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朱雀ニアミスに嘆き、異能殺しは詠み人を巻き込む

朱雀ニアミスに嘆き、異能殺しは詠み人を巻き込む


「な、なんだって―――――ッ!?」

その時、僕は耳を疑った。マナから突然メールでもたらされた情報―――即ち、


『異能殺しを名乗る男、レストランで目撃。本日出発の旅行に同行。名は白波 シドウ


――――と。
正直、僕は本気で歯噛みした。ずっと探していた「異能殺し」、行方不明になったランカの父親、無責任にも程がある義務放棄男が、こんなに近くにいたとは。
なのに取り逃がした!

(くおぉぉぉ……!)

死んでもおかしくなかった僕を救ってくれたランカは、僕にとってはまさに恩人、他の誰にも―――トキコやシスイでさえも―――かえられない、一番の親友だ。
その彼女を置いて突然姿を消し、失意の底に叩き落とした「奴」を、僕は許すことが出来ない。何としても見つけ出し、ランカの前に引きずり出して謝らせてやる。
それが、僕の自身にかけた宣誓だった。それを実現するチャンスが近くに在りながら、僕は何をしていたんだ!? 

「灯台もと暗しとはよく言ったもんだよ、全く……」
「ね、姉様? どうなさいましたの?」

気遣わしげなアオイの声に、ようやく僕は自分の状況を思い出した。下校途中で、アオイと連れだって歩いていた所だ。トキコも誘おうとしたんだけど、
「鴉さん」とか言う人に呼び出されたらしく、どこかに行ってしまった。前にトキコが言ってた名前だ。誰だそいつは、何のつもりだ。間男だったら叩き潰してやる。

ともかく、そんな時にマナからのメールが来て、何だろうと見て見たらこれ。突然叫んでしまったら、そりゃ驚くよな。

「いや……ちょっと、な。友達のお父さんらしき人が、見つかったって」
「友達の……あの、もしやブランカさんの?」
「へ?」

な、なんでアオイが知ってるんだ? ランカの事は今日話すつもりだったのに。

「マナさんに教えていただきましたもの」

……なるほど。やけに僕らのことに詳しいと思ってたら、あいつの入れ知恵だったか。まあ、説明の手間がはぶけるのはこの際ありがたいけど。

「……それなら話は早い。異能殺しをタッチの差で逃がした。手の届く場所にいたのに」
「残念ですわね……けれど、相手が能力無効化では、わたくし達では手の出し様がありませんわ」
「そこなんだよなぁ」

奴の能力は、読んで字のごとく「異能殺し」だ。僕やアオイを始めとする能力者の大半がそうであるように、能力が無効にされれば戦闘力はガタ落ちする。奴自身の戦闘力はわからないが、真っ向からぶつかれば勝ち目はかなり薄い。
しかも記憶にある限りでは、あの能力は視界に入る人物全てを対象にすることも出来るようだ。

ともかく、

「悔しいなぁ……もう少しだったのに」
「古人曰く、『逃した魚は大きく見える』ですわ。焦っても仕方ありません、次の機会を待ちましょう」
「……そうだな。アオイ、ありがとう」
「どういたしまして、スザク姉様」

相も変わらず、偽名で呼び合う僕達。これは、僕たちなりの戒めのようなものだ。もっとも、本来ならアオイ……綾歌にその必要はない。
だけど、僕の事情を知っている彼女は、僕に心理的な負担をかけないようにと、自分も偽名で通している。その細やかな心遣いが、本当に嬉しい。

(……ありがとう)

心の中でそっと、もう一度だけお礼を言った。





それから数日。

「旅行に行った感想はどうです、シドウさん」
「悪くは……なかったな」

某所。旅行から帰るなり姿を消したシドウと、彼を送り出した人物―――エイト、即ち「夜波 詠人」が会っていた。

「環は?」
「能力のスイッチ化が起きた。当面は安心だろう」

実年齢より外見が倍近く若い男は、ぶっきらぼうにそう言った。(どこから聞いたのか)マナ情報では別人のように人当たりのよい性格だったらしいが……。

「―――キャラ作るのは大変だったんじゃ」
「割合そうでもない。10代の頃はああだった」

何年前の話をしているのか。

「それに」
「それに?」

フ、と口の端に笑みが走り。

「子供は嫌いではない」
「…………」

声音には自嘲。一人娘を置き去りにしている身で言えた義理ではない、と思っているのか。

「用事はそれだけか?」
「いや。本題はこのあとですよ」
「……何があった?」

すい、とシドウの目が鋭く細まる。

天河 星、って知ってます?」
「あの重力探偵浪人か? 知った顔ではあるが」
「重力探偵浪人って……」

何ともそのまんまな表現だ。事実ではあるが。

「左目のことは?」
「奪われた、くらいしか知らん」
「それ、どうもホウオウグループ絡みらしいですよ。やる気のようで」

その言葉を聞いた途端、シドウから何か、気迫のようなものが感じられた。それは、敵意。

「……奴らか」
「ですね」
「合理化……神への挑戦、か。意気込みや考えはわからんでもないが、犠牲を厭わんのであれば俺の敵だ。合理化を目指すならば、その犠牲さえ払わん道を探すべきだと思うがな」
「愚痴ってもしょうがないですよ。それで、どうします?」
「ここまで聞いて知らない振りが出来るか。行ってやる」

それさえ聞ければ用は果たした。エイトはそう思い、踵を返した。シドウの能力は、視界に入った相手の特殊能力を封じ込める、あるいはコントロールを与えること。
その力があれば、ホウオウグループの能力者相手でも圧倒的なアドバンテージを確認できる。加えて本人も弱くはない。これならば、多少の事があってもなんとか


「待て」


「ぐう!?」

突然襟首を掴まれ、つんのめってしまった。振り向くと、シドウが腕を伸ばして自分を掴まえていた。

「な、何ですか?」
「そこまで知っていて傍観者を気取る気か? 俺を引きずり出した責任は取ってもらう。お前も来い」
「え、ええっ」
「ええもああもない。いいから行くぞ」

文句を言う暇もなく、シドウに引きずられたまま、エイトはその場を後に「させられた」。

―――「黒髪の少年を引きずって探偵事務所に入っていく渋めの青年」の姿が見かけられたのは、それから少し後のことだったそうな。



というお話です。

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最終更新:2011年03月17日 14:52