温☆泉 ばにっく 注意:このお話はネタです。実際の国民とは、きっと関係ありません。 今日は政庁のみんなで温泉! みんなでわくわくしながら国のはずれにある温泉にやってきた。 ――女湯 「きゃあ~!温泉です~!」 楽しいこと大好きなみぽりんは、大喜びで湯に駆け寄る。 「あまりあわてると、転ぶよ♪」 言いながら、姫巫女、藻女(みずくめ)さまもなんだか浮かれ気分だ。 身体を洗ってから、湯につかる。 滑らかな湯が、肌を優しくなでる。 「気持ちいいですね~、姫様」 「ふぅ。いい気持ちだねぇ」 顔を見合わせて、にっこりと笑う二人。 「あがったら、何か冷たいものでも食べようか♪」 「食べたいです~!」 姫巫女のことばに答えるみぽりん。 「そういえば、姫様、温泉でやっておかなければならないことがあるですよ~!!」 「何をするの?」 がばっと立ち上がり、元気良く、 「のぞきです!」 「………、そう?」 姫巫女さまは目が点だった。 ――男湯 木製の壁を隔てた向こう側の女湯から、姫巫女とみぽりんの楽しそうな声が聞こえる。 「なんか、いいですねー。のんびりして」 雹(ひょう)が身体をごしごし洗いながら嬉しそうに言った。 「あちらは、ずいぶんにぎやかですねぇ」 頭に手ぬぐいをのせ、湯に浸かりながら柊 久音(ひいらぎ くのん)。 「姫巫女さまも、久しぶりのお休みですからね。ゆっくりされるといいです」 自分も骨休めといわんばかりに、摂政、七比良 鸚哥(ななひら いんこ)が伸びをする。 「まあ、たまの休みだ。のんびりしようぜ!」 人好きのする笑顔でさちひこが言った。 「ところで、あなたはあちらにまざらなくてよかったんですか?」 「摂政さま!僕、男!」 姫巫女やみぽりんと一緒になって、摂政からお菓子をいただくのをからかわれた信乃の抵抗を、みんな笑いながら見ている。 そのときだった。 「そういえば、姫様、温泉でやっておかなければならないことがあるですよ~!」 女湯のみぽりんの元気な声に男湯一同は、ん?と一瞬聞き耳をたてて 「のぞきです!」 の言葉にぶったおれた。 「うはぁ!」 すぐ前にあった岩にぶつけた頭をさすりながら、真っ赤になって雹がうなる。 「女湯から覗かれるなんて、きいたことないですよ」 頭痛そうな、信乃。 「まあ、みぽりんのことですから、泊りがけ旅行の枕投げ、雪が降ったときの雪だるまと同じ感覚なのでしょうけどね」 苦笑いしながら久音が分析する。 「………。よし、こっちものぞくか」 「さちひこさん!、それ、ヤバイから!」 その会話に面白好きの心に火がついた。 「よし!覗きましょう!」 え?!という視線が摂政に集まる。 「摂政さま、マズイですって」 「大丈夫です。さあ信乃さん、いきましょう」 嬉々として、信乃の腕をつかんで引っ張る摂政。 「おい、ここ、隙間があいてるぜ」 女湯とのしきりとなっている木の壁を調べていたさちひこが、手招きする。 「何?!いきますよ!信乃さん」 「僕をまきこまないでください~!!」 ずるずると信乃を引きずりながら、摂政はさちひこのそばにきた。 穴をのぞくさちひこ。 「みえますか?」 「んー。なんか暗いぞ、うわあ!!」 壁の向こうと目が合って、さちひこはひっくり返った。 ――女湯 「ひゃあ!!姫様!目があったですよ!」 びっくりして、大騒ぎするみぽりん。 自分はばすたおるを巻いて、完全防備である。 やめておいたら?といいながら本気で止める様子はない姫巫女。 湯を手のひらですくって、感触を楽しんでいる。 「あ、もしかして潜ったら見えるですかねえ~♪」 男湯との接点を見つけて、ぶくんと頭を沈めてみる。 しかし熱い湯で目をあけていられず、ざばんと顔をあげ目をこすりはじめる。 どうやら湯がしみたようだ。 「お湯に頭を沈めたらだめだよ」 「はあーい。」 姫巫女の言葉に少し反省したかと思うと、岩を積み上げた壁面に目がいった。 「もしかして、これを登れば見えるですかねえ~」 みぽりんは岩を登り始めた。 ――男湯 「びっくりしたぜ…。考えることは同じだということか」 深刻な顔でいう、さちひこ。 「ふむ。では、次の作戦を考えなければいけませんね」 顎に手をやりながら摂政がつぶやく。 「ねえ、いいかげんやめませんか?」 雹が、覗き組に声をかける。 「いやいや。これからですよ」 「だから、僕を巻き込まないでください!!」 信乃の声は摂政の耳には入らない。否、聞こえていて無視されている。 「しょうがないですね、まったく…。施設をこわさないでくださいよ」 ため息まじりに久音が声をかける。 身体を洗い終わった雹が湯につかり、久音のそばまでやってくる。 「止めなくていいんですか?」 「どっちもどっちですからねえ」 久音の返答に、なるほどとうなずく雹。 しばらく女湯とのしきりの、木製の壁を眺めていた摂政。 「この高さなら、肩車すれば見えるんじゃないですかねえ」 「おお!肩車!」 「∑」 そこまでして見たいのか…。 信乃の目がそう語っていた。 「さちひこさん」 「摂政さま」 じゃんけんぽん!として 「私の勝ちですね。じゃあ、お先に上を♪」 「あとで代わってよ」 さちひこが摂政を肩車して、摂政を持ち上げる。 その時、岩に登ったみぽりんと目が合った。 「あ、摂政さま~」 「やあ、みぽりん♪楽しんでるかい?」 「はい~」 高いところで、暢気に会話する二人。 「見えたか~!!おーい!」 「う~ん、微妙に下までは見えないですねえ」 「そうですねえ」 「重い~!」 ここはお風呂である。当然、床は濡れている。 さちひこがぐらりとバランスを崩した。 「うわわわわわ~~~」 そしてそのまんま、木製の壁に摂政もろとも倒れこんだ。 ばりばりばりとすごい音を立てて、壁は崩壊した。 「まったく…。施設をこわさないでくださいと言ったんですけどね」 静かに、久音が言った。 「そうだね。少しやりすぎかな」 いつのまにか着替えて、浴衣姿、ほんのり肌が桜色の姫巫女が続く。 「このままだと、誰も温泉を使えない。みぽりんは壁を直してから戻ってきてね」 「摂政さまと、さちひこさん、信乃さんもですよ」 姫巫女と久音の言葉にむーとなる3人。 「僕は巻き込まれただけですよー!」と信乃。 「運が悪かったですねえ」 気の毒そうに言う雹。 「では、これから、混浴ということで♪」 「そうしたら、誰も入りにこないよ」 摂政の言葉に姫巫女が反論する。 「では4人とも。お休みを移動していいから、直してから帰ってきてね。修理費用は、お給料から引いておくから」 「姫様~~」「そんなあ」 反論むなしく4人を置いて、姫巫女一同は政庁に帰ってしまった。 それから3日間、温泉は立ち入り禁止になり、現場からは、とんからとんから大工仕事をする音と、「なんで僕が~」「壊したのは、摂政さまたちですよ?」「この際、壁に小さな扉をつけて…」「ぎゃーどうしてこんなことにー」などというぼやき声が聞こえてきたそうである。 壁に覗き用の扉がついたかはさだかではない。 おしまい