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天ノ川ノ叫ビ~赤ト銀~

天ノ川ノ叫ビ~赤ト銀~

風になびく銀の髪と白いマント。
ストラウル跡地の廃ビルの屋上。人がいないのは先程確認したから大丈夫だ。
はっきり言うとここに来た意味はないわけだが。
このところ籠りきりだったので外の空気が吸いたくなっただけだ。

当然ミサキも肩を並べている。
マスクさえなければさぞかし綺麗だろうにとは思うのだが、仮にも口裂け女。言えるわけもない。
「…ねぇ、クランケ。この間の話なんだけど…。」
「ああ…僕の過去、だっけか。」
「正確には、星とのかかわりが知りたいのよ。」

「探偵と怪盗が本当は相入ってはいけないことくらい、私も知ってるわ。それでも、どうして貴方は星を「親友」と呼べるの?」
「…それを話すには、星の辛い過去を語らなければならない。」
景色を眺める目をそらさないまま、クランケは答えていた。
「しかも、星自身は記憶を「預かってもらっている」から、はっきりとは覚えていない。」

「でも、その過去があるから、僕は「千郷」を取り戻せた。僕の過去は彼女なしでは語れない。彼女には本当に、感謝しかないんだ…。」


記憶を預かってもらった星は包帯で左目を隠し、そのまま月光と探偵事務所を開いた。
裏路地でひっそりと行っていた事業はなかなかうまくいかなかったが、それでもなんとかやってのけていた。
そして時は流れ、14歳の時。事務所を開いて6年。
天才的な才能を買われ、アメリカで弁護士の資格を取得した。

偶然も相まって、その時は上々だった。
真実を論理的に導き出す探偵の経験は生かされ、真犯人を次々とあばいていったのだ。
ある意味、この時が星にとって一番栄えた時期だった。


「その星がある日突然弁護士をやめた。18の時だったかな。」
クランケは目を伏せる。ミサキは黙って、その話を聞いていた。
「ニュースには上がらなかったよ。有名だったけど、仮にも能力者だし。」
「腕の立つ弁護士だったんでしょ?何で急に…。」
「彼女に否はなかったんだ。」

「僕が、彼女の名誉を全て奪ったんだ…。」


弁護士の名誉を奪うのは簡単なことだった。
裏のルートを通じて偽の証拠を送り、そのことを相手の弁護士に送ればよい。
必ずその裁判で証拠が偽だと分かり、使用した星自身の信ぴょう性が問われだす。
案の定その裁判を最後に、彼女は弁護士バッジを失った。
それと同時に、月光は実家の寺に帰り、陰陽師の修行をするよう言いつけられた。

結果として、星は月光とも引き離されてしまったのだ。

浪人となってしまった星はアースセイバーを手伝うことでなんとか生活をつないでいたが、彼女にとってつらいのはそれではなかった。
手を休めるたびに思い出す、剥奪のあの瞬間。
一番の理解者を失った、自分の無力さ。
徐々にそれは、彼女を追いつめていた――。


「ちょっとまって、おかしいじゃない。月光と離れ離れになったなら、今あそこに月光がいるわけないじゃないの?」
「そうだね、普通に考えれば、あの二人は引き離されたままだ。」
クランケは頷いた。
「その二人がもう一度ともに生活するようになったのも、僕のせいでね。」
今考えれば、キングは星と僕を引き合わせたかったのかもしれない。
ここまで星のターニングポイントにかかわっているのだから。


失意の底に堕ち続けて2年。
その星に転機は突然、意図もしない形で訪れた。

突然、空のポストが音を立てた。
中には、真っ白い封筒がひとつ。
月光を預かったという内容の、脅迫状だった。





獣道を通ってこちらに向かってくる星を、モニター越しにクランケは見ていた。
「賢者の石」の媒介である星の観察、能力者としての質の測定が主な目的だ。
そして、弱いならば容赦なく切り捨てろとも言われていた。
キングの一家がホウオウに取り込まれて約20年。当時の彼は、冷酷だけだった。

パニッシャーを数十体回収し、こちらの意志で動く様に改造した。
遠隔操作で、星の様子を観察する。
勿論、脅迫した通り月光を捕え、閉じ込めていた。

「星殿をどうするつもりがか!」
「お前が知ったところで意味はない。少し黙っていろ。」
「何もかも失った星殿の、何を要求するつもりがか!」
特殊なガラスが張られたケースの内側を、月光はたたいた。
腕力のある月光でも抜け出すのは困難。木刀も、捕まった際にとられていた。

寺に戻った後も、月光は星を心配していた。
引き離されたときに見た星の最後の顔が忘れられずにいたのだ。
そんなこと知る由もないクランケは、冷たい目を月光に向けた。
「黙っていろと言ったのが聞こえなかったか…?」
掌に収めていたスイッチを入れる。
ケースの中に電撃が走り、一声吠えた月光はそのまま前に倒れた。

遺跡のような建造物を見上げる星。
あの中に、月光がいる。
一歩踏み出したその時、茂みから何かが飛び出した。
遠隔操作で操られるパニッシャーたちが、星を囲む。

星は慌てることなく、ただ静かに目を閉じた。
ポケットにそっと手を入れる。
パニッシャーが一斉に星に襲い掛かって来た。
近すぎる距離。避ける余裕などないのに、星はただそこに立ちつくしたまま――。

鉄同士がぶつかる音もしなかった。
ただ気がつけば、パニッシャーの胴は吹き飛び、ガラクタと化していた。
右手に刃渡り5センチの小さなナイフを持つ星を中心に…。
「…成程。使えそうだな。これが媒介だというのももったいない話だ。」

強く地面を蹴り、遺跡に突っ込む。
立ちはだかるパニッシャーを、時折人間では成しえないアクロバットを交えながら、ナイフで斬り倒していく。
「先天性の能力までももっていたか。」
クランケはモニターから離れると、ホウオウグループからもらったレイピアを手にとった。
「だが、勘違いしないでほしい。お前のその力は、全て賢者の石のもの。お前のものじゃない…。」
レイピアを抜き、鞘を捨てながら扉の前にたった。

「人間としてのお前は、何もできない屑だ。」
星が扉を開き、一歩踏みいると同時に、レイピアの切っ先が星の体を斜めに走った。

どのくらい時間が経ったのだろう。
息の詰まっていた星の口から、荒い息が漏れだした。
左目を隠していた包帯は、先程の一撃で解けていた。
「ほう…、あの一撃に耐えるなんてな。」
クランケは星を見下ろす。星はクランケを睨みつけた。

「かつて最高の怪盗と言われた『ギルティー・キング』。その命により、目に『賢者の石』を埋め込まれた。」
台詞を読むように、淡々と言葉を紡ぐ。
天河 星。お前が地に落ちるなど、運命だったんだよ。」
生気のない血の色の眼。そこから流れ出すのは、濁った血の色の涙。
このまま気絶させホウオウに連れて行こうと、懐に隠した注射器に手を伸ばした。

「黙れ…。」
耳に届く低い声。
左目から発せられる強い光。そのまぶしさに、クランケは目を閉じる。
次に目を開けた時。星の手には先程までなかった帯剣が握られ、よろけながらもたちあがっていた。

「てめえにはわかんねえよ。私や月光がどんだけ辛い思いしたかって。」
気迫。それだけでもクランケを怯ませるのには十分だった。
「じっちゃんなんて関係ねぇ。私は…。」
帯剣を振り上げ、星は叫んだ。

「天河 星だ!!!」

帯剣とレイピアが幾重にも交差する。
瀕死の女にこんな力が出るわけない。クランケは焦った。
そして、同時に気付く。
彼女の眼に、恨めしいはずのクランケの姿は映っていなかった。

ただその眼には、かつての「親友」が映っていたのだ――。

隙をついて離脱する星。
向かうは月光の閉じ込められたケース。
飛び上がり、剣を思い切り振りあげた。
クランケが制するが、最早遅すぎた。

ケースは、騒音をたてて真っ二つに破壊された――!





崩れ行く遺跡。そこから人影が飛び出し、少し離れた森に着地した。
気を失っている星と月光。それを救い出したのは紛れもない。
クランケその人だった。

「…なんでお前なんかを、助けてしまったんだろうか。いや、もうそんなこと関係ない。」
聞いてるはずのない言葉を、クランケは星に投げかけた。
「興味がわいた。極限の状態においても、他人を優先したお前にな。」

専門分野だ。応急手当に時間はかからなかった。
命に別条がないのを確認し、クランケは立ち上がった。
「観察させてもらう。勿論、研究対象として、だがな。」
その時のクランケの眼は、先程までの冷酷な目とは打って変わっていた。


「僕に変化が訪れたのも、その時からだった。あの後星に謝罪したら、笑顔で許してくれた。今考えりゃ不思議なものだけどね。」
クランケは微笑んだ。
静かに聞いていたミサキも、頬笑みを返す。
「あの時から星は変わっていたというかなんというか…。」

「…一つ気になったんだけど、貴方の一族ってホウオウにいるんでしょ?貴方の直接的な長…キングとはどうなったの?」
ミサキの疑問に、彼は複雑な表情を見せた。
「キングは、ギルティー・キングは…。」


「殺されたよ。」

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最終更新:2011年04月12日 23:34