偶然必然
…いかんいかん。気がついたら眠っていた。
空を見る。まだ「例の時刻」までには時間があった。
彼は一つ伸びをする。術の解除をしていなかったので、姿は見えないままだ。
久しぶりに半日寝て過ごした気がする。
昔はしょっちゅうそんなことしてたっけと、自然と過去に思いが馳せられた。
「…あ、そう言えば由衣ちゃんは…。」
ストラウル跡地の方を見る。
この時間とっくに来ているはずの由衣の姿はなかった。
おかしいなとも思ったが、来てないならこっちがこれなかった理由づけもいらないと、直ぐに切り替えた。
とはいえ今日は来てないにしても明日がある。
一日二日で何とかなる問題でもないのでどうしようかまた考え出していた。
「とりあえず、今日のところはさっさと家に帰るか…。」
悪いな
アカノミ、また明日と言い、彼は立ち上がった。
立ち上がると視界が一気に開ける。
だからどうという話ではないが、視界の端の方に、彼は何かをとらえた。
平原の端の方。何かがいる。
目を凝らすと人のような形が見えた。
山吹色の長い髪。女の人だろう。
隠れることもなくこちらをじっと見ていた。
(…て、あれ?俺確か今術で見えてないはずなのに…?)
アカノミを見ているのかと思い、離れてみると、目線がこちらの方を追いかけた。
「…あのー…?」
気になって少し声をあげると、彼女ははっと顔をあげ、そそくさと立ち去ってしまった。
彼はその様子を見ながら、首をかしげた。
彼は暫くそちらの方を見ていた。
既にその女性は消えるように居なくなっていたのだが。
普通の人間ではないのは分かる。とはいえ前に寺に行った時にはあのような女性は見なかった気もする。
霊や妖怪に通じても、よほどの力がないと消された姿まで見えないだろう。
なによりあの女性、纏っている空気が普通ではなかった。
うまく言い表せないが、なんというか、穏やかなのだ。
現代の張りつめた空気には全く似合わないほどに。
その張りつめた空気にあっさり押しつぶされそうなのに、何の抵抗もなく広がっていくような空気が、かなり離れていたはずの自分にも伝わった。
そして彼は気がついた。あの人が「人間」でないことに。
「…って、分かったところでどうってことはないんだろうけどな。」
自分を小さく嘲笑し、まだ日の形が残るうちに平原を立ち去った。
彼は知らなかった。
彼の寝ている間に由衣は手をひかれウスワイヤに向かったこと。
「山吹色の髪の女性」も、ウスワイヤに向かったことを。
最終更新:2011年04月01日 15:53