく口を開け、火炎を放った。
3年前からかなり性能が上がっている証拠だろう。
「店長!!」
「姉さん!」
その炎は、真っすぐにレストランへと――!

耳に響く、独特の音。
それに眼を開けると、今までいなかったはずの少女が、右腕を上げて立ちはだかっていた。
上へと逸れる炎を見上げ、店長は名前を呟いていた。
「…マナ…。」
「…スザクもきてる。騒ぎ、聞き付けたって。」
「えっ?」

前を見ると、由衣達をかばうようにスザクがたっていた。
「あんたたち、何時の間に…。」
「…言っておくが、「助太刀」に来ただけだから。」
幻龍剣を取り出し、スザクは言った。

「分かってるはずだろう、あれが「誰」なのか。そして、誰があれを止めなきゃいけないか。」
「!」
彼女は店長を見た。
「店長…いや、亜音さん。戦線復帰してください。」
「…でも私は、アキヒロさんに…。」

「したくないんでしょ、後悔。」
「!!」
気がつけば、全員が店長を見ていた。

「久しぶりに暴れちまいなよ!」
「私を更生させた力だろ?負けるわけないってw」
「そうですよ。いつもの強い店長さん、みたいです!」
「責任は私たちがとる。だから…。」
「皆がいるんだ。怖くなんかないよな?」

「…皆…、ありがとう…。」
泣きたいのをこらえ、店長…いや、楠原亜音は立ち上がった。

力に耐えきれず、縄が引き裂かれる。
自由になった腕を古い、亜音に真っすぐその爪を振り下ろした。
対する亜音は微動だにせず、その爪を見…。

「素手で」しかも「片腕で」受け止めた。

「「「「!?」」」」
由衣、奏はもちろん、生物兵器も、更にはスザクも、その力に驚いた。
異常なまでの力を持つ生物兵器に、何の抵抗もなく片手で相手をしている。
「…。」
軽くはじき、正拳突き。それだけで生物兵器を後ろに動かした。

「…あれが姉さんの「始まりの能力」…。」
KEAが呟いた。3年前まで一緒に戦ってた仲だ。知らないわけがない。
「「ナイトメアアナボリズム:強力の悪夢」。正確にいえば、そっちの方が後からついたわけだが、先に発動させたことで、「人体移動」の存在に気がついた。」
「…店長に何があったんだ?」
由衣がおそるおそる問う。KEAは由衣を見ると言った。
「「人体移動」は生まれた時から持っていた。そして、ある事件で姉さんの家族が殺されたとき、姉さんも素手で首をへし折られて死んでるんだ。そこで能力がついた。」
「店長さん…。」

彼女は思い切り飛び上がる。
能力の影響で簡単に生物兵器の目の前にたどりつくと、鼻先を踏みつけ、もう一度飛び上がった。
バランスを崩したのを見計らい、彼女は首筋のエンブレムに、強力な蹴りを見舞った。

「KEA!スザク!龍精落だ!」
二人は反応し、両手に光をため込んだ。
「「龍精落!!」」
放たれた光が腹部に命中した。
そしてたたみかけるように、亜音は両手を固めて振り上げた。





喉元からはがれていくように、生物兵器の体が消えていく。
そこから現れたのは、ノアとノルンだった。
転落しそうになったところを、すかさず亜音が抱きかかえ、着地した。
そして、構わず二人を抱きしめた。

「ごめん…ごめんね…、「乃流」、「乃亜」…!!」

ぐしゃぐしゃに泣きながら、ごめんを繰り返す。他のものはただ静かに、彼女を見ていた。
気絶していた二人だったが、しばらくして眼を覚ましたのだろう。ノアが目を開き、亜音の頬に触れた。
「乃亜…?」
「…ありがとう、姉さん(ねえさん)。俺たちを止めてくれて…。」
流石ノア。傷はあっという間にふさがっていく。

そしてノルンも、眼を開いた。
「…姉さん(ねえさん)のおかげで、僕たちはホウオウから抜ける決断を下せたのです。」
「乃流…!」
「これで最後です。これで、僕たちはホウオウと縁を切りました。これからは、姉さんとともに生活できるんです…!」
二人も亜音に抱きついた。

「「今までごめんなさい。そしてこれから…よろしくお願いします!」」

しばらくの間、3人はお互いの再会と復縁を静かに喜んだという――。



追記
「あんたの頭のよさにも感服するよ。由衣から依頼をうけたときから、ここまで想定してたなんてね。」
『別に?私はそうやって、兄弟仲良くしてほしいなって思っただけだぜ?』
「生物兵器が朝にここに来るように仕向けたのもあんたでしょ?」
『というか、夜見かけたんでしばらく動けないようにしてた。』
「あんたらしいったら;」

『お、そろそろ時間だから切るぜ。』
「あ、もう2時だね。あんたもまだ「怪盗狩り」つづけてるとか、物好きだよね。」
『仕事ができないんだからこれしかやることないんでな。』
「じゃ、気をつけていってきなさいよ。」

――天河 星

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最終更新:2011年03月02日 17:39