『そのユニコーンはあなたの思念体ですわね』
『そうね』
『…以前見た形とは違うようですが』
『以前?』
『あなたとのお喋りは問いかけが多くて楽しくありませんわ』
霧がさらに深いものになる
思念体としての鎖をベガへと差し向けるが
霧が液状化して溶かされていく
ユニコーンへ指を滑らせて、ベガへと誘導すると
朱の翼をはためかせて突進していく
『ユニコーンは白馬であるから美しいのですわ』
ベガは、左手に霧を集めると、銃へと具現化させそれを構える
放たれた銃弾がユニコーンの左胸を貫いた
『一種の幻覚ね、そんなものにわたしが惑わされると思う?』
『さぁ、どうでしょう』
『…っ?!』
とたんにチリリと痛んだ左胸
…まさか
『なるほど、…わたしと似て非なる能力ね』
『あなたの場合は不利ですわね
思念体であるユニコーンの的が大きすぎますわ
それに、思念が不死身で有るがゆえ
あなたにダメージが蓄積されやすくなりますわよ』
『おもしろいじゃない』
目の前の女…ベガは
わたしによく似た顔をしている
いや、顔だけじゃない
『思念を複数具現化させるのは、負担がかかるのではなくて?』
『無駄口はあなたのためにならないわよ』
確かに体力は削られる
けれど弱音を吐いてもいられないのだ
人工神を相手にするのは骨が折れるものだ。知っているからこそ
手加減をすれば痛い目を見る
『なんでこんなことをするの?……
ホウオウが差し向けた人工神ではなさそうだけど』
『…あんな者と主を比べないでくださる』
憎しみにかられた瞳
さっきまでのわたし
『…自分の顔を見るたび、思っていましたの。あなたが憎いと。殺したいと』
『随分と嫌われたものね』
『この世に神は二人も要りませんのよ』
またも銃を構えるベガ
ユニコーンに跨がりそれを避ける。
スイネがそれを幻覚だと割りきっている分、ベガには部が悪い
『ちょこまかと…っ』
『“執着の鎖”』
『!?』
ベガの足に絡み付く鎖
それは、ずっしりと地に食い込み彼女を拘束する
『あなたの幻覚に触れたとき時間を逆行したの。
それは、あなたが"主"に抱く執着の形よ』
『……っ』
ベガの幻覚のつららがスイネへ向かう。けれど、ユニコーンから発せられる炎により消し飛んでしまった
なんだ、こいつは
データと違う圧倒的な、強さ
これが“奇跡の神の子”だというのか
『…自分が特別だとでも思っているの』
『私は…神ですわ』
『あなたは神じゃない』
『何…』
『憎しみと私怨にかられた時点で、あなたは神ではないわ
…わたしと同じよ』
スッと手をさしのべてくるスイネ。それを見つめて困惑するベガ
この手は何を意味している?
殺意がない。意味がわからない
『あのとき、わたしを暗闇から救い出してくれた存在がいた。
だからわたしは今のわたしを手に入れた
…あなたはどう?』
『…ふざけるのでは、ありませんわ!!!』
ガキィン!!という音と共に鎖が砕け散って、ベガは幻覚を身に纏う
その姿は
囚われの頃の彼女…
ファスネイ・アイズの形をしていた
『私は主を殺した
ジングウを、
図らずもジングウの産物となったお前を
この世のすべてを破壊したい!
同情をしているつもりならば不愉快ですわ!
お前は、こんな、醜い神を模したヒトガタじゃありませんの
私こそが、神ですわ!!』
あの頃のように釜を振りかざし、向かってくるベガに、スイネは新たな想像をする
それは、彼女を縛る鎖を断ち切った少年の緑の光と
彼女に新たな感情を芽生えさせた……獅子の金の光
ベガの右胸をつらぬく光の剣
ファスネイの姿をしたベガは驚愕に瞳を見開いた
『な…』
『あなたは神じゃない
…わたしも、神ではない
偶像にすがるだけのわたしは今、私の手によって死ぬのよ!』
ジジ、とベガの胸が焼ける音がしてベガは我に返ると、
幻覚の鋏でそれを断ち切り
真紅を流す胸を押さえて跳躍する
『…ベガ』
『ファスネイ…あなたは必ず私が殺しますわ』
ベガは純白の翼を広げて飛び立っていった。
スイネは、がくりとその場に座り込む。
朱のユニコーンがスイネに溶け
彼女は小さく笑った
『……そうよね。ありがとう
チェシャ』
フードを被った彼の言葉が胸をこだまする
そして、今のわたしがどれだけ幸せなのかを実感した
帰らなくては。トキコとスザクさんの様子が心配だ
ブシュッ
『え…?』
右胸に、なにかが突き刺さったような鋭い痛みが走って
動脈と静脈を一度に傷つけられて鮮血が噴水のように涌き出した
『が…は…』
胸を押さえて倒れ込む
…ここは、ベガを刺した場所と同じ場所
『…わたしの姿の幻覚を纏ったのは、そのためだっていうの
はっ…最後に爆弾残していったわね…がはっ』
逆流した血液が喉を通り吐き出される
……これが決意と決別の痛みか
『…あう、あ…』
脳裏に浮かぶのは
かつてわたしに優しく手をさしのべた
ケイイチではなく
とても広い…獅子の背中
温度を失っていく身体を抱き締めることも叶わず
わたしは冷たいコンクリートで意識を闇へと落としていった
過去に決別の一太刀を
(とてもさむいわ)
(とても、とても…)
最終更新:2011年03月28日 00:57