アットウィキロゴ

白い闇の行く先は

「……面白くありませんねぇ」

流也が月光と再会する、少し前。とある場所、大木に寄りかかるヴァイスは独り呟いた。
いかせのごれに来てからこちら、やることなすことどうも上手くいかない。何人か「壊し」にかかったりもしたが、立て続けに失敗。しかも、その内二度は夜波 マナの介入が原因だ。

「文字通りの人外が……全く、忌々しい」

彼女の家族を「壊し」たのは随分前だ。正直、半分忘れていた。まあ、それほど面白い見世物ではなかったこともある。

「……最初に『壊し』たのは、いつでしたかねぇ」

ふと、頭の中を流れる思考が過去に飛んだ。



ヴァイス=シュヴァルツが初めて人を「壊し」たのは、9歳の時だった。
思えば物心ついた時から、何か妙な感覚はあったのだ。今見ると、それは人を操る「マニピュレイト」発現の兆候だったのだが。
そしてその日、彼は何の気なしに、その「感覚」を、三者面談に来ていた母親に対して使ったのだ。

その時、全てが壊れ、何かが始まった。

その力を御する術を持たなかった彼は、母親を中途半端にしか操れなかった。結果として彼女は半覚醒状態で学校内を暴走し、あちこちに衝突して血を流し、最終的には階段から転落して死んだ。
その顔を、驚愕と恐怖に染まった死に顔を見た時、彼は感じたのだ。

「これは、面白い」と。

自分の力で人を操り、そして一つの道を終わらせた。その事実に対して、例えようのない感覚を覚えていたのだ。そう、「愉しい」というべきなのかもしれない。
そしてその日以来、彼の全てはがらりと変わった。

何度も力を使ってはその扱い方を感覚で覚え、使いこなせるようになってからは最高だった。
次から次へと人を操り、「壊し」続けた。ある時は人間関係を、ある時は人生を、ある時は組織や家族を、ある時は人格そのものを。とにかく、人の持つあらゆるものを「壊し」続けた。そしてその度、「壊された」者たちの叫びを聞き、失意と絶望の表情を見るたびに、恍惚にも似た感覚が全身を駆け廻った。
中でも、人の関係を、人の心を壊すことが何より楽しかった。





生きて行くのには全く困らなかった。人を操れば、その程度は容易いことだった。
だから、自分の楽しみに、「壊す」ことに全力を傾けられた。実に、楽しかった。人は呆気ないほど簡単に壊れ、あるいは崩れて行く。実際問題、本当に見て楽しいのは「壊れた」後ではなく、その瞬間だった。
いつしかその瞬間を見届けるべく、脚本家を気取るようになっていた。適切な「舞台」、壊すべき「主役」、それを引き立たせる「脇役」。そけらを用意し、崩壊の結末へ至るシナリオを描き、監督し、そして観賞する。
「壊す」こととそれを見ることのみならず、その経緯と手間にやりがいを覚えるようになっていた。

(フ……一つ違えば、ワタシは映画業界にいたかも知れませんがね)

過去を思い返し、ふとそんな感想が浮かんだ。この男に、これまで「壊し」て来た人々、その結果に対する罪の意識など、欠片もない。既にこの男は「壊れて」いるのだから。
いや、

(そうでした、そうでした……二番目に「壊し」たのは、ワタシ自身でしたね)

母親が死んでからしばらく、「破壊」にとりつかれたヴァイスは、それに没頭すべく自身に対して力を使った。即ち、罪悪感や倫理観、良心を「壊し」たのである。その時、ヴァイス本来の人格は崩壊し、代わって今在る「ヴァイス=シュヴァルツ」が構築されたのである。

(ま、どうでもいいことですが)

おっと、いつまでも回想に耽っていても仕方がない。
寄りかからせていた身を起こし、次なる一手を考える。とはいっても立て続けに失敗したばかり、今動いても望む結果は得られないだろう。
とりあえず、ここは次のシナリオ案でもまとめつつ、待つとしよう。

「さて……ん?」

ふと、背後の大木を振り仰いだ。
平原の中、ぽつり佇むその木は、やけに太く力強い根と幹を持ったその木は、赤い実をつけて青々と茂った枝葉をざあ、と風に揺らしている。……が。

「………?」

なぜか、ヴァイスはその木が何かに怒っている、あるいは動揺しているように思えた。
さらに、足下から何かの気配を感じる。そう、何と言うか、蛇と言うか何と言うか、そういうものが蠢いているような、奇妙な感覚。

「……長居は無用ですね」

呟いて一瞬、地を蹴ったその姿が一瞬にして消えた。



白い闇の行く先は

(白い闇は姿を消した)
(確かにどこかに奴はいる)
(気付かぬ内にそこにいる)


(たとえば)


(ほら)




(あなたの後ろとか……)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年05月24日 03:17