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それぞれの恋路、それぞれの戸惑い

「はぁ……」

放課後の廊下を歩きながら、僕は盛大にため息をついた。今日一日で何回目になるだろう。

「……はぁ」

理由は簡単。どうも最近、トキコと目を合わせづらいということだ。
ヴァイスの一件の時、高揚した気持ちに任せて告白したはいいんだけど……トキコの方からのリアクションがさっぱりない。

(もしかして、僕はフラれたのかな……)

そんな考えが頭をよぎり、背筋が少し冷たくなった。正直僕は、受け入れるだのなんだの言いながら、そうなった時のことを全く考えていなかった。

(……他の連中を笑えないな、僕も)

アオイに相談したら、「事情がかなり特殊ですし、そうそう答えは出せませんわ」と言っていた。まあ、確かに、それはそうだろう。
大体、最初にアプローチかけたのは僕だ。いや、「あれ」をアプローチと言っていいのかどうかは知らないけど。

とにかくそういうわけで、最近は読書にも何だか身が入らない。行方不明の「幻想物語」第4シリーズも、買い直す気はさすがに起きない。あれのテーマは「愛」だった気がするから、是非とも読みたかったんだけど。
そういえば誰かが愛について語ってたことがあったな。互いに……。

(あれ、僕は何を考えてるんだ)

思考がどんどん別の方向に向かっていた。これはもしかして逃避の一種だろうか?

「あら。姉様、今お帰りですの?」
「アオイ?」

階段を降りようとした所で、下から上がって来たアオイと出くわした。鞄を提げている所を見ると、忘れ物か何かだろうか?

「どうしたんだ?」
「姉様を迎えに来たのですわ。なかなか来られませんもの」
「ああ、そうか……ごめんな、遅くなって」
「いえ、いいですわ。では、帰りましょうか」
「そうだな」

二人連れ立って階段を降り、踊り場を回って下に向かう。と、

「―――してわかってくれないの!?」
「お、おい、冬也!?」

「「?」」

廊下の向こうからそんな声が聞こえた。気になって顔を出した、

「うわっ!?」
「あら?」

その瞬間に、隣を誰かが走って行った。あれは確か……。

「1年の、冬也だっけ?」
「凪さんの……ええと、何と言えばよろしいのでしょうか?」
「弟分と言うか、何と言うか……」
「あっ、スザクにアオイ! 冬也見なかったか!?」

今度は凪が走って来た。随分混乱しているようだけど、何があったのだろうか。





「凪? どうしたんだ、一体」
「いや、それが……」


凪の言う所では、英語がさっぱりわからず困っていた冬也を教えに1年の教室に来ていたらしいのだが、その際のやり取りが、


『凪姉』
『なんだ?』
『大好きです』
『ありがとう。でもそろそろお姉ちゃん大好きはアレだぞww』
『どうして…』
『は?』
『ずっと好きなのに、どうしてわかってくれないの?!』
『お、おい、冬也?!』


だったらしい。

「ワケがわかんない……どうしたんだ、冬也のやつ」

『………』
「あれ、二人ともどうした?」
「……何でもない」
「……何でもありませんわ」
「?」

疑問符を浮かべる凪を横目に、小声で言葉をかわす。

(あれでわからないって……ちょっと待てよ)
(凪さん、これはちょっと……)
(まあ凪の場合、冬也の感情が弟→姉のそれだと思ってる節があるからな……)
(先入観は事実を見えなくする……よく言ったものですわ)

一頻り話したあと、揃って凪に向き直る。

「……仕方ないか。冬也は僕が追っかけて話をする。アオイ、頼むよ」
「ええ、お任せを」

頷き合ったのを合図に、僕は走って行った冬也を探し、階段を駆け降りた。
伝わったのか、伝わらなかったのか。その違いはあっても、僕と彼は似たような存在だったから。



「……スザクはどうしたんだ?」
「その内わかりますわ。ところで、凪さん?」
「ん?」

残されたわたくしは、凪さんに声をかけました。無論、姉様から頼まれた通りにするのですわ。

「聞いた話ですけれど……あなた、冬也さんの『騎士』を自称しているとか」
「だ、誰から聞いたんだ……まあ、そうだけど」
「では、一つこちらをお読みになって下さいます?」

鞄の中から取りだして渡したのは、一冊の本。いわゆる「王子とお姫様」ものの話なのですが、これは少し経過と結末が違います。

「これは?」
「読んでみれば、冬也さんの想いが少しはおわかりになるかと」
「……?」


それぞれの恋路、それぞれの戸惑い

(すれ違う感情、届かなかった想い)
(逃げ出した彼を、朱雀は追う)
(同じく、想いを打ち明けた者として)


余談。

「見たことない本だな……これ、どこで?」
「昔、頂いたものですわ。ツバメ叔母様の作品ですの」

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最終更新:2011年05月26日 01:30