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<ある少女の場合>

「やっとみつけた…」

少女はほうと息をついた。

きらきら光る水面と、ぽっこりと浮かぶ小さな島をみつめながら、しばしたたずむ。


少女の手には小さな旅行かばんと神聖巫連盟のガイドブック、そしてすりきれた一冊の本。

「もー!さがしちゃったじゃない!!ガイドブックにも「まつわる伝承がある」としか書いてないしー!」

涙声でちょっとぐちる。

まるで旧友にするように




親のない環境を不自由だと思ったことはない。

孤児院で育ったが、食べてゆけたし、仲間もいた。

だから、さびしいと思ったことはなかった。

でもね。



たとえば、公園でおやまを作っていると大人たちが声をかけてきた。

「こんにちは。あら、おじょうちゃんひとり?おかあさんは?」

「いないよ?おとうさんもおかあさんも」

大人たちは撫でてくれたし、親のいる子は戸惑いの瞳で自分を見た。

よくわからないけど、悲しそうな瞳や戸惑いの瞳に触れるたびに心の奥に積もっていって息ができなくなった。



「親の愛」ってよくわかんない。

親がいたことがなかったから。

比べるなんてできない。

混乱、混乱。

何か言いたいはずなのに言葉にならなくて、言葉は見つからなくて、つまり自分は幸せなわけで、でも何かから自分を守るように身体を固くする。



孤児院の行事で行った図書館。

その日も、もはや習慣のように身体を固めていた。

息苦しくてたまらないときにふと目にとまった「伝承」の本。

おそるおそる手を伸ばして手に取る。


血のつながらない子どもに一心に愛情を注いだ男。

自分のせいで男が死んでしまうのはいやだと町を出る決心をした子供。


なんだか心が揺れた。


何度も何度も同じ本を借りに来る自分に図書館の人は苦笑いしながら、「本の入れ替えをするからもってゆくかい?」と本をゆずってくれた。

その本を資料に、どこの伝承か調べ、海や湖のある国を訪ね歩き、やっと見つけた伝承の場所は…。




「思ったよりちっさな島だなあ…」

海岸からみると豆粒みたい。

あんなに小さいのに大事なものを守ろうと命をかけたのか。





そのとき、赤ん坊の泣く声がした。

ふと横をみると、男の人が必死になってあやしていた。

声をかけ、生まれて3ヶ月くらいかまだ小さな赤ん坊を抱かせてもらいあやすと、赤ん坊はすぐ機嫌を治した。

ありがとうとお礼を言う男性に、慣れてますからと笑顔で返す。

赤ん坊はあったかくて、ミルクの匂いがした。

「お父さんなんでしょ?がんばって!」

「ええ。まだ2日しか経ってない新米ですが、がんばります」


2日?


きょとんとする自分に気づいたのだろう。男の人が言葉をつづける。

「血はつながってないんですよ。でも、大事な我が子です」

まだ上手にあやすこともできませんがね、と白い歯をみせて男の人は笑った。

「あ、あの!!」

はい?ときょとんとする男の人に

「赤ちゃんかわいいですか?!いとおしいですか?!」

ためらうことなく「はい」と応える男の人。



ああ、この目は知ってる。

先生や友達が私に向けた暖かい目。




知ってる………………………。



赤ん坊を抱きしめながら、気づくと涙が出ていた。

涙と一緒に、たまったものが流れていく感じがした。






気づくと、夕暮れの浜辺にいたのは自分ひとり。



遠くのほうで、赤ん坊とお父さんの笑い声が聞こえた気がした。



                                 ~FIN

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最終更新:2008年04月09日 14:01