OGStS
プロローグ「極めて近く、そして限りなく遠い世界で……」
※なのはStrikerSとスパロボOGSです。ゲシュ系メイン
※欝展開です。なのは、フェイト、はやてはヤンデレ目が仕様です。
※今回のザブトン十枚のキーワードは「いや、ラジオは直りかけ。尾崎豊じゃねえよw」です。皆様はりきっていきましょう。
――???
テスラライヒ研究所。
かつてかずかずの最先端研究が行われたこの場所に、次元転移装置『リュケイオス』は存在した。
薄暗い地下空間。特機――五十メートルクラスの全長をもつスーパーロボットが数十体は格納できようかという空間を、巨大な輪がうめつくしている。輪の外周は鳴動し、青い光が外周をたどって円環した。
時折、光の波が輪の内側へ流れて、何も無い空間にあわい波紋を立てた。
思わせるのは水鏡。
波紋ができるのは、鏡面で次元と次元が干渉しあい揺れているからだ。
連邦管理局の技術を結集しても、極めて近く、そして限りなく遠い世界には向かえない。
だが、この円――システムXN(ザン)は、それすらも可能にする装置だった。
水鏡の縁に、一人の少女が立つ。
少女は茶色のフードに顔を隠し、彼女の身長を超える杖を抱いていた。
波紋と光が少女を照らす。映し出された小さなくちびるは、強くかみ締められていた。
シャドウミラー総帥ヴィンデル・マウザーを見送り、レモン・ブロウニングの転移を見届けた少女は、最後の最後、後詰めを買って出たアクセル・アルマーたちを待っている。
そして少女の杖に眠る『リュケイオス』の起動プログラムもまた、ただ静かに時を待っていた。
「……フリッケライ」
『yes,boss』
少女は握っていた愛杖に命じた。杖は応える。
魔導師同士が使うパネルを開き、一つの画像を引き寄せた。
パネルの先、少女が見つめる先はテスラライヒ研究所の上空。
季節は冬――。時は夕刻――。
逢魔ケ時に来るはずのものを、少女はずっと待っていた。
――エリオ・モンディアル
パーソナルトルーパー、通称PT。
そして量産型ゲシュペンストmkⅡはPTの戦史に名を刻みつづける傑作機だった。
この二十メートル前後の巨人は、精密な連動をおこなう内部の骨格を装甲という皮膚で包み、人間が行う挙動のほとんどを行うことができるように設計された、汎用人型機動兵器だった。
特徴は、基部で生んだ高熱のプラズマを対象に叩きつけ破壊する近距離兵装『ジェットマグナム』。そして背部のウィング上部の武装コンテナによる『武装積載量』だ。
両腕をもつPTは、手に持つ武装を持ち替えることで、容易に換装をおこなえた。
兵装のアップデートが行われ、後期に生産されたmkⅡは慣性制御装置テスラドライブにより、空戦魔導師にまさるともおとらない機動力と戦闘力をもつことができた。
近距離、中距離、長距離。どんな戦況にもたった一機で対応できる機体は、乗るものが乗ればAクラス魔導師に匹敵する。
質量兵器の封印によって誕生した新暦という暦の意味を、誰も彼もが忘れ去っていた。
十八歳になったスバルは、リボルバーナックルを量産型ゲシュペンストmkⅡの頭部センサーに叩き込み、ノーウェイト、ノーレンジの砲撃を叩き込んだ。
『かつて』エース・オブ・エースと呼ばれた女性が使った砲撃魔法――ディバインバスターがゲシュペンストの頭部を吹き飛ばす。
首をうしない、センサーのあらかたを失ってなお、ゲシュペンストは右腕をのばし、ウィングロードで滞空する彼女をつかもうとする。
「エリオ!」
「了解」
ゲシュペンストの腕をストラーダの先端が穿った。
空戦能力を持つエリオ・モンディアルが、手にした愛槍ストラーダをゲシュペンストの手甲に突き刺し、カードリッジロード。
腕の装甲を貫き、骨――フレームすらを粉砕したエリオは、そのままゲシュペンストのコクピットにストラーダを深々と突き刺した。
ゲシュペンストのパイロットはひとたまりもないはず、だった。
少なくともエリオが頭に入れていたゲシュペンストの構造設計図を基にすれば、ストラーダの先端はパイロットを間違いなく貫いていた。
だが、首なしの亡霊は、胸に突き刺さったエリオとストラーダに拳を振り上げた。
「しぶとい――!」
ストラーダがエリオに応える。
電気に変換されるエリオの魔力が、ストラーダを伝ってゲシュペンストの内側ではぜる。ストラーダが突き刺さった部分より、青白いスパークが走り、電子部品を引き裂いていく。
制御のための機械部分に電流を流し込まれたゲシュペンストが、とうとう力を失った。
エリオに向けられていた腕が、断末の人体のように、ぶるぶると痙攣して動きを止める。
テスラドライブの恩恵が消え、鋼鉄の亡霊が地面に堕ちる。
エリオはストラーダを引き抜き、体を浮かべた。
ゲシュペンストはむき出しの地面にぶつかり四散したのを眼下に確認し、エリオはストラーダを待機フォルムに戻した。
「エリオ――頬」
ウィングロードで擬似的な空戦を展開するスバルが、エリオの隣でそういった。
ゲシュペンストの腕を抜けたとき、破砕した部品の一部がエリオの頬を切り裂いていた。
血は頬から流れ、あごを伝い、首もとに落ちていく。
心配そうに見つめるスバルを、内心うっとうしく感じながら、エリオはバリアジャケットの袖で、強引に血をぬぐった。
こんなことにかまっている場合ではない。
じくじくとした痛みは残っている。だが、気にしていられる状況ではなかった。
パネルを開き、戦隊長に連絡を入れる。
赤毛の男がいた。
三十キロ先にあるテスラライヒ研究所の敷地にそびえるように立つ、EG-Xソウルゲイン。
パイロットは戦隊長アクセル・アルマー。
「第十五編隊を全機撃破。周辺に敵影なし。指示をお願いします」
「ああ――。では一度テスラ研に戻れ。そろそろ退き時だ」
「……」
エリオはパネルの向こうのアクセルをにらみつける。
アクセルはエリオの様子を見て鼻をならす。
「だが、魔導師は体力を使うだろう。休んでもらわなければ戦線に影響が出る。これがな。まだアシュや俺が無傷で残っている間に、一度戻って来い」
「……」
「不服か? エリオ」
「もちろんです。俺とスバルは――待っている人がいますので。この三年間、ずっと」
「……つくづく兵士向きではないな、おまえたちは」
アクセルは口元をゆがめる。
(あなたの信じる戦争も、かなりゆがんでいますがね)
心底で思う。
もともとエリオはこの作戦に乗り気ではなかった。もしも『かつて』戦い方と生き方を教えてくれた二人の女性が、部隊を率いて出てくるという状況になかったら、とっくにエリオは部隊から撤退している。
目の前にあたらしいパネルが開いた。
「では、撤退時にいくつか落として来い。その間に――奴らは来る。間違いなく、な」
エリオは背後でうつむいていたスバルに目をやった。
スバルは軽く頭を振るって、アクセルの写るパネルにうなずく。
「わたしも、エリオと一緒に」
「了解した。いま先発隊――レモンたちが行った。ヤツらがこの機を逃すとは思えん」
「了解……」
浮かんでいたパネルが消えると同時に、エリオとスバルはテスラ研に向かう。
さきほど浮かんだ僅かな感傷は、すでに後方にとびさっていた。
アクセル・アルマーが鋼鉄の孤狼にこだわるように。
エリオとスバルもまた、二人の女性を追っている。
その女性の名はフェイト・テスタロッサと高町なのは。
暴走する旧機動六課、連邦管理局特殊鎮圧部隊、ベーオウルフズに所属する、Sクラス魔導師の二人。
エリオとスバルは、彼女たちとの邂逅を望む。
『あの日』のすべてを知るために。
――ベーオウルフズ
「破壊と……再生……。創造のための……破壊……」
毒々しいまでに青い装甲のパーソナルトルーパー、ゲシュペンストマークⅢのコクピットのなかで、ベーオウルフズのアサルト1、キョウスケ・ナンブはつぶやいていた。
怨嗟に似た声が、狭くるしいコクピットに跳ねかえり、キョウスケ自身の耳朶をうつ。
「破壊……破壊……再生……再……生」
あとは直りかけのラジオのようにおなじ意味が吐き出される。
ふと、キョウスケの口元が笑みにゆがむ。
連邦管理局のエース・オブ・エース、スターズ1高町なのは。
黒衣の閃光の二つ名をもつ、ライトニング1フェイト・テスタロッサ。
ゆっくりと、二人の魔導師はゲシュペンストマークⅢの肩に降り立つ。
「あっちは片づきました……ベーオウルフ。エクサランスは反応をロスト。アンノウンもおなじくロスト。近くにいた旧DCの機体は消去――ふふ、消去、消去、消去しちゃいました! ははははははっ!」
高町なのはが急に笑い出す。狂人の嗤い声が、天を突く。
口角をあらん限りにひきあげ、目をひきあげ、交感神経を刺激された涙腺が涙を流す。
フェイトはそんな相棒をみながら、暗鬱に嗤った。
明るいはずの金髪が彼女の顔に影をつくり、いっそう彼女を陰鬱な存在に仕立てていた。
「なのは……だめだよ……嗤っちゃう……。命乞いのアレを思い出しちゃう……」
「けなげだったよねぇ、わたし、魔王とか、冥王とかいわれちゃったよっ! 魔法少女なのにっ!」
「酷いよね……ほんとに……ふふふふふふふふふ……ふへぇあ。はやても早くヤりたいって……うしろで叫んでたよ。さすがにリィンちゃんが抑えていたけど」
甲高い狂笑と鬱屈した嗤いの二重奏が響き渡る。
傍に控えるゲシュペンストmkⅡは、そんな狂人たちを前にしてもまるで動じない。
まるで鋼鉄の亡霊そのものかのように、黄昏の影にうずくまっていた。
「……噛み裂く……噛み砕く……二つのルーツ……アルハザード……もう一つのルーツ……アインスト……リンカーコア……」
うわごとをとどめ、ベーオウルフ=キョウスケ・ナンブはゲシュペンストmkⅢを立ち上がらせる。
巨大な杭打ち機――リボルビング・バンカーが地平の向こうに落ちつつある太陽に照らされて、ぎらりと鈍い輝きを放った。
――アクセル・アルマー
「そろそろ……か」
エリオとスバルとの通信が終わったわずか十分後、東側の前線部隊から連絡が入った。先立って動いた部隊は、あらかた片付けた頃だった。
ベーオウルフズの主力部隊の発見の報告だった。
アクセルはすぐさま部下に撤退命令をだした。
こちらの兵をこれ以上消費させるわけにはいかない。もともとアクセルがここにいる理由も半分は時間稼ぎ、もう半分は後顧の憂いを断つためだった。
「後顧の憂い。三人のS級魔導師と一人のPT乗り。だが、このままほうっておくには危険すぎる相手だ。これがな」
ソウルゲインがアクセルの意思に応え、機体の賦活をはじめる。
温まりつつあるソウルゲインのデータを読み取りながら、回ってくる映像に目を凝らす。
こちらのゲシュペンスト隊が、テスラ研へ撤退してくる。 隊員たちにも深追いの必要はないと言い含めてある。撤退できるだけの制空権を持っていればいいだけの話だ。
ベーオウルフズの先遣隊と戦闘している合間にも、彼らには『撤退』の意識は埋め込まれている。
山一つ向こうの話だが、テスラドライブを積んだ味方のゲシュペンストmkⅡはすぐさま撤退できるはずだった。
その用心があったにもかかわらず――。
味方をあらわすマーカーが一つ、また一つと消えていく。
「そういえばレモンが――フェイト・テスタロッサと高町なのはに会いたがっていたが……それも『こちら側』ではお預けになったな。いくぞ……ソウルゲイン……」
独白。している間にソウルゲインが動いた。
「スバル、エリオ! 無事だな」
パネルの向こうでは、それぞれかつての師と戦う、二人の魔導師の姿があった。
どちらも健在だ。
青の彗星の名をもつ、スバル・ナカジマ。
閃光の槍騎士の名をもつ、エリオ・モンディアル。
休息させるつもりではあったが仕方がない。
「あの化け物どもをとめられるのは、俺たちくらいだ――が」
ソウルゲインは頭部センサーの出力を全開にしながら、目視できる距離にまで迫ったゲシュペンストmkⅢをにらみつける。
目が覚めるような青の装甲。
見間違えるはずがない。
鋼鉄の孤狼=ゲシュペンストmkⅢ。
mkⅢが応えた。
「決着をつけるぞ! ベーオウルフ!」
「……噛み砕く」
ソウルゲインはテスラ研の敷地を砕きながら、ベーオウルフに走った。
数時間後。
夕闇の空に浮かぶ満月が、その光を十分、地上に届けるころには、すでにテスラ研は跡形も無く蹂躙されていた。
――ヴィルヘルム・フォン・ユルゲン
一人の男の慟哭が――世界に新たな波紋を呼びよせる。
「……フランクッ……ディータッ……くぅ……」
いま少し前には美しい街がここにはあった。人々の笑顔があふれ、平和な町並みが広がっていた。
ヴィルヘルム・フォン・ユルゲンもそんな平和を享受していた一人であった。
EOTI機関所属の研究者で『あった』ユルゲンは、久しくあっていなかった家族と共に、街を見て回っている。ミッドチルダ北部の町。第187管理外世界とはまた違う、美しい町並みだった。彼の傍らには、家族の姿がある。
あまり自宅によりつかない夫を、父を、文句もいわずに支えてくれる妻と子供たち。
ユルゲンは思う。どんなに離れていようとも、帰るべき場所は家族の笑顔がある、この場所だと――。
しかし、幸せなひと時は甲高く鳴り響く警報によって、空気と共に引き裂かれる。
『バグス』
空間移動者エアロゲイターの偵察機と呼ばれる機体。
ビアン・ゾルダーク博士の傍にいたユルゲンはその機体を知っていた。
だが、知っていただけだった。街中に突如現れた異形の機体は、まるで陳腐な怪獣映画のように街を闊歩し始める。
悲鳴と怒号が支配する。バグスが多肢をふるい、光線を吐きつけるたびに断末魔が増え、美しかった町並みが燃えていった。
輪の形をした光線はユルゲンたちの逃げる方向へ発射され、ビルの一つを崩した。
傾ぐビル。ユルゲンの娘がひぃっと悲鳴をあげた。白いビルの側面が、先に逃げ出していた人々を圧倒的な質量で押しつぶした。
轟音は断末魔すら飲み込む。
ユルゲンは娘を背負い、妻と息子をつれだした。
道をふさがれて蜘蛛の子を散らすように逃げる群衆にもまれながら、ユルゲンは家族の手を離さなかった。
逃げるさなか、街にいた武装局員が騒ぎを聞きつけ応戦するのが見えたが、C級魔導師の力ではバグスの足止めが精一杯だった。
バグスの吐き出す光線が、もう一条、空に上がった。目の前のものとは、また別のバグスが顕れているのだ。
ユルゲンとその家族はとっさに教会に逃げ込む。目につく建物の中では強固なものだったし、バグスの数も状況もわからない。だが、群集に踏み潰され圧死するよりは、ここでやり過ごすべきだ。
司祭が祭壇の上で、祈りをささげている。
同じことを考えたのか、住民たちの何人かも、教会に逃げ込んでいた。
そして同じように神に祈る。
ユルゲンはひそか歯噛みしていた。
街の武装局員くらいでバグスは止められない。
シミュレーションでは総合Bクラスの魔導師が、総合Cクラスの魔導師と連携を駆使し、やっとバグスと同等なのだ。これでもかなり理想的に見積もっている。
それだけの戦力差が、時空管理局と『エアロゲイター』の間には存在してしまっている。
(もしも……もしも管理局の横槍さえなければ……)
ユルゲンがEOTI機関で研究していたのは、一つの経験を『共有』『分配』させるAMNと名づけたシステムだった。
まだ未知たるエアロゲイターの情報収集と即時対応能力を兼ね備えた、画期的なシステムだった。
デバイス郡にもネットワークを構築させれば、魔導師も対エアロゲイター戦で優位に立てる、総人類の知。
それが質量兵器の不必要なアップデートにつながるという理由で、管理局の横槍で開発は中止に追い込まれた。
ユルゲンとスタッフはEOTI機関を辞め、AMNシステムの開発を続けられる場所をもとめ、ちりぢりになっていた。
ユルゲンは再び確信をもつ。
AMNシステム――全世界のために必要なものだと。
怖がる娘と必死に涙を抑える息子と、二人の肩を腕に抱き大丈夫だと落ち着かせる妻。
ユルゲンの震える拳から血が流れる。いまはただ祈るしかない。
だが、祈りはとどかなかった。
ステンドグラスが、飴のようにとけ、猛烈な光があふれ、抗えきれない衝撃がユルゲンに襲い掛かった。
全身がばらばらになる衝撃と、目を閉じてさえ感じる激しい光にユルゲンは意識を失った。
ただ、手に握っていた妻の手だけは離さなかった。
教会は跡形もなくなっていた。光線の圧力で壁が倒れ、屋根が落ち、瓦礫を落とす。
「ぐ……ううう……」
背中に乗った瓦礫を払い、まだ目の中に残る残滓に頭をふるいながらユルゲンは起き上がった。
あたりを高熱が包み込んでいる。呼吸をするたびに肺が痛む。目と鼻からとめどなく液体があふれ、思わず口を押さえようと両手を持ち上げ、さきほどからずっと握っていたものに気がつく。
手首から先のない妻の手を――握り締めていた。
「ぐおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
本当に自分の声か、ユルゲン自身が思うほどの獣に似た慟哭。
「ぐおおおおおぉぉ! おおおおお……!」
妻の姿はどこにもなかった。黒く焼け爛れた教会を構成していたものが、眼前のすべてだった。
妻の名を泣き叫びながら、妻のものだった手を胸に抱きながら、娘と息子がいた場所につもったコンクリートをはねのける。指の爪がはがれて飛んだ。
手足をだらしなくたらした、変わり果てた娘と息子の姿があった。
顔はきれいだった。コンクリートが体のどこかにあたって、圧死させた。
壊れた壁の向こうに、バグスがうごめくのが見えた。魔導師はなんの役にも立たなかった。バグスの装甲には何の傷もない。
おもわず、娘と息子の遺体をかき抱く。
ユルゲンには抱いたものが死者という認識はなかった。まだ体温が残っているのか、周りの温度が異常なのか。彼らの体は、まだ温かかった。
バグスの、「虫(バグ)」といわれる由縁となった、小さな緑の目が、間違いなくユルゲンを捕らえた。
恐怖はなかった。
祈りはとどかず、嵐のようにあらわれたエアロゲイターをとめるすべはどこにもない。
ユルゲンが神に見切りをつけた瞬間だった。
――人を守るには、人の力が。人の力を結集しなければならない。
バグスの口蓋から漏れた熱線がちりちりと周囲を焼きはじめた。
「ぐぅ……ッ」
歯をかみ締めながら、息子と娘と妻の腕を抱きしめる。目は閉じない。ユルゲンは自分の最後の瞬間まで、バグスをにらみつけていた。
「IS発動。ライドインパルス!」
光線がユルゲンと彼の家族に襲い掛かる瞬間、ユルゲンの姿は青い風のようなものにさらわれた。
いままでユルゲンが居た教会跡はバグスの光線によって焼き払われた。
煮える。
光線は教会跡のみならず、超高温をまきちらしながら街を一直線に沸騰させた。
一瞬の浮遊感のあと、ユルゲンは教会から離れたビルの上におろされる。息子と娘もいっしょだった。
「ご無事ですか? ユルゲン博士」
ユルゲンをさらった風――長身に、体のラインを明確にする戦闘スーツをまとった女性が振る向くユルゲンに声をかけた。手と足から金色の翼が二翼づつ生えている。
「君は――?」
「彼女は戦闘機人、トーレ。いまのは彼女のインヒューレントスキル、『ライドインパルス』」
答えたのはトーレという女性ではなかった。
ユルゲンは顔をめぐらし、声の主を探す。
ビルの屋上の中心に、明らかに場違いな人物がいた。
眼下の惨劇を無視しているとしか思えない、落ち着きすぎた挙動。
熱波にあおられた風に白衣が翻った。
「はじめましてユルゲン博士。わたしのことは知っておいでですか?」
ユルゲンの元に神は訪れなかった。
そのかわり、無限の欲望の名を持つ、人の形をした計都星が顕れた。
広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティはあせりもなく、悲しみもなく、口元を歪にゆがめて嗤っていた。
「あなたをお誘いにまいりました。その技術――わたしの元で生かしませんか」
――報告書より
街中に下りたバグスは三体。
ミッドチルダ北部の臨海空港に降りたバグスは十体を数えていた。
八神はやて一等陸尉の研修先である陸上警備隊104部隊を訪れていた、高町なのは教導官とフェイト・T・ハラオウン執務官は、空港火災と未知の敵の撃退に協力するため、教導隊01、本局02として参加する。
同じく、演習をおこなっていた『特殊戦技教導隊』も、カーウェイ・ラウ大佐の指示により、市街地と臨海空港に出撃。ゲシュペンスト、およびゲシュペンストmkⅡを伴い、任務にあたった。
空港での死者はなかった。
街中での戦闘における犠牲者の数は、十名を超えている。
行方不明者の名に――
ヴィルヘルム・フォン・ユルゲンとその家族の名前があった。
――???
嗚呼――天に二つの凶ッ星。
そして――門は開かれる。
極めて近く、
そして限りなく遠い世界より。
彼女たちを基点とする、あまたの世界が、つながるこの石版に――。
リリカルなのはOSGS、はじまります。
新暦と呼ばれた時代。
ミッドチルダを中心とする管理世界では魔法技術が発達し、技術体系には変化があるものの、管理世界の基本的な生活水準は第97管理外世界「地球」の二十世紀とほとんどかわっていなかった。
その理由は管理世界に次々と落ちる巨大な隕石により、時空管理局管理世界が大混乱に陥り、災害回復のため、その後数十年にわたり進歩は大きく遅れてしまった。
第187管理外世界で、大型隕石、通称『メテオ3』がマーケサス諸島に落下。地表落着寸前に、自ら加速をとめた隕石。
その調査を行っていたビアン・ゾルダーク博士率いるEOTI機関により、『メテオ3』が人工物であると判明する。
魔法技術の無い管理外世界に出現した人工物。時空管理局は、『メテオ3』をロストロギア指定し、捜査にあたるため独自に『メテオ3』の調査を行う。
しかし魔法のない世界である管理外世界に干渉することは、管理局内部でも議論を呼んだ。
管理局内の融和派は、秘密裏にEOTI機関と接触。EOTI機関総帥のビアン・ソルダーク博士は『メテオ3』にあった情報――空間移動者『エアロゲイター』の存在を示唆。
しかし、この会談は突如現れた『エアロゲイター』の襲来によって破綻をむかえる。
同時期、管理世界のいくつかにも『エアロゲイター』の偵察機が出現。被害こそ小さいものの、管理局は無造作に出現する『エアロゲイター』の対応に追われた。
ビアン博士は、連邦軍、管理局と協力し、『メテオ3』から獲得したデータから『エアロゲイター』の本格的な侵略を危惧、時空圏防衛構想を提唱する。
防衛構想の中には、もともと魔力を有さない人々の世界の防衛も含まれていた。
ビアンの提案を受け入れ連邦軍は、『メテオ3』にあった四肢のある機動兵器郡を仮想敵とし、さらに魔法資質のない人間にも、魔導師Aクラス、もしくはSクラスの戦闘力、任務遂行力を発揮させる『人型』機動兵器の開発を行った。
マオ・インダストリー社で開発されたゲシュペンストPTX-001、002、003は、連邦軍と管理局のトライアルに合格。汎用人型機動兵器パーソナルトルーパーの名を与えられ、量産機開発に着手する。
だが、質量兵器に対する時空管理局の警戒から、パーソナル・トルーパーの後続開発は凍結、続行をくりかえし防衛計画の遅延を巻き起こした。
わずか数年の間に時空管理局と時空連邦はいくつかの事件に遭遇する。
エアロゲイターのミッドチルダ襲来と暴走したロストロギア「レリック」によって引き起こされたミッドチルダ北部の『臨海空港火災事件』。
質量兵器を危険視する時空管理局はしかし、自衛戦力としてパーソナルトルーパーが有効であることを知る。第187管理外世界の連邦軍と協力関係を結び、管理世界のあらゆる場所にパーソナルトルーパーを配備していった。
第187管理外世界の宙間、L5宙域に現れた白き魔星『ホワイトスター』。そこで『エアロゲイター』と人類は総力戦を行い、結果は人類側の勝利で決着した。
だが――すべての事態は収束したわけではなかった。
最終更新:2007年11月22日 21:39