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呼妖聞人

呼妖聞人

…甘えたこと言えないのは分かってるんだけどね。
ただ単に、今は危ないような気がしただけ。
皆には迷惑かけちゃうけど、「熱が出た」ってことで休ませてもらった。
「年中寒そうな格好でいるからですよ」って、笑われた。
こっちも笑えたことには、自分自身で安堵できた。

意図的に姿を消し、いつもの東の平原に向かう。
午前中いっぱい、あの森の「人間」をできるだけ戻そうとしたけれど、
先にかけられた能力が強すぎて、3人が限界だった。
それほどまで「俺」はまだ人間を憎んでいるのだと思うと、悔しいうえに、情けない気がしてきた。

「はぁ…。どうしたものかね、全く…。」
森を抜け、ぽつんと佇む巨木に体を預けながら、一人ぼやく。
独り言のつもりだったが、この巨木――アカノミは態々返事をしてくれた。
「…俺、昨日そんなに怖かったのか?;…そりゃそうだよ。あれ、いつもの「俺」じゃなかったし。」
平日の昼間、しかも姿を消している手前、話し相手になってくれるのはアカノミだけだ。
主に話せば過剰に心配するし、ミサキは別任務。他の奴らも…今一人挙げなかったのわざとだからな!空気読めよ!

「なぁ、アカノミ。お前も逢魔ヶ刻に人間襲ったりする?」
風もないのに、僅かに枝が揺れた。
「…そりゃそうか。人が来ないのに襲えるかってな;」
つまり、早い話が人間にかかわらなければいい。
しかし人間の生活にあこがれた以上、今更縁を断ち切るわけにもいかないのだ(俺の場合店のこともあるし)。

日が沈む瞬間。光が闇に染まる瞬間。それが「逢魔ヶ刻」。
その時間に妖怪の血が強くなることは重々承知だ。
今までは日が沈む前に家に帰れていたからよかったのだ。
だがこの頃かの女の子…夏香由衣の特訓を手伝っていたおかげで帰りが遅くなっている。
自分自身は構わないが、「俺」の問題がある以上あのままギリギリの時間まで付き合うのは難しいだろうと思い始めている。

「所詮、妖怪は人の世に馴染んじゃいけないってか…。」
人間の恐怖が「妖怪」というものを形作る。
どこかで聞いたことあるような言い回しだが、俺たちは「人間が作ったもの」なのだ。
こうして姿をなしているのは運よく主の力に引っかかっただけだが、根本を作ったのはたくさんの人間だ。

「人の恐怖は語り継がれる。眼にも見えぬ、耳にも聞こえぬ恐怖は「妖怪」として形を成し、語り継がれる。それこそが「百物語」。」
誰かがそんなことを言っていた気がする。つまり、俺たちは人間にとって恐れられ、忌み嫌われる存在だ。
「語られる百の物語は百の恐怖を纏う。時が流れれば流れるほど、恐怖は増えていく。」
ほとんどの現象が科学で証明されるこの時代。極論を言えば、説明がつけられなくても「能力」で片づけられる。

その「能力」でさえ説明がつかないことこそ「恐怖」なのだ。

俺たち「妖怪」は「恐怖」の具現。
人の世にいてはならない。
「俺」のせいで改めてそれを思い知った。

どうしよう。今日はこのままアカノミの麓で過ごそうか。
由衣ちゃんには悪いけど、今日の特訓は行けなくなったことにしてしまおうか。
どのみちあんなギリギリまで付き合っていたら、その由衣ちゃんを襲ってしまう可能性もあるのだ。
「俺」としての自我がなくなる以上、止めることはできまい。

「…だれかもう一度、「キムナ」を呼んでくれねぇかな…。」

気を使ったアカノミが呼んでくれたけど、「俺」は反応しなかった。

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最終更新:2011年04月01日 15:49