M1973装甲兵員輸送車(VTT-323)



性能緒元
重量 12.7トン
全長 6.2m
全幅 3.06m
全高 2.50m
エンジン ディーゼル(320hp)
最高速度  
浮航速度  
航続距離  
武装 14.5mm重機関銃×2、もしくは14.5mm×1と7.62mm×1
  9K32「ストレラ2」対空ミサイル(SA-7 Grail)もしくは9K310「イグラ1」(SA-16 Gimlet)×4
装甲 圧延溶接装甲
乗員 3名(車長、操縦手、砲手)+歩兵5~10名

VTT-323は北朝鮮国産の装軌式兵員輸送車。1973年にその存在が確認されたため、米国防総省はM1973の認識名を付与している。

中国の63式装甲兵員輸送車(YW-531)の車体を延長した拡大改良型だが、同じような改良が施された中国製の85式装甲兵員輸送車(YW-531H)とは全くの別物である[1]。

車体は圧延装甲板を溶接して製造されるが、12.7トンという重量からその防御力は小銃弾や砲弾の破片を防ぐ程度と思われる。車体レイアウトはほぼ63式装甲兵員輸送車に準じているが、63式が12.7mm重機関銃をピントルマウント式に搭載しているのに対して、VTT-323は車体上部に小型の一人用砲塔を有している。初期型は14.5mm重機関銃と7.62mm機関銃を連装で搭載していたが、14.5mm重機関銃2挺装備に変更[5]。さらに砲塔後部に携帯型対空ミサイル4連装発射器を備えたタイプが実用化された[1][2][3]。装備する対空ミサイルは9K32「ストレラ2」(NATOコード:SA-7 グレイル)もしくは9K310「イグラ1」(SA-16 ギムレット)[1][2]。通常の装甲兵員輸送車に4基もの対空ミサイルを装備した例は世界になく、制空権を得られない状況での作戦を前提として少しでも地上部隊の車輌に対空能力を付与しようとする北朝鮮の運用方針が垣間見える兵装といえる。一部では機関銃の上に9M14「マリュートカ」対戦車ミサイル(NATOコード:AT-3 サガー/Sagger)を装備している図が発表されているが[2]、画像ではそのような装備は確認できない。車体側面には少なくとも2基以上のガンポートが配置されており、車内からの乗車戦闘能力を有している[3]。

車内の配置は63式装甲兵員輸送車と同じで、一般的なAPCのように操縦手席の隣に機関室を置かず車長席を置き、動力部は車体中央、その後方に兵員室を配している。固有の乗員3名(車長、砲手、操縦手)に加えて10名の歩兵を搭乗させる[3]。

搭載されているエンジンの型式は不明だが出力は320hpとされる[1]。前述のように車体は延長され、転輪は片側4個から5個に増えているが、63式装甲兵員輸送車(WZ-531)の足回りを基本としていると見られ、同じように転輪が5個に増やされ改良されたYH-531Hが装備した上部転輪は存在せず、転輪幅も拡大されていない。車体前部にはトリムベーンが装備されており、完全な浮航能力を有するものと思われる。ウォータージェットなど水上航行時に使用する推進装置は装備していないと見られるので、水上航行時の推進力は履帯によって得ると思われる。

VTT-323は北朝鮮陸軍の標準的なAPCとして運用されている。北朝鮮の機械化歩兵大隊の定員は520~550名。大隊司令部、3個歩兵中隊、一個対戦車小隊、迫撃砲小隊、対空小隊で編成され、約45~54輌のVTT-323とその派生型と14~15台のトラックを保有する[3]。

機械化歩兵大隊の装備車輌は以下の通りになる[3]。
大隊本部 63式APCもしくはVTT-323 APC 3輌
3個歩兵中隊 VTT-323 APC 30輌(中隊長車1輌+3個小隊分9輌×3)
対戦車小隊 M1985/M1992自走対戦車ミサイル車輌(対戦車ミサイルはAT-3/4/5) 3~5輌
迫撃砲/多連装ロケット中隊 VTT-323 82mm自走迫撃砲/M1993 120mm自走迫撃砲もしくはM1992 107mmMRL 9~11輌
防空小隊 M1985 37mm自走機関砲 3~5輌

VTT-323は各種の派生型が開発されており、コマンドポスト型、対戦車ミサイル発射器を装備した戦車駆逐型、107mm18連装ロケット弾発射機を装備した軽MRL型、M1984/M1992自走対空砲型など様々なタイプが確認されている。また、VTT-323の設計を基礎として、82式水陸両用戦車(PT-85/M1985)が開発された。各種派生型を含む累計生産数は不明。

VTT-323はコンパクトなサイズのため車内容積が限られる上、エンジンを車体中央に配置したことで車内配置が効率的でない問題点が指摘されている[4]。VTT-323の開発着手から約40年を経ていることから、後継となる車輌の開発が行われていると考えられている[4]。

【VTT-323派生型一覧】
任務 米軍呼称
APC型(初期型) M1974 基本型。14.5mm重機関銃と7.62mm機関銃を連装で搭した一人用砲塔を装備。乗員は3+10名
APC型(武装強化型) M1974 武装を14.5mm重機関銃の連装に変更
APC型(携帯SAM搭載型) M1974 砲塔後部に携帯SAM4基を装備
コマンドポスト型 車体後部の天井を嵩上げして容積を確保。各種通信機器や拡声器を装備。
自走高射機関銃型 車体後部に4連装14.5mm重機関銃ZPU-4を搭載
82mm自走迫撃砲 82mm迫撃砲を搭載して火力支援に当たる
120mm自走迫撃砲 M1993 旋回式砲塔に120mm迫撃砲を搭載して火力支援に当たる
107mmMRL型 M1992 18連装107mmロケット発射機を車体後部に搭載。副武装として14.5mm重機関銃×1を装備
122mmMPL型   2012年4月15日の軍事パレードで登場した車輌[8]。6連装122mmロケット発射機×2を車体後部に搭載
戦車駆逐型 M1985/M1992 車体後部に9K11マリュートカ(AT-3サガー)対戦車ミサイル4連装発射機を搭載。副武装として14.5mm重機関銃×1を装備。9K11ではなく9K111ファゴット(AT-4スピゴット)もしくは9K113コルネット(AT-5スパンドレル)を装備する車輌も存在
82式水陸両用戦車(PT-85) M1985 VTT-323を基礎にして開発された水陸両用戦車
85mm自走砲 85mm対戦車砲D-48を車体後部にオープントップで搭載(搭載砲は100mm砲という説も)
100mm自走砲 100mm対戦車砲BS-3を車体後部にオープントップで搭載
122mm自走榴弾砲 M1977 122mm榴弾砲D-30を車体後部にオープントップで搭載。自衛用にSA-7/16 SAMの4連装発射機を装備した車輌も存在
KN-01自走地対艦ミサイル発射機 車体上部にKN-01地対艦ミサイルを1基搭載

▼鉄道で輸送されるM1973装甲兵員輸送車

【参考資料】
[1]Christopher F. Foss編『Jane’s Armour and Artillery 2006-2007』(Janes Information Group/2006年)350ページ
[2]FAS「Type 85 Armored Personnel Carrier、YW 307、YW 531H (M-1967)、VTT-323 (M-1973)」
[3]네이버 블로그 포스트 리스트「북한군 장갑차 VTT-323 (M1973)」(2012年4月24日)
[4]네이버 블로그 포스트 리스트「북한군의 신형 장갑차」(2012年5月4日)
[5]JED「VTT-323 series of tracked armoured vehicles」
[6]清水惇『北朝鮮軍の全貌』(光人社/2005年)
[7]Global Security
[8]지식의 수집광「북한 야포(견인포, 자주포, 방사포, 박격포) 제원북한군」


2013-05-02 02:24:36 (Thu)

最終更新:2013年05月02日 02:24