とある巨木の独り言
西は愛の返還を喜び
南は深い闇に囚われ
東は未だ欠けたまま
北は諦観を望み
中央だけが変わらず空を見る
東の平原に一人たたずむ「僕」。
昼間のこの時間に来る者はいない。
僕の声を聞ける唯一の友達はまだこない。
風に細い腕をなびかせながら、麓の囀る小鳥を見下ろした。
欠けた「東」を埋めるように、僕はこの地に降り立った。
欠けたままのこの地に人が来るはずもない。
小鳥の浮世歌と散歩する霊の独り言が僕の情報源。
日の出るうちは浮世歌をずっと聞いている。
異国の地から来た男は、朱い朱鷺を狂わせたらしい。
西の元は白い闇を伝えるべく、西に舞い戻ったそうだ。
青い女神はもう一人の女神と出会ったという。
そんな重要な話でさえ、僕にとってはただの「噂」。
僕には関係ない話。
僕の気がかりは一つだけ。
唯一の友達の様子が、最近おかしい。
金緑色の「人」の眼は、日が沈むと同時に冷たい血の色の「妖怪」の眼に変わる。
彼を見ていると、僕ももう一度「あの時」に戻りそうな気がする。
怖い。
僕がこんなこと言っちゃいけないのは分かってる。
「恐怖の具現」である僕が。
でも怖いんだ。
根を下ろしたこの平原から動けないとわかってても、逃げ出したくなる。
白銀の高みを目指して
赤き炎は闇を照らして
青葉という命を生み出し
黒き水は静かに波紋をたて
黄土こそ変わらずに構えてほしい
そうして平静を手に入れ
早くこの地に平和をもたらしてはくれないか
…なんて願うのは我儘だろうか。
ふっと、小鳥の囀りが一つ消えた。
麓を見下ろし、ああ、またやってしまったと落ち込んだ。
根に雁字搦めにされた小鳥は、ミイラのように干からびていたのだから。
そうして僕はまた細い腕の先に、赤い実を実らせる。
「
アカノミ」…なんとも皮肉な名前だとは思わないかい?
最終更新:2011年04月12日 23:20