とある巨木に絡まる小指
からんころんと
きこえますか
もうすぐ始まる
舞台の合図
笑うキャストは
タダヒトリ?
爽やかな風は止むことなく平原に吹く。
僕を見上げる主は、心配そうに呟いた。
「心の問題なのかもしれないね。こればかりは本人の意思だから…。」
僕のことを心配してくれた友人が呼んでくれたらしい。
迷惑かけてしまったね…。
「
幹久朗さん、思い当たることはないの?」
「いや、何も…あ。そう言えば。」
少し思案した友人は、思い出したように言った。
「『東が戻って来た』とか呟いてた時期があったな…。」
「東?方角の?」
「いや、多分誰かの比喩だろう。こいつ、大抵人を例えで表現するからな。」
友人もそろって僕を見上げる。
「誰のことかまでは分からないが、『東が戻った』ことによって自分の役目は終わったと言っていた。」
「誰か分からない以上、なんともいえないね…。」
主が俯いて考え込む。
「とりあえずアースセイバーに報告して、手立てを考えてみるね。『東』が誰かわかるかもしてないし。」
「悪いな。このところ迷惑しかかけてないけど;」
「いいの。皆の役に立てるならうれしいから。」
主は僕の元に寄り添い、もう一度見上げた。
「我慢しなくていいからね。私は貴方の声を聞くことはできないけど、いつでも貴方を思いやってるから。」
嘘偽りないと分かるその言葉に、僕は静かに感謝した。
主が帰ったのを見送りながら、僕は友人に自然と訊いていた。
『…ねぇ。』
「うん?どうした?」
『…「ヤクソク」って、何?』
「えっ?」
驚いたように彼は僕を見た。
『昨日ぼーっとしてたら、見たことない女の子が平原にきて、僕に話しかけてきたんだ。』
「そんなことがあったのか。ていうか、あの森よく通って来たな…。」
友人がいうのも無理はない。
あの森はただでさえ暗いのに、木に変えられた人間が沢山いる。
友人が戻そうと頑張っているんだけど、その数はなかなか減らない。
「…つか、最近上の空なのそのせいか?」
『違うよ。『東』が戻ったのはその前。でも、不思議な子だなぁって思ったんだ。』
しっかり覚えてる。僕みたいに世界をしらない女の子。
僕のことを「ようせいさん」と呼び、返らない返事を待つように声をかけた。
低い枝に小指を絡ませ、「ゆびきりげんまん」と口ずさんだ。
そして、彼女は思いもよらないことを口にした。
「ようせいさん、さびしくない?」
寂しいなんて、考えたことなかった。
それが当たり前だったから。
そう聞かれて僕は
たとえ声が出せても答えられないなと直感した。
世界を知らない少女
知らなさゆえに気付けない
その絡ませた指の『ヤクソク』の軽さを
守られる保証のあまりの薄さを
からんからんと開場の合図
白い闇の中に
『ヤクソク』なんて存在しない
『…かわいそうなのかな、僕…。』
また上の空で僕は呟いた。
そんなことないと言ってくれた友人の体温を持たない右手が、温かかった。
追記
「『東』ねぇ…。最近人の往来が激しいので、誰の事やらさっぱりでありマスが…。」
「…そうだ。月光さんの所に行ってみない?月光さんや星さんなら何か分かるかもしれない。」
最終更新:2011年04月30日 20:49