<とある彼の場合>
海に行こう!!
そう僕が誘ったら、彼女はきょとんとしながらも「いいよ」と言った。
よし!ここまでは完璧だ!!
異国を旅行したという友人の友人からまわってきた「彼女を恋人にするために」には、びっくりするような情報がいっぱい書いてあった。
まず、服装。
考えたこともなかった。
「場に合わせながらもお洒落に」
椿油を丹念に髪にすりこむ。
紋付袴ではさすがに場に合っていないので、木綿の新しい着物をおろしてみた。
そして、会話。
「女性はおしゃべりが大好き。適度に相槌をうって、彼女を認める」
おおおおお!!そうなのか。
紙にかきとめておく。そして二重丸。
ここは注意しないとな!
「誘う場所を考えて」
暗いところは駄目なのか。まああぶないしな。野犬でも出たら大変だ。
そういえば、近所の海があった。
あそこは景色もいいし、確かあの子も好きな場所のはず。
そこに誘えばいいか。
友人の友人に感謝しつつ、当日の練習を何十回もして、どきどきしながら幼馴染の彼女を誘った。
彼女は同じ村に住む、ご近所さんだ。
子供の頃は一緒に柿の木に登って実を採ったり、みんなで川遊びをしてべたべたになった。
一緒に育って、一緒に大きくなった。
あるとき、彼女は誘っても一緒に木に登らなくなった。
親にぐちると「そんな時期がきたんだねえ」と笑ってた。
よくわからなかったが、なんかむしゃくしゃした。
そのうち一緒に過ごすことも少なくなっていって。
ある日、ものすごく久しぶりに彼女を見た。
家の手伝いをして、小さな兄弟の着物を干す姿にみとれた。
綺麗だと思った。
それから、彼女に会ってもうまく挨拶もできなくなって、自分の気持ちをもてあましていたとき、友人にそのことを話したら「恋してるんじゃない?」と言われた。
なんかがつんときた。
自分はどうしたいんだろう。
よくわからない。
でも、彼女が自分に気づいてくれないのは嫌だし、挨拶もできない自分もふがいないと思う。
考え込んでしまった僕に、友人が本を貸してくれた。
ぱらぱらと本をめくる。
そしてばっととじる。
(こっ、こっ、こいびと!?)
すごい勢いでいろんなことが頭をかけめぐった。
恋人って、つまり、ああいう相手とか、こういう相手とか@@@@@
男の理性とか、野生とか、なんというか(うわー!!!!)
つまりじぶんはそういうことを彼女としたいのか?!
ひとまずその本を客用布団のいちばん奥にかくす。
なんか訳わからなくなってきた。
一週間くらい経って、なんていうか、とにかく自分は彼女と会いたいのだと思った。
会ってどうするかとか、そんなんじゃなくて。
会いたい。
そして、しまっていた本を出し、読んでいった。
ここにもしかしたら何かきっかけがつかめる「何か」があるんじゃないかって。
学校でもしなかったくらい一生懸命読んだ。
そして、出した結論が「とにかくあの子を誘ってみよう」
そして、今、一緒に海に来ている。
「えっと、本日はお日柄もよろしく」
何か話題を探さなきゃと、ぐるぐるしながら出た言葉がこれだった。
うわー。なんか違うー!!
混乱している自分。彼女はくすくすと笑った。
「変な、いっちゃん。どうしたの?」
うわ、うわ、うわ、笑われてしまった!!
でも笑ってるところもかわいい。
「でも、確かにいい日ね。みて、海があんなに青い」
気持ちよさそうに海風を受ける彼女。
なんかいい感じだ。
こういうときは、本にあった…、そう!彼女に同意だ!!
「そ、そうだね。青いね」
海を見ていた彼女が振り返って、にこっと笑った。
どきゅんと一撃!!
う、わ !!
不意打ちくらった!!
顔がかあっと熱くなる。
「なんか、今日のいっちゃん、変な感じ」
「う、うん」
やっぱり僕は変だったのか。そしてなんだかみやぶられてる。
失敗だったのかな。
一気に気持ちが沈んでゆく。
「でも、こうやって話、できるのはいいね。最近してなかったね」
ゆっくりと彼女はそう言葉をつむいで、
「また来ようね!」
最高の笑顔。
なんか、報われたと思った。
この時間が欲しくてがんばってきたんだと思った。
僕と彼女がどうなるかはわからない。
でも、
また一緒に来ようと思った。
~FIN
最終更新:2008年04月09日 14:03