以下読んでおくと分かりやすいキャラ設定
『あたし』:駆け出しローグ。本名はカエラ。
姉御:女サムライ。本名はサクハ。
『彼』:ヒーラー。本名はアルフレッド。
副長:ナイト。リーダーに恋する乙女。
ギルマス:メイジ。リーダー:ファイター。姫ちゃん:プリンセス。
ネタバレ:帝竜、ネバンプレス南部担当。
「さあついに来たぞ!帝竜狩りだ!!」
ギルマスのよく通る声が響く。
「てっ帝竜!?」
「マジか!?」
それに応えて副長とリーダーの素っ頓狂な声が飛んだ。
当たり前だ。
あたしもつい最近知ったことだけど、帝竜といえば現在エデンの人類を脅かしているドラゴンを統率する
大陸規模の親玉、その力は時に戦略兵器にも匹敵する圧倒的な脅威なのだ。
「帝竜ってやっぱりあの帝竜ですよね、本気ですかギルマス」
「むしろ正気か?」
「そもそもどこにいるか分かってるんですか?」
「本気も本気、その上正気さ」
次々と上がる疑問の声にギルマスが落ち着き払って答えた。
人間、余りにもさらりと答えられてしまえば二の句が告げないって本当だったんだね。
そうか、と椅子に座りなおすリーダーの呆けた顔が、次第に戦士のものへと変わってくる。
「そうか……本気なんだな」
姉御はといえば、目を向けるとすでに出発の準備を始めていた。流石。
大して多くも無い荷物を手早くまとめながら姉御がギルマスといくつか質問をやり取りする。
「で、勝機はあるんだろうな?」
「もちろんさ」
「誰が行くんだ?編成は?」
「全員出撃、2チームに分かれる。詳しくは後で」
「どういうことだ?まあいい、スケジュールは」
「二時間後に定期船で西大陸の玄関口、港町ゼザに出発。到着後、遠距離移動の準備をして待機。
先方の都合にもよるが明日か明後日にはゼザを出発……」
「先方とは?」
「ああそうそう、これを言ってなかったね。今回は他チームとの合同作戦だ。
ついでにいうと向こうがメインでこちらはサポート的な役割になる」
「ふむ」
「それを先に言ってくださいよ……」
まったく、肝心なことを後回しにする人だ。
メインで帝竜と戦うなんてことになったら、大体のハントマンは遺書を書くってば。
「で、その先方さんってのはどんな人達なんですか?やっぱり強い?」
「聞きたいかい?そうさ、強いも強い、今現在帝竜を倒した唯一の存在、
政府直属の竜殲滅最新鋭にして全世界の希望、新たなる英雄だっ!」
「えっええーーー!?」
「凄い有名人じゃないですか!」
「驚いたな……」
新人ギルドでありながら最初にエデンにやってきた竜を即撃退、三年眠り続けて目覚めるなり
帝竜を倒してカザンを奪還するなど伝説には事欠かない超有名ギルド(といっても他国の民間人にはあんまり
知られてないけど)の名前が出てきたことに全員が多少なりと色めき立つ。
「よくコンタクトできましたね……」
「ってかどうやって話をつけたの?政府から指令をもらってくるような時間は無かったよね」
「なに、皆が頑張ってくれたおかげさ」
「というと?」
「鳥の羽八十枚譲るから少し協力してくれと言われれば、喜んで協力してくれる人もいるってことさ」
あ、鳥の羽、役に立ったんだ。
ふうん。
…………
あたしは冷静に考えて、言った。
「……いや、いないと思いますけど」
「いるんだよ」
――――――――――――――――――――
(引き続きカエラの日記)
以上、昨日の出来事。
現在あたし達はこの港町ゼザで出発の準備を整えている。
とはいっても本当は今日出発するはずだったんだし、準備なんてとっくに終わってるんだけどね。
それにしても港町っていいな。
暖かい日差し、潮騒の音、おいしい魚。遠くにフロワロが見えなかったら完璧だ。
「皆集まって。明日のスケジュールを確認するよ」
っと、ギルマスが呼んでる。いかなくちゃ。
「明日は日が昇ると共に出発、北上してヨーバー大滑砂を強行突破。更に北上して
帝国領バ=ホにて小休止、先方と合流して今度は南下。目的地に到達後帝竜ジ・アースと決戦となる。
注意して欲しいのはバ=ホは現在竜の領域になっていて、店も宿屋も無いってことだ。
かなりの長丁場になるし、現地のネバン軍も余裕は無いだろうから本当に準備だけはしっかりね」
いくつかの質問をした後は自由行動になる。
その場を離れようとして、ふと姉御と目が合った。
頑張ろうね。
――――――――――――――――――――
(サクハの日記)
サクハって誰?と聞かれれば、私のことだというよりかは無い。
とあるギルドに所属しているハントマン、サムライの高みを目指す未熟の一人だ。
私達は久しぶりの大戦を前に遠出の準備を整えていた。
「……現地のネバン軍も余裕は無いだろうから本当に準備だけはしっかりね」
メイジが色々と注意を出しているが、まあ特に聞き漏らしも無いようだ。
準備も終わったし後はサムライらしく瞑想でも……
そのとき、ふとその場を離れようとしていた妹分と目が合った。
その妹分であるところのカエラから、愛嬌豊かな表情と共にウインクが飛んでくる。
…………ばーすと。
忘れようとしていた記憶が脳裏で爆ぜ、気付いたときには私は全力で逃走していた。
元はといえば、全ての原因はこの手紙だった。
プレロマに立ち寄った際、宿屋の受付を通してカエラから受け取った手紙だ。
わざわざ手紙で何の用だと思い、開封してみて仰天した。
それはその、いわゆる恋文、巷ではラブレターと呼ばれる代物だったのだ。
なんということだろう。
私にはそっちの趣味は無いぞ!?
これは一体どういうことだ。
この半年ほどカエラとは共に過ごして、あいつにそのケがあると疑ったことは一度も無かったのに。
私に取れる道は二つ。
A、カエラの未来のためカエラを諭し、諦めさせる。
B、カエラの想いを受け入れ、二人でめくるめく百合の園へ……
……いやいやちょっと待て落ち着け私!!
いくらなんでも話が飛躍しすぎだ。エデンの外まで飛んでいくつもりか?
ここは落ち着いて、いくつかの可能性を探りながら今回の事を整理してみよう。
――――――――――――――――――――
(カエラの日記)
「「あの」」
……
「あ、先にどうぞ」
「どうも。で、副長」
「はい」
「あれ、役に立った?」
「……すいません、あれって何でしたっけ」
「ああもう、副長に頼まれたラブレターのお手本だってば。受け取ったんでしょ?」
「……あのですね、今私もそのことをお伺いしようと思っていたんですが……
まだ書いてはいただけないのかと」
「へ?」
……簡単に説明しよう。
恋する乙女であるところの副長は、その生来からの気質だかなんだか知らない煮え切らなさで
その憧れの相手であるリーダーとの仲を進展させられずにいた。
それを見かねたあたしとギルマスは副長にラブレター作戦を持ちかけ、ついでにあたしは
何をどう書いたらいいか分からない副長のために入魂のお手本を書きました、まる。
「……それが副長の手に渡ってない?そんなはず無いよ、出発際受付の人は確かに渡したって……」
「そう言われても、現に……どうしちゃったんでしょうか?」
「副長によく似た人がいて渡しちゃったのかなぁ……」
「確かめようにもプレロマは海の向こうですし」
「しょーがないなあ。あたしが見てるから今書いてみる?」
「あ、お願いします」
……それにしても、ほんとどこ行っちゃったんだろう?
あれを受け取った人は今頃どんな顔をしてるのかな。
――――――――――――――――――――
(サクハの日記)
鬼の形相をしようとしたら目の前に純粋な目で見上げるマスクナッツの仔がいたような顔。
わたしはきっとそんな顔をしているだろうか。
とりあえず現実的な可能性を考えてみよう。
その一、これはカエラからの悪戯である。
一見これはとてもありえることのように思える。しかし考えてみると、カエラはこれまで散々
軽口憎まれ口を叩いてきたものの一度たりとて嘘をついたことは無かった。
それはあいつがギルドに加入して間もない頃つまみ食いしたエビフライのことを正直に言ったときから変わらない。
もちろんそれだけで判断するのはなんだが、とりあえずこの場合は保留とすることにする。
その二、これはカエラからではない。間違えて赤の他人の手紙を持ってきた。
そうだ、そもそも私はこれをカエラから受け取ったわけではないではないか。
とはいえ本人に確かめるのも……おお、筆跡を見ればいい。
ええと、前に書かせたメモと比べて……
結論。これはカエラが書いたものに間違いなさそうだ。
その三、これは私宛ではない。
なんだかダメ押しの感が強くなってきたがきっと気のせいだろう。
この手紙は一度他人の手を経由している。間違えて私に渡したということもあるだろう、きっとそうだ。
私は手紙を読み返す……
『貴方は目的もなく、無為に日々を過ごしていた私に新しい……』
『貴方は以前、私の憧れでした。そして今、隣に立ちたいと思う人です……』
『これは貴方のプライドを傷つけるかもしれませんが、それでも言わせてください……』
『私は貴方の盾となり、その傷を半分分けて欲しい……』
『貴方の背中を守れる存在に、私はなりたい』
……
どう見ても私宛て……ですね。
いやいやいや本当に待て!
どうしてことごとく私の願うのとは逆方向に話が進むのだ!?
いや、
だって、
ありえないだろう!?
そりゃ現実としてありえない訳ではなくあって欲しくないだけじゃないかと言われれば否定は出来ない。
だけど、そんな、どうしてそんなことが考えられる!?
いや別に考えたくないほど嫌って訳じゃないぞ、そんな訳じゃない。
うん、まあ……カエラならいいかなと思えなくも……
……何 を 考 え て い る 私 は !!
いやほんと冷静になれ自分。
……
そうだ、カエラにはアルフレッドというれっきとした男の恋人がいる!
それこそカエラが普通の趣味だという証明ではないか。
……ああ、自分は何を馬鹿なことできりきり舞いしていたのだろうか。
状況証拠はそうは言っていないがやはりこれは何かの間違いだ、きっと何か見落としていることがあるのだろう。
そうと分かればすっと肩の荷が下りた。悩んでいたのが馬鹿みたいだ。
カエラにこれを見せに行こう、そして二人で笑おう。
うん、それがいい。
それがいい。
「……正直嫉妬しないでもないけど……でも、サクハさんならいいかな」
それが……
……へ?
(カエラの日記)
「でね、とりあえずマンツーマンで完成させることは出来たんだけど」
「気になるのはどっかいっちゃったほうだよね。受け取った人は目を白黒させてるんじゃないかな」
「ほんとにね。今更どうしようもないってのがまた歯がゆくてさ」
「そうだね」
夕暮れの港町を二人で歩くってのはいいもんだよね。
そうでなくたって夕焼けは、心の中のいろいろなものを溶かし出してくれる力がある。
隠し立ての無い心からの語り合いをするならこれ以上のシチュエーションはないと、あたしは思う。
「って、どうしようもないと分かってるんだから考えてちゃ駄目だよね!さ、これから何しよっか!」
「うーん……カエラが行きたい場所が無いなら、芸が無いけど散歩にしようか。
ここは港町だし、いろいろ面白いものがあるよ。うん、案内してあげる!」
「うん……あ、ちょっと待って!」
「?」
「姉御も連れて来ていいかな。最近一緒に遊んだりしてないし、たまには誘おうかなって……」
「あ、うん……いいけど」
「やたっ!」
「……でも」
「うん?」
それまで一緒に笑いあっていた彼の表情が、すっと、真面目なものになった。
「サクハさん、なんだね」
「……え」
「………」
まっすぐにあたしの目を見てくる彼は、一言だけ言ってそのまま口を閉ざし、次の言葉を探している。
「ねえ、もし僕からの誘いと、サクハさんからの誘いと、両方があったら、カエラはどっちを選ぶ?
……ごめん。いまのは卑怯だった。答えなくていいよ」
「……アルフレッド」
「ちょっとね。考えちゃったんだ、僕は君にとって一番になれないのかなって」
「そんなこと」
「分かってる、ちょっと嫉妬しちゃっただけだってば。
これでも男だからさ、やきもち焼いちゃうこともあるんだよ」
うーん。何も言わないでいてくれたから今まで気にしなかったけれど……これは考えなきゃ駄目かな。
よくよく考えてみれば彼には甘えたいときだけ寄っていってそれ以外は見向きもしない
わがままな猫のような接し方をしているような気がする。
こんなんじゃ一人前の人間としては……駄目だよね。
「……ふぅ」
日ごろの行いを振り返って深く反省するあたしをよそに彼はひとつ息をついて、言った。
「嫉妬か、そう……正直嫉妬しないでもないけど……でも、サクハさんならいいかな」
「え?」
「あの人は信用できるし……やっぱり君とあの人には特別なつながりがあるもんね。
僕とは別の意味で特別な、逆に言えば僕も違う意味で特別な……そう思えば、
少し悔しいけど……でも、あの人ならいいかなって思えるよ」
「アルフレッ……」
「ふふっ」
そういって彼は笑う。
感激だ。こんなよくわかってくれる人に見入られて、あたしはなんて幸せ者だろう。
「ごめんね。本当にごめん。
分かってくれてるけどそれでも言わせて……どっちも選べないの。
ふたりとも……本当に大切だから」
「うん」
「姉御は世渡りがヘタだから、あたしが守ってあげないと」
「うん、分かってる」
「……ありがと。アルフレッドのことも大好きだからね……」
そしてあたし達は見つめあう。
少しはにかみ、そして自然とふたりの顔が近付いていき……
カランカラン……
……そしてすっごくいいところで邪魔された。
(サクハの日記)
カランカラン……
落っことした刀の音で、ようやく私は我に返った。
「あ、姉御!?」
と同時にそれは向こうにも気付かれているということだ!
「あ、わ、た、た、た!?」
「カ、カエラ!?今日の夕ご飯に食べたいものあるかなあ!?」
「え!?ああそうだね、なんでもいいかなあ!」
「わ分かった!おいしいもの準備するから楽しみにしててね!」
私も慌てたが先生はもっと慌てたらしく、早口で口実を作るなり真っ赤になって逃げ出してしまった。
「あ……あーあ。もう、こんなタイミングで……姉御?」
後に残された私も混乱に苛まれ、まともな思考が出来ない。
出来れば今すぐ逃げ出してしまいたかったが、私には確かめておかなければならないことがあった。
「あ、あ、あ……」
「姉御?おーい?」
「カ、カカカカエラ!?」
「はい?」
「お前……………二 刀 流 だ っ た の か !?!?」
「……は?えーと……」
(右腰にダガー)
(左腰にもダガー)
「え、見て分かりません?」
―――――――――何たることだ!!
※二刀流(にとうりゅう)
①両手に長短の刀を持って戦う剣術の流儀。
②甘いものも辛いもの(多くは酒の事を指す)も楽しむ人。
③男でも女でもイケる人。
「あ……な……」
「?」
「わ、分かった……だからもう少し答えは待ってくれ……」
「え?あの?おーい、姉御ー?」
私は逃げるようにその場を立ち去った。
しかし、なんということだろう。
出口が見えたと思った瞬間にこれだ。
……そうか……先生も了承済みか……
って、待てよ?
選べないから両方?
私はこれまで、あの手紙が本物ならその言わんとすることは『お姉さまと呼ばせてください』的なことだと思っていた。
しかし、今見聞きしたことを加味してよく考えるとその前提はにわかに崩れる……
先生が好きで、私も好き。
だから両方。
私を守るとか言ってた。
そういえば恋文を出した後にもかかわらずあの余裕な態度。
二刀流かと聞かれてもなお堂々としていた。
……これらを踏まえて導き出される結論は。
ワタシノコネコチャンニオナリナサイ?
―――な ん た る こ と だ !!!!
(カエラの日記)
ネバンプレス帝国南部の山脈。
その岳のひとつであるジョマロン山岳が今、あたしの目の前にある。
これこそが今からあたしが登る山、そして、倒すべき敵だ。
帝竜ジ・アース。
この巨大な山岳に擬態し、ネバンプレス南部をフロワロの海に沈めた元凶である。
「では、ご武運を」
「そっちこそ人数少ないんだから気をつけてね!」
リーダー、副長、姫ちゃんは一足先に山岳の東端、『尻尾』に向けて出発した。
こっちもネバンの偉い人と話していたギルマスを加え、『前足』に向かう。
あたし達はこれから、件の英雄がジ・アースに止めを差すまでの間全力でそれらの動きを食い止めなければならない。
「重要視されているパーツは八つ。その内左後ろ足はネバン軍が止め、右前足と後ろ足は
隣の山岳に埋まっていて参戦不可能。残りのうち危険度の高い2パーツを僕たちが止める」
「ふう……それにしてもさ、今更だけど本当に勝てるのかな?
実際ひとつパーツを止めたんだから倒せるんだろうけどそれだって分からないよ。
この大きさなら普通に暴れるだけでひとつの国を潰せそうなのに、どうしてこんなとこにいるんだろう」
「この大きさだからこそ、さ」
「え?」
疑問を発したあたしに答えてくれたのはギルマスだった。
「物体の質量は一辺の三乗に、断面積は二乗に比例する。
簡単に説明すると、動物が二倍に大きくなるとするとその重さは
幅が二倍、厚さが二倍、長さが二倍で八倍になる。それに比べて筋肉の強さは
幅が二倍、厚さが二倍までは一緒だけど長さが二倍になっても筋肉の強さには関係ないから
四倍になる。つまり動物が大きくなるとその重さほど筋力は増えない、逆に言うと
大きい動物は重さに比べて筋力が無いからそれほど力が出せないということさ。
だから大きい動物が小さい動物と同じように動くためには身体に比べて手足を太くしなければいけないのに、
むしろジ・アースは身体に比べて手足が小さい」
「あ、じゃあ」
「そう。少なくとも生物学上は、帝竜ジ・アースは満足に身動きすら取れない。
人が歩くより早く移動できるかすら怪しいといえる」
「はーー。なるほど。けど……それにしても………」
「歌とネタだけの適当人間かと思ってたら意外と頭がよかったって?」
……心を読まれた!?
あたしの目の前にあった絶壁そのものが宙に浮き、そして落ちてくる。
ジ・アースの前足だ。
それが地面に落下すると同時に、凄まじい衝撃波と岩石の破片が十五メートル離れたここまで飛んできた。
「っくううぅ!!」
この圧倒的な質量にあたし達は苦戦を強いられていた。
前足の動きそのものは遅い。遅すぎるほど遅い。
だけどこれだけ衝撃波を撒き散らされれば、攻撃を避けるとかそんな問題じゃないじゃない!
それでもまともに当たったら物理的に即死するほか無い攻撃を避けるため、
あたし達は必死に走り回ってはヒット&アウェイで攻撃し続ける。
「火力が足りない!何とかならない!?」
絶対に直撃を受けない後方で遠距離攻撃を続けるギルマスから声が飛んでくる。
「やってみる!仕込みは終わったから、注意してて!」
姉御にも聞こえるように声を投げ返し、あたしは強襲に向かった。
短剣のスキル、マスクドペイン。
感覚を破壊して苦痛が送られるのを遮断するそれは、そこから更に派生するスキルによって
莫大なダメージを生み出す。
前足の太い神経を狙って突き立てられた三本の剣。あたしのマスクドペインはそこから
脳に送られる感覚だけを遮断しているはずだ。
岩山のような前足を一気に駆け上る。……ここだ!
エンドルフィンの分泌を抑え脳のリミッターを働かせなくする神経毒が塗られた剣を抜き放ち、あたしはそこに襲い掛かる。
喰らえ!『
トリプルキス』!!
……。
オ オ オ オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ !!!!!!!!
それ事態が地を揺らすような絶叫が『頭』の方から轟く。
無理も無い。苦痛を与えることに特化したこの技は、
手首から先がすりおろされてからすりおろされたことに気付いたような激痛を与えているだろうから。
当然この前足も凄まじい勢いで振り上げられるのに合わせ、あたしは来た道を飛び降りるように下っていった。
そして着地すると同時に離脱する……
!?
足が窪みにはまった!?
しまった!この巨体という言葉ですら表せない体が渾身の力で暴れているんだ、
瞬間的に地割れくらい出来ても不思議じゃない!着地寸前に地面にひびが入ったんだ!
そして振り返るあたしの目に、
落下してくる巨大な隕石のような前足が見えた。
やばい、このままじゃ死ぬ!!
「させるかああぁぁっ!!」
あたしの横を疾風のように走りぬけ、それに向かって姉御が跳ぶ。
空中でゆっくりと構えを取り、右手を前に……まさか!?
「……壊撃雲身」
その右手がとん、と前足に触れた。
「せやああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
裂帛の気合と共に、その巨大な前足が何かの冗談のように内側に向けて滑った。
見当違いの方向に落下する前足。
それを見ながら姉御が宙でくるりと回転した。
そしてそのまま、流れるように、目の前を流れる前足の側面に向けて、引き絞り、
「破ッ!!」
一閃。
冗談のオンパレードだ。その前足に、破城槌で打ち抜いたような巨大な亀裂が入った。
「詠唱省略!往け、略奪の魔弾!」
「てやあああっ!」
さらにギルマスが魔法の弾丸で追い討ちし、彼が足の挟まった岩を下から打ち砕いてくれた。
「まったく、あんまり無属性魔法を使わせないでくれよ!」
「カエラ、大丈夫!?」
「大丈夫、ごめんなさい」
向こうから姉御が走ってくる。
「肝心なところでミスるとは、寿命が縮んだぞ!」
「ごめんね、これじゃ姉御を守る日も遠いね」
「う……」
いや、なんでそこで頬を染めて目を逸らすの?
よくわからない反応をする姉御を観察するまもなく、ギルマスが指示を飛ばす。
「さあ、ここが勝負どころだ!!今のはピンチも作ったがチャンスも作ってくれた!
ジ・アースは今動きが鈍っている、二十五秒時間を作ってくれ!
そしたら後は僕が蹴りをつける!!」
「了解!名誉挽回といくよ!」
「ちょ、無理するんじゃないぞ!」
「分かってる!」
「秒単位でもいい、傷を負ったらすぐにこっちに来て!最後までもたせて見せるから!」
あたし達は一気に追撃を開始した。
「熱よ、光よ、わが言の葉に宿れ……」
今度は絶対巻き込まれないように地上で連撃を繰り広げる。
姉御と肩を並べ、もはや近くにあるものを叩き潰すのが精一杯な前足を容赦なく追撃した。
「……我は赤き言葉で詩を編み、詩を紡いで核熱の世界を創らん……」
遠くからギルマスの詠唱の断片が聞こえてくる。
と、前足が最後の力を振り絞って最後の大暴れを開始しようとする。
なめるな!
あたしは迎え撃つように特攻した。神経を狙い、動きばなに剣を投げつける!
「おまっ……!」
大暴れに移行しようとした瞬間に感覚を失った前足はその動きを大幅に緩め、
あたし達はその全ての衝撃を潜り抜けた。
「灼け付く空、燃え盛る海!……顕現せよ、地獄の業火!!」
「……たく!今だ!逃げるぞ!」
「合点!」
「わが声に応えて、出でよ!煉獄の創造!!」
一目散に逃走するあたしの背後で、本能的な恐怖を呼び覚ます何かが膨れ上がる。
詠唱を終えたギルマスが手を振りかざした。
「どーん!!」
――後ろから、恐ろしい音がした。
ギルマスの盾になるように止まる筈だったあたしは、予定より五メートルほど先へ滑り込んで後ろを振り向く。
それは炎が燃えてるなんてもんじゃない、空間全体が一つの巨大な炎で埋め尽くされていた。
吹き荒れる炎の暴風の中心、垂直に噴き出す赤い光の中で(このときのあたしには、スケールがでかすぎて
それが突風のように吹き上げる巨大な火柱だということに気付かなかった)ジ・アースの左前足が
見る見るうちに焼け朽ちていっった。
「はあっ……はあっ……お前な、無理するなと」
「ギルマス……どーんはないんじゃ……」「無視か」
「なに、大魔法なんてのは三割のセンスと六割の厨二病と一割のお茶目さで作るもんだよ」
「はあ……しかし、さすが煉獄の創造というべきか、凄まじい威力ですね」
「……ほんとはまだ煉獄の創造とって無いんだけど……」
「へ?」
「え、あ、ああ。……『今のは煉獄の想像ではない、EXヴォルケイノだ』」
「なんですかそれ」
「一度言ってみたかったセリフその二」
「さいですか」
「あーもう、お前って奴は」
そして。
最後に呆れたように、困ったように笑う姉御の顔が妙に印象に残った。
――――――――――――――――――――
(そして、カエラの日記)
あたし達は無事にカザンへ帰ってきた。
ポータルでだ。
サブとはいえ帝竜に打ち勝った功績は、プレロマの偉い人にあたし達の利用価値を見せ付けるには十分だったらしい。
……
そうそう、副長についてだけど。
作戦は失敗したらしい。
『確かに一度倒したんです……倒れたんです。それで、気が抜けて、倒れそうになったところを
リーダーが受け止めてくれて一緒に座り込んで……抱きしめられるような形になったんです。
シチュエーションはそうでもないけど、でも、雰囲気的には今しかないと思って、手紙を出して、
そしたら……尻尾が最後の足掻きで……攻撃もしてないのにテイルパリングで……
手紙だけをきれいに破って息絶えるなんて……あんまりです、ううっ……』
まあ、なんだ。
ドンマイ。
寝付けなくて一階に降りると、そこには姉御の姿があった。
「あれ、姉御も寝れないんですか」
「……ん……カエラか……?」
「姉御……酔っ払ってるの……?」
極めて珍しいことに、姉御は酔っていた。
一升瓶を抱きかかえ、機嫌がいいんだか悪いんだか分からない顔で見上げてくる。
「なに……ひっく、ちょっと考え事をしていただけだ……と」
「それでそんなになる……?悩み事でしょ。相談に乗ってあげようか?」
「むぅ……!」
と、そのとたん姉御は一気に険を濃くしてねめつけてきた。
やっぱり機嫌が悪かったのね……あたしは出来れば矛先がこちらに来ないように祈る。
が、姉御の口から出てきたのは意外な言葉だった。
「ふん……意地悪なこと言って、お前が散々悩ませているくせに……」
「へ?」
「おまえな……
……
私を守るとか言ってたな?」
「へ?あ、うん、まあ……」
「自分だって未熟のくせに、百年どころか一万光年早いっ……てぇ」
一万光年は距離だよ姉御。
「ま、そりゃそうだけど。でも、それは今の話。あたし強くなるから。
姉御も、皆も……」
「それでおまえがしんだらなんにもならないだろうがあっ!!」
「うひゃっ!?」
「なーにが、つよくなるだっ!?まもれるようにだっ!?きょうだってわたしがいなかったらしんでたろうがっ!!」
「あ、う……」
突然の喝は非常に痛くあたしの耳にしみた。
そうだ、確かに今日だってあたしは調子に乗って死に掛けた。
理想ばかり語って現実には足を引っ張ってばかりとはこのことじゃないだろうか。
辛辣な叱責はあたしの心を重く沈ませた。
「たしかにりそーを追うのはいいさ、だけどな、勇気と無謀はちがうんだぞ?
りそうのじぶんになるまえに死んだら、なんにもならないだろーが。わかってるのか?」
「う、うう」
「わたしはな、そんなおまえに、命を危険にさらして守られたってこれっぽっちもうれしくないぞ。
ぜんぜん、まったく、かんぜんにうれしくないぞ……」
「はい……」
「……それで、おまえが死んだら、うれしくない……」
「……ごめんなさい」
あたしは素直に謝った。
せめて心配をかけないようにするのは、あたしの義務だと思ったからだ。
「いいかあ!?わたしは、おまえの思うとおりになんかならないぞ!
おまえに守られるなんてまっぴらだ!ましてやおまえの手の中なんかにだれが納まるもんか!
わたしはこれからもずっとずっとおまえより強くて、てのとどかないところへいってやるっ!!」
「……は「それでもいいなら……いいよ」
そして。気付くとあたしは姉御に抱きつかれていた。
「え……姉……御?」
「かん違いするなよ……おまえが届かない目標にやっきになって死なれてもこまるから……
だからだからな……しょーがなくだぞ……わたしはまだ思い切れてないんだからな……」
膝立ちで抱きついてくる姉御の顔は下腹部に押し付けられてよく見えない。
いや、そんなことより以前にこの展開はおかしい!
一体姉御は何を言って……?
「あの、姉御?ねえってば」
「うるさい、馬鹿。さそったのはおまえだ……たくさんこまらせて、せきにんとれ……!」
誘った?責任?嫌な予感が膨れ上がる。
そして、嫌な予感は当たるものだって昔から決まっている。
「馬鹿……ばか……手紙なんかで……直接言ってくれたら……ほかにあったかもしれないのに……」
そして、姉御の手に握りつぶされている便箋。
……
ちょっ待っ……それは!?
なんてことだ!!
理解してもときすでに遅し、この状況でどうしろと!?
「あの、姉御」
「うるさいうるさいうるさい、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿!!」
酔いも手伝って、もはや姉御は駄々を捏ねる幼子のように手がつけられない。
ああ、信じてもいない神様。あたしが何か悪いことをしましたか?
現実逃避気味に見上げた満月は、それはとてもきれいだった。
最終更新:2013年05月04日 22:18