西暦2006年。地球人類は、未曾有の危機に瀕していた。
地上からは海が消え去り、舞い上がった塵が空を覆う。
海だけではない。かつてのような、緑豊かな自然も失われていた。
それでも人々は、荒廃した世界で強かに生き延びている。生き続けていた。
そんな荒野を、二人の影が往く。
砂漠のような地面を踏み締め、二人は歩き続ける。
「皮肉な物だな……ここも数年前までは、しっかりと舗装された道路だったとは」
「……仕方ないよ、シグナム……今はそんなこと、考えてる余裕なんて無いんだから……」
「……そうだな」
金髪のツインテールを揺らしながら、フェイト・T・ハラオウンは言った。
10年前……西暦1996年。
その頃は、この地球にはまだ海があった。自然があった。人々は平和に過ごし、いつまでもこの平和は続くかと思われた。
だが、その年の冬。事件は起こった。
プレシア・テスタロッサを主犯としたPT事件。
異世界の少年の不手際により散らばったジュエルシード。それは、この世界の動物や植物に取り付き、小さな町に混乱を招き入れた。
そしてプレシアは自らの宿願の為、娘-正確にはクローン-であるフェイト・テスタロッサを駒として使い、そのジュエルシードを収拾させた。
だがプレシアの目的は叶う事無く、異世界の組織-時空管理局-と民間協力者の少女により鎮圧され、世界はまた、平和へと動き始めた。
「シグナム、今頃どうしてるやろなぁ……」
「きっと、フェイトちゃんと上手くやってるよ!」
デスクに座った八神はやては、PT事件を解決へと導いた少女……高町なのはへと視線を送る。
そして次に聞こえる声は、シャマルの声。
「フフ……シグナムははやてちゃんに言われて、フェイトちゃんについて行ったのよ?
はやてちゃんったら、やっぱり心配なのね」
「そりゃそうやんか~……シグナムも家の子なんやから」
シャマルもなのはも、クスクスと笑っている。
この八神はやても、とある事件の重要人物である。
PT事件と同じく10年前。
闇の書と呼ばれるロストロギアが、この世界……地球に確認された。
闇の書とは、あらゆる生物のリンカーコアを食らい成長するという、悪質な魔導書。
闇の書の守護騎士-ヴォルケンリッター-達は、闇の書の完成を目指し、行動を開始したのだ。
だが、それも事件発覚から間もなく、同じく時空管理局と民間協力者により鎮圧される。
こうして時空管理局は、PT事件と闇の書事件を経て、強力なメンバーを迎える事となった。
高町なのは。フェイト・T・ハラオウン。そして八神はやて以下4人。
彼女らは積極的に異世界での救助活動に勤しみ、正式に管理局に入る事も考えていた。
だが、それから3年後に起こったとある事件により、彼女らの運命は変わった……。
「まだか……」
荒野を往く一人の青年。
全身白い服を着ている。頭には白いテンガロンハットを被り、大きなサングラスをかけている。
彼は待ち続けていた。
幼い頃から、ずっと。その瞬間だけを。
待ち続け、旅を続けている。
その男が待つ者……それは、彼自身にも何かはわからないのかも知れない。
だが、それでも待ち続ける。
たった一つの目的の為に。
そんな青年の目の前に、一匹の怪物が現れた。
緑の奇妙な人型の肉体に、頭からは大きな角を生やしている。
爪は長く、鋭く尖っている。
その怪物は、男の目の前で、街の人々を襲おうとしている。そんなことさせてたまるか。
「……こうしてはいられない……!」
男は咄嗟に、怪物へと突進していた。
闇の書事件から3年後……1999年。
太平洋に落下した巨大隕石は、この地球上から海を消し去った。
舞い上がった塵に太陽光は遮られ、緑豊かな自然も失われた。
だが、悲劇はそれだけでは無い。
巨大隕石から現れた地球外生命体……通称『ワーム』が、人類を襲い始めたのだ。
ワームは人々を殺害し、その人間に成り代わる。そうして少しずつ、人間界に浸透して行った。
そんなワームに対抗するため、突如歴史の表舞台に姿を現したのが、『秘密組織ZECT(ゼクト)』。
彼らはワームに対抗すべく『マスクドライダーシステム』を開発。ワーム殲滅の切り札として投入した。
一方……。
「シグナム……」
「ああ……ワームだな」
フェイトは立ち止まり、目の前に現れた数匹のワームを見据えた。
ワームは今まさに、フェイト達の目の前で人々を襲っている。見過ごす訳には行かない。
フェイトとシグナムは、ワームに向かって歩き始めた。それぞれのデバイスを携えて。
7年前。太平洋に落下した隕石は、高町なのは及び、その友人達の運命を大きく揺るがした。
巨大隕石の衝突。そして地球外生命体ワームの大量発生。
未曾有の危機に瀕したこの世界を見捨て、自分達だけミッドチルダに移る事はできない。
そして、なのはには家族が、友人達がいる。
それはなのはだけには限らない。フェイトにも、はやてにも守りたい人々がいる。
彼女らの取る行動は決まっていた。彼女らは自ら志願しZECTへ入隊。
こうして、大切な者を守る為の戦いは始まったのだ。
「……ハッ!」
白い服を身に纏った男は、素手でワームを殴り付けた。
ワームはよろめきながらも、逆に男を爪で引き裂こうとする。
だがそんな攻撃は当たらない。
素早く姿勢を低くし、攻撃を回避した男は、さらに重たい蹴りをワームへと放った。
所詮は兵隊……アーミーサリス。無数にいる兵隊ワームの中の一匹に過ぎないのだ。
あらゆる面において人類を凌駕するワームでも、たかがサリス一匹ではこの男には敵わない。
男は一発、二発と重い攻撃を叩き込み、サリスはいよいよ満身創痍となっている。
トドメだ。これで終わらせる。
男は、鋭いモーションで蹴りを放った。体を回転させ、脚を高く振り上げて。
プロの格闘家をも越えるであろう回し蹴りは、見事にサリスの頭に突き刺さった。
そしてサリスはしばらく悶え……やがて爆発した。
緑の炎に照らされた男は、ゆっくりと太陽を睨み、言った。
「まだ……来ないのか……」
場所を変えて、フェイト達もまた、サリスの大群と交戦していた。
「……兵隊ごときが、我らに勝てると思うな……!」
シグナムは、炎の魔剣『レヴァンティン』を振り下ろす。
レヴァンティンに一刀両断されたサリスは、見事に爆発。次々とサリスを倒してゆく。
「……ハァーッ!」
フェイトはバルディッシュを鎌状のハーケンフォームへと変型させ、シグナムと並んでワームを斬り倒してゆく。
煌めく魔力刃は、見事な切れ味でサリスを切り裂き、爆発させていった。
やがて最後のサリスを倒した二人は、周囲を見渡した。
「……良かった、誰も死んで無い……!」
「……やはり……ゼクトルーパーはまだ出動していない……か」
喜ぶフェイト。そして対象的にため息をつくシグナム。
「……きっとまた、ネオゼクトとの戦闘に出動してるんだろうね……」
シグナムの言葉に、さっきまで喜んでいたフェイトの表情も一変。悲しげに俯いた。
ワーム殲滅に乗り出したZECTは、次々とマスクドライダーシステムを開発した。
試作0号から始まったライダーシステムは、最新の物で第8号までの計9機が開発された。
そしてマスクドライダーシステムを所有する武装組織ZECTは、圧倒的な技術力の差で、世界の頂点まで上り詰めたのだ。
こうして、事実上世界の全てを管理・官制下に置いたZECT。
だが、そんなZECTを良く思わない者は大勢いる。それはライダーシステムの資格者も例外では無い。
数人の資格者は、自分の部下と、同じくZECTを良しと思わない者を引き攣れ、ZECTに反旗を翻したのだ。
そして彼らは自らを反ZECT抵抗勢力……『NEO ZECT(ネオゼクト)』と名乗り、自由を旗印にZECTに対するゲリラ活動に乗り出した。
「1号ライダーはまだ見付からないのか……」
スーツを着た、エリート風の男が呟いた。
左腕には黄色を貴重とした変身ブレスが輝いている。
ZECTは長らく1号ライダー……通称『カブト』の有資格者の捜索を続けているが、一向に見付かる気配が無いのだ。
以前、カブトの資格者として選ばれた男が一人いたが、その男はカブトゼクターをその目に拝む前に、ワームに殺されてしまった。
ライダーの資格者は世界にそう何人もいる訳では無い。
それ故にこのまま資格者が現れねば、1号ライダー・カブトは欠番に終わってしまう恐れすらある。
そんな中、ヴィータが声を発した。
「心配すんなよ矢車……1号ライダーなんざいなくたって、私達だけでワームはブッ潰せる!」
「……落ち着けヴィータ」
矢車と呼ばれた男はゆっくりとヴィータに歩み寄る。身長差が著しい。
「ライダーシステムは全てが揃った状態で、我々ZECTが管理する事でこそ、その真価が発揮される。
だからこそ、1号ライダーの資格者を見つけ出し、裏切り者共を抹殺しなければ……」
「どうせまたパーフェクトミッションって奴だろ……?」
「………………」
ヘヘッと笑いながら矢車を見るヴィータ。言わんとすることは既に読まれているらしい。
「解っているなら話が早い……その通りだ」
矢車もまた、フッと微笑んだ。
「……でも勘違いすんじゃねぇぞ?私達はネオゼクトとやる気はねぇからな」
表情を変え、矢車を軽く睨むヴィータ。
ヴィータを始め、元管理局の一部の人間は、あくまで「誰かを守る為の戦い」を続けているつもりだ。
人間同士で争うつもり等毛頭ない-それでも、戦闘を避けられない時はあるが-。
そしてなのは達も、自分を信じZECTに入隊したのだ。そんな彼女らは何を旗印に戦うのか……。
隕石が運んで来た宇宙外生命体……ワームが蔓延る荒廃した世界。
繰り広げられるは、ワーム×ゼクト×ネオゼクトとの、三つ巴の戦い。
それぞれの信じるもののために戦う彼らに対し、運命の女神がいるのだとしたら、一体どのように微笑むのだろうか。
そして、その祝福を受けるのは……?
仮面ライダーカブト
始まります。
最終更新:2007年12月01日 10:42