這い回る悪意と危機
「えーっと……」
スイネは、その状況に困惑していた。
その日、彼女は家に帰ろうと昇降口にやって来た。そして下駄箱を開いた際、中に手紙が入っている事に気が付いたのだ。
これが初めての経験ではない。今までにも何度かラブレターを貰った事がある。なのでスイネは、今回も同じ手合いだと思っていた。
相手には悪いと思いつつも、自分には想い人がいる。なので無視したりせず、はっきりとその事を伝えた方がいい……と言うのが友人からのアドバイスであり、スイネは今までその通りにし続けていた。
手紙には、「体育館裏で待っています」と簡潔に、それでいてベタな文面があった。それに従い、体育館で待つ事数分。
彼女の前に現れたのは――頭にヘルメット、全身をライダースーツに包んだ、男なのか女なのかはっきりとしない人物だった。
「え、えー……」
なぜ、どうして、なんで。予想斜め上の事態に、スイネの頭は完全に混乱してしまっていた。
「スイネさん……ですね」
「は、はいっ!?」
スイネの状態を知ってか知らずか、その人物は彼女に話しかけてきた。くぐもった声であり、ボイスチェンジャーを使用している事が分かる。
「貴方が、アースセイバーに所属し、何かしらの能力を持っている事は知っています」
スッと、その人の手がスイネへと向けられる。
「それを、私に見せてください」
次の瞬間、ライダースーツの人物の全身が光の球体に包まれ、それと同時に無数の光弾がスイネ目掛けて飛んできた。
「え――きゃ、きゃあっ!?」
思わず頭を押さえ、スイネはその場にしゃがみ込んだ。光弾は彼女を避けながら飛び、そのすぐ傍へと命中した。
「…………」
スイネを襲う人物は数瞬動きを止めたが、再び光弾を放つ。あえてスイネを外しているようだが、それでも光弾は彼女に当たるか当たらないか、ギリギリの位置に当たっていく。
「いやっ……きゃっ!」
光弾に弾かれ、地面が抉れて破片が飛び散る。スイネはその場から、身動きをする事が出来ない。
「……なぜ能力を使わない?」
少しすると、ライダースーツの人物は攻撃の手を止め、そう問いかけてきた。
「ハァ、ハァ……?」
スイネは恐る恐る顔を上げる。彼女の周りは、ライダースーツの人物のせいですっかり形を変えてしまっており、あちこちが抉れてなくなっている。これがもし自分に当たっていたらと思い、スイネはゾッとした。
「次は当てますよ」
再びライダースーツの人物が、光の球体に包まれた。そしてその周囲に、数発の光弾が浮かび上がる。
「――!」
あれが命中したら――そう考えたら後に退く事は出来ず、スイネは目を閉じて意識を集中させた。
彼女の能力は、己の頭の中で描いたイメージを実体化させる事。しかしそれには、それを形にするだけの強い集中力、そしてそれを生み出す為の体力を要する。今から能力を使ったところで間に合うとも思えないが、しかし背に腹は変えられない。何かしなければ、このまま大人しくやられてしまうだけなのだから。
「ん――!」
外部から来る情報をすべてカットし、頭の中に必要なイメージだけを形作る作業に入る。もしかしたら、今まさに目の前に光弾が迫っているかもしれない。そう思うと恐怖で肌が粟立ちそうになるが、それも無理やり押さえ込んで想像力へと転化する。
とにかく、今必要なのはこの場を逃げ切る事。その為に必要なカタチをイメージしようとしたところで――
なぜか、スイネの背後で爆発音が聞こえた。
「――え!?」
予想外の場所から聞こえてきた音に、思わずスイネは振り返った。そこには、バラバラに砕け散った機械のような物が、火を上げながら転がっていた。それが一体なんであるのか、彼女には覚えがある。
ホウオウグループが生み出した、過去の遺物。今となっては、無差別に弱い能力者を殺戮するだけとなった機械。それが今、スイネの目の前で壊れている物の正体だった。
何でパニッシャーがここにあり、そして壊れているのか。恐る恐る振り返ると、先程までライダースーツの周りに浮かんでいた光弾が無くなっていた。それが意味するところは、つまり、
(私を庇った……なんで!?)
たった今襲ってきた人物に命を救われ、スイネは訳が分からなくなった。高速で変化していく状況に、彼女は訳が分からなくなっていく。
と、その時、
「……チッ」
ライダースーツの人物が舌打ちをして、スイネに背を向けてその場から走り去っていった。一体何が起きたかと彼女が思っていると、バタバタとこちらに走ってくる足音が聞こえる。
「おい、なんか爆発の音がしたけどなんだ!?」
やって来たのは、
ハヤトや
シスイ、スザクと言った、アースセイバーに縁のある面々だった。
「あ、スイネ!? ここで何があったんだ!?」
「え、何、って……」
「この壊れているやつ……もしかしてパニッシャーか?」
「スイネ、お前が破壊したのか?」
「え、えっと……」
矢継ぎ早に質問され、動揺していた事も相まってスイネはどうしていいか分からなくなってしまった。
「何、スイネがパニッシャーに襲われた!?」
その報告を聞いて、獏也は思わず声を上げてしまった。
「それで、彼女は無事だったのか!?」
「ええ。何でも、ハヤト達が駆けつけた時にはもう、パニッシャーは破壊されていたそうで……」
「そうか……」
無事と言う言葉を聞いて、獏也はホッと胸を撫で下ろした。ここのところ、戦闘能力の低い能力者には戦闘向けの能力を持つ者と一緒に行動するよう義務付けていたのだが、アースセイバー所属員が大勢いる学校の中で現れたのは今回が初めての事だった。あまりにも予想外の事態に、一瞬獏也は肝が冷えた。
「しかし……そのスイネの証言なんですが、どうにもおかしな点が……」
「何?」
「スイネがいたのは学校の体育館裏だったらしいんですがね、どうやら彼女、何者かによってそこへ呼び出されたらしいんですよ。その時現れたって言うのが、フルフェイスヘルメットにバイクスーツを着た人物で……」
「それは……まさか、あのスーツか?」
「ええ、おそらく」
数日前、聖が戦闘した少年。その少年が装着していたスーツを獏也は思い出す。そのスーツには鳥居のマークが入っており、
ジングウとの関わりを暗に告げているようにも見えた。
「そのスーツの人物は、一体何をしたんだ?」
「スイネの証言曰く、その人物はどうやら彼女の能力を調べたかったようですね。何かしらの能力によって彼女を攻撃してきたようなんですが……ここが奇妙なところで、スイネではなく、その人物がパニッシャーを破壊したようなんです」
「何?」
獏也はその時の詳細を聞くと、尚の事不思議に思った。最初にスイネを襲った人物は、一体何がしたかったのか。
「……一番妥当なのは、その人物がスイネの能力を調べたかった、と言う事だな。スイネの能力を調べたいのにパニッシャーに殺されては困る。だから破壊したと見るのが……」
「と言う事は、やはりジングウ?」
「その線が濃厚だな」
一体何の為にジングウがスイネの能力を狙っているのか、それは分からない。しかし何にせよ、それを好きにやらせるのをこのアースセイバーが許す訳が無い。
「スイネに伝えておけ、極力一人では動き回らないように。2組の能力者なら、手の空いている者も多いだろう」
「同じクラスに、
ケイイチさんと
サヨリがいますが?」
「副長は副長で、何かを警戒しているらしい。1組では、昨年から超常現象関連で彼の友人が巻き込まれたりしているからな。おそらくその事だろう。サヨリはサヨリで任務がある」
「なるほど。その点を考慮すれば、2組の方が頼れる人材が揃っている、と」
「そう言う事だ」
報告をする所属員にそう告げてから、獏也は思う。
(ジングウ……今度は一体、何を企んでいる?)
動きの見えない危機の存在に、獏也は言い知れぬ危機感を抱いていた。
最終更新:2011年03月07日 21:33