一喜一憂
人気のない平原にぽつりと映える巨木。
傘状に開いた枝葉には点々と、赤い木の実がなる。
その実を一つとり、太い枝に座って彼は実を齧った。
風で草木が揺れる音だけが平原に響く。
小鳥が2,3羽、木の麓に降り立った。
そんなこと気にするわけでなく、彼は語りだした。
「気持ちいい風だねぇ。お前もそう思うだろう?」
返事はない。だが彼は満足そうにうなづいた。
「主が帰ってきて、お前も生き生きとしてきた。いいことだ、うん。」
もう一口実を口に含み、彼は顔を上げた。
平原より遠く離れたストラウル跡地。
そこに見知った顔が入っていくのが、彼にははっきりと見えた。
「あれは…昨日の女の子か。」
彼は枝から飛び降りると、振り返った。
「ちょっといってくるよ。また直ぐ戻るけどね。それまで好きにしてていいから、「
アカノミ」。」
草木を踏み分け、立ち去る彼の後ろで、巨木が根を伸ばし、一匹鳥をとらえていた。
地面に突き刺さっていた鉄柱は、いともたやすく折れ曲がり、倒れた。
店長には内緒で自分を鍛えることにしたのには、訳がある。
もう一度、皆を守れる自分になりたかったから。弱いままの自分でいたくなかったから。
それだけの理由で、彼女は鉄柱を作り出しては、殴り倒していた。
「…まだ、何か足りない。」
小さく、彼女は呟いていた。
倒れた幾本もの鉄柱が、砂鉄へと変化し、引き寄せられていく。
現役当時の腕力や脚力に戻すまでに時間はさほどかからなかった。
ただ、本当に腕っ節だけで何とかなる相手だろうか?
だとしても、これ以上どうやって修行を続けようか?
「お、やっぱり昨日の子かw」
不意に、後ろから声が聞こえた。
振り返ると、先日の褐色の青年が窓の淵に座り、「よw」と片手をあげていた。
「あんたは…。」
「昨日泣いてると思ったら今日は顔が怖いぞ?どうした?」
だから、一般人に能力者の話なんて…。
「別にかまわないけど?俺も能力者だしw」
「…えっ?」
「幹久郎」と名乗った青年は笑いながらこちらに近づいた。
「君、名前なんていうの?」
「…由衣。」
「由衣ちゃんか。で、一体何があったんだい?」
由衣は少しだけ心を開き、彼に今の悩みを告白した。
「皆を守れるように…ねぇ。アースセイバーに入ることとか考えなかったのか?」
「そんなの、店長が許してくれるわけない。でも、このまま守られるわけにもいかねぇんだ。」
といっても、一人では行き詰ってたところである。
相談してどうこういう話ではないが、他人に話すと意外にすっきりした。
「うーん、わかった。その特訓、俺にも手伝わせてw」
突然の申し出に、思わず顔を上げる。
「え、でも…。」
「その様子からだと、独りで行き詰ってたんだろ?ちょっと位協力するよw」
人の親切に触れることは、毎度ながら身にしみる。
その親切に、ほんの少しのってみることにした。
「ほ、ほんとに実践なんてやってもらってよかったのか?;」
「いいのいいのwこっちは少し手加減するけど、そっちは全力でおいでよw」
少し広い場所まで移動してきた二人。既にビルが倒壊しているところで、足場が結構悪い。
しかしその足場は由衣には慣れたものである。
全力で行くことは控えようと決め、地を蹴りだした。
避けやすいように正面から突っ込み、右手を握りしめて突きを放った。
スピードも加減したのだが、幹久朗は動こうとしない。
(何やってるんだこいつ!このままじゃ当たるぞ!)
由衣の意志に反して、拳は真っすぐ胸へと向かった。
動きが見えなかった。しかし、当たる直前に右手が受け止められていた。
「…!?」
「手加減してくれたんだ。ありがとう。でも、そんなんじゃいつまでたっても弱いままだよ。」
「っ;」
拳をつかまれたまま地面を蹴って飛び上がり、回し蹴り。
足を受け止められるのを見計らい、拳を払って逆立ちになった。
「ったぁ!!」
あいている足を後頭部にからませ、ブリッジの感覚で放り投げた。
現役時代の血が、まだ活きている。由衣は改めてそれを感じ取った。
放り出された幹久朗は空中で体勢を立て直して着地した。
「…てぇ;なかなかやるね。こっちが油断してたよ;」
立ち上がり、由衣に歩み寄る。その姿にダメージは微塵も感じられない。
「嘘…だろ?普通なら今のですぐにのびるのに…。」
「能力者だって普通だよ。でも、君の考えてる普通とは違う。」
こちらを見る金緑色の眼に、真剣味が帯びられる。
「君はまだまだ弱いんだ。能力者としてはね。」
「!!」
改めて叩きつけられた「弱い」という事実。
重なった過去と今が、再び眼の前に広がる。
苦しむ仲間や、家族の顔。
見たくない。見たくない。見たくない。見たくないのに…!!
「うわぁぁぁ!!」
振われた右手。砂鉄は空中で形を作り、幾本もの太い鉄柱と変わって放たれていた。
「!」
「しまっ…!!」
由衣は正気に戻ったが、放たれた鉄柱の勢いが止まるとはない。
幹久朗を巻き込んで、大きく砂埃を上げた。
「…な…。」
何をしていたんだ自分は。
力が抜け、その場にへたり込む。
避ける間なんてなかった。つまり、幹久朗は…!
「いっ…ててて;」
砂埃が揺れ、そこから彼は這い出てきた。
「
幹久朗さん…!」
「うん、今のは悪くなかったよ。やればできるじゃないかw」
「大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫w」
服を払いながら幹久朗は笑った。由衣はまた泣き出しそうになっていた。
「よかった…、本当に…。」
「おいおい、泣きそうだぞ?大丈夫か?」
幹久朗がよりそう。由衣はもう一度、大声をあげて泣いていた。
最終更新:2011年03月28日 00:56