「おっと、忘れるところだった」
「?」
擬人兵のパーツを抱えたまま怪訝な顔をするトキコに、俺はここまで来たもう一つの理由を思い出した。
懐から写真を出し、見せる。
「これを渡しておく」
「……誰、これ?」
恐らくトキコやリオト、学生メンバーは知らないだろう。この少女は、かなり前に俺と組んでいたメンバーだ。
「生体兵器だ。といってもかなり初期のタイプで、どちらかといえば強化人間と言うべきか」
「ふーん……で? この人が何なの?」
「どこかで見かけたら教えてくれ。ちなみにこれはグループの命令ではなく、俺個人の事情だ」
相変わらず疑問符を浮かべたままのトキコに、俺はやや詳しく説明する。
「そうだな……UHラボは知っているか?」
「………知らない。名前くらいしか」
「だろうな。かなり前の話だが、ジングウ管轄の生体兵器開発チームがあった」
ジングウの名が出た途端、トキコの顔があからさまに不機嫌になった。そんな顔をするな、俺も同感なんだ。
「……続けるぞ。で、簡単に言うと、そいつらはとある事情からグループを追い出されたんだが、成果を出して返り咲こうと、独自に研究を続けていた。その場所と言うのが」
「その、UHラボ?」
「ああ。主に研究していたのは能力者の兵器化。そのために、各地から素質を持つ子供を拉致しては、洗脳・強化を繰り返して最強の『躯体』を作ろうとしていた。……ソースはわからんが、な」
だが、そんな都合のいいことがあるはずがない。
「だがな、それこそまさに非合理的というべきだろう。奴らは総帥の目指す所を理解していなかった。俺よりもな」
「……鴉さんよりわからないってことは、相当ダメな集まりだったんだね、それ」
まったくだ。研究だけが能の「賢い愚か者」達。
「俺は当時、そいつと組んでUHラボの捜索に動いていた。だが、連中隠れるのだけは上手くてな。ほとんど掴めなかった。まあ、当時は今ほど人員もいなかったんだが」
「それで、結局見つかったの?」
「見つけた。いつもの如くコンビで動き、俺は施設を破壊して素質のある奴を何人か連れだした。ま、その後のことは本人次第だったが……っと、話が逸れたな」
本題はここからだ。なぜ、そいつを探すのか。
「その任務以来、そいつの姿が消えた。忽然と、だ」
「……もしかして、裏切ったの?」
トキコの声に剣呑なものが混じる。そうだったら、いっそ楽なんだが。
「いや、違う。本当に忽然と、消息を絶ったんだ。任務を終えて出てきたら、戦闘の痕跡だけ残して、だ。以来、そいつの情報がぱったり途絶えて、それっきりだ」
「………」
「どこで何をしているのか、そもそも生きているのかもわからん。だが、ラボ襲撃の任務の半分はそいつがやった。その顛末を聞いて報告しない限り、俺の任務は終わったとは言えん」
総帥や他のメンバーからは既に終了したものとして扱われている任務だが、俺にとっては未だ継続中だ。
「研究員の半数は取り逃がした。もしかしたら、今でもどこかで研究を続けているのかも知れん。そいつらを全て消さない限り、あの日の任務は終わらん」
「……鴉さん、割と真面目だね」
「俺にはそれしかない。任務が全てだからな」
そう、少なくとも今は。
「……わかった、見かけたら連絡する。鴉さん、この人の名前は?」
「名前? ……コードネームは『レイン』」
「本名は『夜(ナハト)』だ」
鴉の依頼
(探し求めるはかつての相棒)
(消えた理由と、任務の顛末)
(それを聞くまで、探し続ける)
「……鴉さん、本当に任務の事情で探してるの?」
「? どういうことだ?」
「この人、鴉さんのいい人?」
「そんなことはない」
「……と、思う」
最終更新:2011年05月31日 21:04