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しふぉんけーき




 朝の政庁。
小鳥のさえずりに耳をかたむけながら、摂政、七比良 鸚哥(ななひら いんこ)は登庁した。
うん、今日もよい天気。一日仕事がんばろう。
「ちょっと荷物多いんじゃなぁ~い?」
姫巫女さまの声がする。
(近くにおられるのか)
藻女(みずくめ)、神聖巫連盟の藩王である。この国では姫巫女とか巫女姫とお呼びするのがならわしだった。
「だってえ~」
わかばのみぽりんの声もする。
うんうん。藩王と国民のなかがよいのはよいことだ。
「お外の国に行くんですよ~。お着替え、ぼうし、たおるに、おさいふ、寒かったらいけないから上着も持って、お水あわなかったら困るからお薬も…」
うんうん。用意がよいのはよいことだ。
って……。
「姫巫女様、ご歓談中、ちょっと失礼いたします」
衝立の外から、声をかけ、入室した摂政が見たものは、部屋一面に広げられた荷物だった。

「摂政もこの荷物は多いと思うよねぇ」
「おはようございます~摂政さま~」
「そうですね、ちょっと多いかな…、って。これはなんですか?先ほど『お外の国』と言っておられたようですが」
努めて冷静に尋ねる摂政。
「しふぉんけーき、食べにいくです~!姫様と約束したですよ」
「そう。この前の戦いのときに。ね~♪」
 先の戦いで他国の兵から食べにおいでとさそわれたという。
「一緒に食べにいこうって、約束したんだよ」
「しふぉんけーき?確か、この国にはないはずですが、もしかして…」
「うん。外国」
頭抱えて座り込む摂政。
「大丈夫。摂政がいるから政務はとどこおらないよ」
「そういう問題じゃありません!!」
思わず大声。
びっくりするみぽりんを見て、ちょっと冷静になる。
こほんと咳払い。
「藩王がそんな理由で国をあけるなんて、前代未聞です」
「すぐ帰ってくるよ~」
ぴきっときたが、我慢、我慢。
「摂政職は、そんな理由のためにあるわけじゃありません。ともかく中止。いいですね」
「え~」
不満そうなみぽりん。彼女が来てから、胃痛が増した気がする。
なにしろ姫巫女とあわせて二倍。
「中止です!お返事は?」
「は~い」
しぶしぶながら、素直に返事するみぽりん。
まあ、素直なところはよしとしよう。
「じゃあ、摂政が作ってくれるの?」
(何?!)
姫巫女の言葉にけーきけーきといいながら、くるくる踊るみぽりん。
「どうしてそういう話になるんですか」
「摂政が作ってくれるなら、出歩かないよ☆」
それはつまり、作らなかったら出歩くということか。
「………、わかりました」
ここは、腹をくくるしかない。
摂政は覚悟を決めた。


政庁の台盤所にこもって、摂政はむ~んと材料とにらめっこしていた。
小麦粉、砂糖、卵、油。
けーき自体は、外交のため赴いた地で食べたことがある。
そのとき、話のたねに作り方も聞いた。
(それがこんなところで役に立つとはなあ)
はあとため息。
確か、小麦粉はふるうこと、黄身と砂糖をよく混ぜること、そして白身もふわふわによく混ぜること。
(あとは知らんぞ)
釜に材料を入れて、焼けるのを待つ。
(ところで俺は何してるんだろう…)
もひとつ、盛大にため息。
これも摂政の職務に入るんだろうか。
なんか、涙でてきた。


できあがったけーきは、話に聞くしふぉんけーきほどふわふわではなかったが、姫巫女さまもみぽりんも、満足そうに食べていた。
(まあ、よかった)
笑顔の二人を見るのは、悪いきはしない。
(これでしばらく二人もおとなしく…)
そう思ったときだった。
「摂政さま、ぷりんって、ご存じですかあ?」
(え、何、この展開)
「ぷりんかあ、食べたいねぇ♪」
「ね~?」
「いいかげんにしてください!!」
それから一月の間、政庁は、甘いかおりにつつまれるのだった。


作・みぽりん                                        おしまい
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