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天ノ川ノ叫ビ~白ト黒~

天ノ川ノ叫ビ~白ト黒~

誰も知らない、いかせのごれの一角。
そこにぽつりと、白い十字架がたっていた。

彼女はその十字架の近くに、赤い薔薇の花束を置き、両手を合わせて拝んだ後、十字を斬った。
そよぐ風が、彼女達の髪をなびかせる。
一歩引いた彼女の後ろで、男は声をかけ出した。

「…お久しぶりです。そちらの世界で、貴方は何をしているのでしょうか。」
まるで眼の前にいるかのように、彼は言葉を紡いでいく。
「こうしてお会いするのは何時振りでしょうか。いや、彼女と一緒にここにくるのは初めてですね。」
すんなりと声は出るのに、もう帰ってこない姿を思い浮かべ、彼は仮面をとって涙をぬぐった。

「…じっちゃん。」
彼女もまた、誰もいない空間に呼びかけた。
「言いたいことはたくさんあるんだ。私たちの中で、変化はたくさんあった。でも、これだけは先に言わせてくれ。」
白い十字架に彫られた英語――「Guilty=king」を指でなぞり、彼女は呟いた。
「『あの時』はごめん…。ありがとう…。」



閑散としていたストラウル跡地に突如天にも上るように黒い塔が立った。
突然すぎる異変は、世間と隔離されて生活していた星も容易に気がついた。
幼馴染の月光を連れそこに向かう。
一晩でできたその黒い塔は機会独特の高音を放ち、所々で光りながらシステムを動かしていた。

「なんじゃ、あれは…。」
驚く月光。
しかし、星にはあれが何なのか容易に理解できた。
クランケが語った「新たなる計画」。
つまり、あそこには…。

「…月光。アースセイバーよんで来い。」
「え?」
「私は…先に行く。」

重力を味方につけた足は、容易にその重い扉を蹴破った。
黒い塔に光が射すなり、待ち構えていたのであろうパニッシャーが一斉にこちらを向く。
刃渡りたったの5センチのナイフを握り、彼女はその集団へと突っ込んでいった。

十数体のパニッシャーを巻き込んで壁にぶつかると、近くにあった階段を駆け上る。
部下であろうマント姿の人間さえもかわし、ひたすら上に登っていく。
踏みしめる階段の先、顔を上げる。
そこにいたのは見覚えのある白い姿。
仲直りはしたが、仮にも立ち位置は敵。
刃を交えるのかと思い、星はナイフを握りしめた。

しかし彼は何もせずに素通りした。
そのすれ違う一瞬。彼は星の耳元に囁いていた。
「主格はこの上の突きあたりにいる。」
彼女は走りながら振り返る。
彼は仮面越しに「止めてくれ」と無言で頼み込んだ。
彼の意志をくみ取り、星は歩を進めた。





彼の言った通り、突きあたりに現れたのは機械仕掛けの重く黒い扉。
簡単には壊れないと判断した星は、50mほど離れて振り返った。
そして、「重力操作」で一気に扉に突っ込み、その扉を蹴破った。
反作用を利用し能力を解除して着地する。
そしてその広い空間の中央に佇む人影を、星は睨んだ。

激しく音を立てて崩れた扉に驚くでなく、その「人影」はゆっくりと振り返った。
彼女の友人と同じ、白いマントと燕尾服。
くすんだ白髪と髭は長いまま整えられ、左目のモノクルの下には、瞳だけがくっきりと浮き上がる白い眼があった。
そして頭にかぶった白いシルクハットには黒いラインが入り、同じ黒で一筋の流れ星が刻まれていた。

彼は顎を上げ、星を見る。
光の反射するモノクルに、ホウオウのエンブレムは刻まれていた。
星は察した。この男が、友人の言う「長」であると。
彼女はその名を、口にしていた。

「お前が…『ギルティー・キング』か…!」
「…よくここまで来たな。会いたかったよ、星。」
彼…ギルティー・キングは微笑んだ。
外国人のような素振りで両手を広げ、こちらに近づく。

「成長したな。わしのことは覚えていないか?」
「覚えてるわけねぇだろ。私は小さいころの記憶がないんだ。」
「そうか…。悲しいことだ。」
キングはそう言うが、口は笑っていた。

「この黒い塔…何に使うつもりなんだ。」
「世界の合理化の第一歩のためだ。今この塔にはあらゆるエネルギーが集束している。」
カツンと靴を鳴らし、彼は語りだす。
「エネルギーがある規定値を超えると、衝撃波として一気にこの塔から放出される。それで汚れた人間を一層だ。」

「そんなことして正しいと思ってるのかよ。」
「ああ。そう思ってるからこそ、わしはホウオウ様よりメインの指揮を命された訳だからな。」
「っ…。」
右手にナイフを握り、低く構える。
彼はそれに動じずに言葉を返した。

「…わしに刃向う気か?」
「てめえがやってることは正しくない。それを気付かせてやるよ。」
「全く…。反抗的な子になってしまったものだ。」
彼はそう言うと、レイピアをとりあげた。

二つの刃が同時に火花を散らしたのは、その直後だった。
互いに一歩も引かない対峙が続く。
同時に刃を離し、間を広げる。
星が飛び上がる。重力を無視し天井に着地すると、そのまま地にいるキングに向けて蹴りだした。

…はずだった。

蹴りだした後に気がついた。
居るはずのキングが、地面にいない。
そう思った時、背中に何かを叩きつけられた。
思わずそこを見上げる。

天井から数十メートルの位置。
居るはずのないキングが、
レイピアの柄をその背に叩きつけていた。





「かっ…!」
そのまま思い切り地面に突っ込む。
轟音と土煙をあげ、ひび割れた床に星は突っ伏した。

そのすぐ近くにキングが降り立つ。
伏したまま星は彼を見上げた。
「まさか…お前も「重力操作」をっ…!」
「当たり前だろう?わしとしては使えない方がつじつまが合わないのだがね。」

レイピアの切っ先を下に向ける。
「久しぶりの再会がこんな形になるなんて、とても残念だよ、星。」
一歩ずつ、こちらに向かってくる。
「しかし、敵対してしまった以上避けられない運命。許してくれ。」
体は痛みで動かない。
ああ、もう終わりなのか。
彼女はあきらめたかのように、眼を閉じた――。


『――。』
…?
『――し――。』
…誰だ?
『――の…。』
これは…誰の声だ?
『―…どの…。』
…そうか、この声は…。
『ほ…殿…!』
私の、大切な…!

「星殿!きこえるがか!!」
彼はアースセイバーを引き連れて戻ってきていた。
そして、襲い来るパニッシャーを木刀でなぎ払いながら、一階から屋上まで届く音量で叫んでいたのだ。

「もはや時間はないぜよ!ここから駆け上がる暇もない!」
枯れかかった声を振り絞り、伝えようと声を張り上げる。
「この計画をとめるのは、星殿しかおらんのぜよ!だから!」
後ろからのパニッシャーを一斉になぎ払い、あと少しと叫んだ。
「命に変えても、いかせのごれを守るぜよ!」

「星殿をみとめた人々への、精一杯の『恩返し』を、ここで成し遂げるんじゃぁ!!」


振り下ろされたレイピアを、間一髪でナイフで受け止めた。
「!」
その切っ先をはじき、ふらつきながら立ち上がる。
その手からナイフを落とし、左目の包帯に手をかけた。

「…まだ、やれるというのかね?」
「…ああ。」
一気に包帯を引きはがす。
勢いになびく包帯はそのまま形を変え、帯剣へと変化した。

「皆が…私を待っているんだ。」
血の滴りが止まった。
傷が、打撲が、みるみるうちに回復していく。
彼女は赤い眼に映る、白いシルクハットに切っ先を向けた。
「私は負けねぇ。この企みを、ここでぶっつぶす!!」

正面から真っすぐ突っ込む。
見計らったキングが上からレイピアを振り下ろした。
ところが次の瞬間には眼の前に星がおらず、斜め後ろに回り込んで構えていた。
横に払われた帯剣の切っ先から逃れ、そのまま間を開ける。
袖とマントが僅かに切れた。比べ物にならない速さである。

彼は大きく飛び上がった。
同時に星も飛び上がる。
レイピアの柄をしかとにぎり、「重力操作」で同時に突っ込んだ。
刃同士は、力強い重力とともに空中で交りあった…。


地面に倒れる人を見ながら、荒い息を吐いていた。
帯剣は包帯に戻り、地面に落とされる。
地面には少しずつ、血が流れだす。
倒れた人を見ながら、その人物は呟いていた。

「…私の、勝ちだな。」
「…ああ。わしの、負けだ。」

見上げるキングは、不思議と穏やかな表情をしていた。
先程までの冷酷な笑みとは打って変わって。
「暫く見ない間に、本当に成長した…。」
星はその姿を、茫然と見ることしかできなかった。

「記憶を失っているのはちと残念だったな…。いや、それよりも、お前と刃を交えなければならない方が残念だった。」
「な…何を言っているんだよ…?」
星の声も聞こえない風に、彼は続ける。
「…しかし、お前に殺されるのはある意味本望だったな…。」

星はキングに寄り添い、しゃがみこんだ。
「…ありがとう、星。」
キングは腕を伸ばし、彼女の頭に手を置いた。

「我が…孫よ。」
「!!」





頭の中に記憶はない。しかし。
体が、心が、その記憶を覚えていた。
山奥で祖母と暮らしていたあの時。
まれに、その家に祖父が帰ってきていた。

犯罪心理学者・天河 光。
それが星の知る「祖父」だった。
彼は仕事の合間に家に帰って来ては、幼かった星と話してくれた。
謎解き好きの彼女の原点も、祖父にあったのだ。

「いいか、星。しっかり頭を使って考えるんじゃ。」
「あたまをつかって?」
「色んな視点から物をみる。これが謎解きの基本。」
「…?」
「例えばそのパズル。ひっくり返してみてみぃ。」
「うん。…あ!」
「そう、そこからこうやって…。」
「わぁ!できたー!」

両手をたたいて喜んだあの時。
眼の前にいたのは、誰よりも大好きな祖父だった。
誰もが嫌った星を受け止め、大切にしてくれた祖父だった。

彼が突然「これなくなった」と言い出したのも、そんな幼いころだった。
仕事の関係で遠方に発たねばならなくなったと言っていた。
彼女は祖父にしがみついて、いかないでと泣きじゃくった。
彼は星をなだめると、きれいな赤い星の髪止めを渡した。

「これがあればいつか必ず会える。約束しよう。わしは絶対戻ってくる。それまで待っていてくれるな?」
「うんっ!わたし、まってるから!」
彼は笑顔で、星の頭をなでた。


そう、あの時の記憶だけ、何もかも思い出した。
「…じっちゃん…。」
その言葉にキングは微笑むと、そのまま眼を閉じた。
頭に乗せられた手は、力なく床に落ちた。

「じっ…ちゃん…っ!!」
堪えようとしているのに、涙が止まらない。
冷たくなった手に、しずくが落ちていく。
罪の重さに、初めて気がついた。
その重圧に星は、耐えられなくなっていた。

「うっ…ああああああああああああああああ!!!!」


下から見ていた月光からも分かった。
激しい爆発音や破壊音と共に、星が飛び出してきたのだ。
「ほ…星殿…?」
その様子は、いつもの星ではなかった。
強いて言うなら、彼女は発狂していたとでもいおうか。

無我夢中で破壊し尽くす。
サーバーは飛び、システムは停止。
それでも彼女は止まれなかった。

壁を突き破る。
高すぎるビルの屋上から、ストラウル跡地に転落する。
力を使い果たした星に、なす術はない。
そのまま地面へと、体を投げ出していた。


砂埃が上がる。地面がへこむ。
星の体は地面に叩きつけられ…なかった。
彼女を抱きかかえたのは、亜音。
自らのナイアナで星をうまく受け止めていた。

「…玉置!星の治療を頼む!いそいで!」
「わかりました!」
アースセイバーの面々より一足早く駆けだす。
亜音は星を見ながら呟いていた。
「全く、無茶ばかりするんだから…。」

「辛かったでしょうに…。」





星は小さなパズルを、十字架の前に置いた。
「覚えてるか?私が初めて解いたパズルだ。ここから、私の謎解きは始まった。」
なつかしむように彼女は言う。
「私は謎を解くもの。じっちゃんは謎を「作る」ものだった。そうだろう?」

「…僕も覚えています。貴方のことを。」
クランケは一歩前に出る。
「『わしに盗めないものは何もない。そしてわしは、人々が笑顔になるように物を盗む。』僕を引き入れる時、貴方はそう言ってましたね。」
路地裏の暗い世界で手を差し伸べた白い男。
その時の輝きを、忘れるわけがない。

「そして貴方は配下の怪盗たちから『老』と『死』を奪い去った。完璧ではありませんでしたが、僕らの寿命は格段に伸び、長らくの生の喜びを教えてくれた。ある意味で僕たちは、「人外」の存在になった。」
「その血は私に受け継がれた。でも、私は人並みに成長するし、年もとる。」
星がクランケと並ぶ。そして、左目の包帯を外して言った。
「その理由は、じっちゃんが埋めてくれた、この「賢者の石」だ。」

「生命力を吸い取るこの石が、消えたも同然の寿命と吊りあい、「人外」の私は「人」になれた。泣いてまで従ったじっちゃんの決断は、私の喜びにつながった。」
星は微笑んだ。
「だから私は、じっちゃんを恨んだりしねぇ。ずっと感謝し続ける。私に「人」の喜びを与えてくれたんだからな。」

「その代り、私はじっちゃんの恨みを晴らす。」
凛とした顔つきで、星は言った。
「敵は見えた。かつてのじっちゃんを消し去ったのはホウオウグループ。だからは私は、この手でホウオウを倒す。」
「僕はホウオウと違う方法で、世界の合理化を目指します。」
「「だから。」」

「「見ていてください。」」

薔薇の花弁が宙を舞う。
そこにいるはずの祖父がまた帰ると信じて、
星は髪飾りを握った。

一つの光を消した星は

拭いきれない罪を背負って

一つのけじめをつけ

また千の郷をこえようとする

その先にあるのが

白い光と信じて

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最終更新:2011年05月05日 15:59