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宣戦布告と赤き左目

宣戦布告と赤き左目

その一瞬は、本当に突然ことだった。

人通りの少ない路上。
そこで組み合っていたのは二人。
いや、組み合っていたという表現は正しくないだろう。
不意打ちを食らい、胸に真っすぐ剣を突き刺されたのだから。

遡ること20分前。
旅行から帰って来た店長達は、いつも通りレストランを開いていた。

「皆無事でよかったです。」
「楽しめるのが一番だからな。」
昼時の忙しい時間帯。ノルンとノアも、店員に混じって手伝っていた。
「あのシドウさんとはあれから分かち合ったんですよね。」
「ええ。私と、シドウさんと、あと星ちゃんも。」
店長は鍋を振りながら明るく話していた。

「乃亜、食材きれたから買ってきてくれない?」
「あ?別にいいけど。でもなんで俺?」
「昼間だから人手が足りないのよ。あんた狙われてるのはあるけど、能力あるから大丈夫じゃない?」
「そういうことな。分かった、いってくる。」
ノアは財布を受け取った。

「いざというときは携帯で連絡しなさいよ。」
「分かってるって。行ってきまーす。」
気楽な様子でノアは出ていった。
まぁ、町のど真ん中で人襲うほど、ホウオウも馬鹿ではないと信じていた。

そう。このときまでは。

「ち…くしょう!!」
後ろに蹴りだし、刺さっていた剣を抜く。
不意打ちに対応しきれずあとから能力を発動したため、治りに時間がかかる上にダメージが残る。
ノアは後ろの人物から間を置き、振り返った。

ぎしぎしと関節が音を立てている。
それは「人」ではない。
ホウオウグループが開発した兵器「パニッシャー」だった。
(なんでだ…?パニッシャーは、ホウオウも放棄同然だったはずだろ…?)
体を支える足がふらつく。対するパニッシャーはこちらに拳銃を構えていた。

手探りで探していた携帯を弾かれ、眼の前に数発撃ちこまれた。
胸からの出血が止まらない以上、無防備も同然である。
それを知ってか知らずか、パニッシャーはゆっくりこちらへと向かってきた。

「…最悪っ…。ありえねぇだろ、こんな…。」
逃げ切れないまま、バランスを崩して座り込む。
その眼と鼻の先に拳銃を突きつけられる。
もう、ダメだと、ノアは顔をそらした。

遠くから、誰かの声が聞こえる。
最初は気のせいかと思っていたが、その声はだんだんと、はっきりとした言葉に変わっていった。

「…せろ…ぐ…。」
(…え?)
「ふ…今…っ!」
(何か…聞こえる!)
「ノア…!」
(俺の名前!)

「ノア!伏せろ、今すぐに!!」

言葉をとらえて上体を伏せたのと、頭上を何かが通るのがほぼ同時だった。
何かにぶつかったらしいパニッシャーは、胸から遠くに飛ばされる。
伏せていたノアの眼の前に、誰かが降り立った。
その姿を見、ノアは名前を叫んでいた。

「…星…。」
「悪い、遅くなっちまった、ノア。」

振り返った星は、見なれた星ではなかった。
左目を隠していた包帯がない。
いや、正確には星自身の手で取り払われていた。
そして、そこから覗く左目。
それはもはや「左目」ではなかった。

白眼も、黒眼も、赤く透き通っていた。
そこから生気が感じられるはずもない。
強いて言うなら、「石」。
その左目は「石」だったのだ。

驚くノアをかばうように立ち、その「石」で真っすぐパニッシャーを見据えた。
パニッシャーは立ち上がり、拳銃を構えた。
「…そんな玩具で、私に勝てんのか?」
星は強く笑い、手に握られていた包帯を振った。

握っていたところから原型が崩れ、形を変えていく。
それは連鎖していくように広がって行き、包帯は一つの帯剣へと形を変えた。
「重力操作」しか知らないノアはますます驚く。
星は、ひとり言のように語りかけた。

「ほら。これがお前らが望んでいた「能力」なんだろ…?」





ほんの一瞬の出来事だった。
正面切って飛び出した星の帯剣は、パニッシャーの胸を貫いた。
そのままつきあたりの塀まで押しこむと、壁を蹴り上げパニッシャーごと宙返り。
着地点で上にのしかかり、剣を更に奥深くまで突き刺した。

剣を突き刺したまま、パニッシャーの首をつかんで引き起こす。
「おい、ノア。これ、ホウオウと関係があるんだろ?」
「…ああ。でも、向こうも廃棄扱いだったからなんとも。」
「ま、いいや。誰か聞いてるだろ。」

「おい、聞きやがれホウオウグループども!」
星が声を張り上げた。
「てめぇらはうまくやったつもりかもしれねぇが、私は全ての真実を手に入れた!クランケに私の左目を奪わせたこと、怪盗一家をてめぇらの内にとりいれ、いいように利用していたこと。そして…。」
一度言葉をきる。これが、人生を変える大事な言葉。
大切に抱え、星は言いきった。

「この「賢者の石」はてめぇらの兵器で、私はこの石の媒介だということもな!!」


木・火・土・金・水
東・西・南・北
春・夏・秋・冬
陰・陽
裏・表
青龍・朱雀・白虎・玄武・麒麟

ありとあらゆる摂理は
常にその例外なく
私たちを取り巻く

ただ、本当に例外があるとするならば?


等価交換の法則、質量保存の法則を完全に無視し、手元に何かがあれば思い通りに物質を作り出すことができる「賢者の石」。
かつて錬金術が学問とされていたころ。それは伝説の道具としてあがめられ、作り出そうと何人もの人間が命を削った。

それが、圧倒的な科学力を持つホウオウグループにより開発された。
美しく、醜く、赤く輝くその石は、その時はまだ未完成だった。
そこで考え出された方法こそ、「人体を媒介にし、石を完成させる」方法だった。

メスを握りながらもためらうクランケ・ヘルパー
それを急かすギルティー・キングも、尊い命が犠牲になることに涙をこぼしたという。
すべての物質を意のままに操る「練成」と引き換えに、彼女は左目を、愛を、命を自由に使うことを、失ったのだった。


「だからこそ、私はこの能力でてめぇらをぶっ潰す!私は改めて、てめぇらに宣戦布告する!!」
石の奥に刻まれた、黒いホウオウのエンブレム。
石のために自分が死ぬのが定めというのなら、その運命に抗うことはしない。
しかし、命を軽率に扱うホウオウは、自分が生きている間に潰してやると、堅く誓った。
ストラウル跡地の謎の崩壊事件も、「重力操作」による星のアンチホウオウ宣言。
彼女に迷いは、もうなかった。

胸の剣を抜き、パニッシャーに思い切り振り下ろした。
これがそう。ホウオウ崩壊への第一歩と信じて。

崩れ落ちるパニッシャーを横目に、星はノアに向き直った。
「怪我、大丈夫か?送っていくぜ。」
「あ、ああ。怪我は治った。でも危ないだろうから、頼む。」
ノアは立ち上がった。

「その…ありがとうな。」
「ああ、いいんだよ。私の個人的なことだったわけだし。」
「…その眼、ホウオウにとられたんだな。」
「結果的にはな。そんな感じだから、元の左目なんざ残ってないだろうよ。」
話して聞かせる星には、どこか吹っ切れたような空気があった。

「ま、とりあえずアンチホウオウ第1段として、お前らの護衛ってことで、どうだ?w」
「え!?」
「いいじゃねぇかw基本的に暇な浪人だし。月光にも協力してもらうし。」
笑いかける星が、ノアには心強く思えた。

「…分かった。ありがとう。そして、よろしくな。」

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最終更新:2011年03月18日 21:17