フェイトとシグナムは、荒れ果てた荒野を歩き続けていた。
ここはかつて首都であった東京から、数十㎞程離れた場所。
「シグナム……もうどれくらい歩きました……?」
「さぁな……だがここに来るまでで、かなりの数のワームを倒している。私達のしてきた事も無駄では無かろう」
「……そうだね……それで誰かの命が助かったなら……」
フェイトは、明るく微笑んだ。
ZECTはネオゼクトとの戦闘の為に、民間人の救助を後回しにしている。
それにより、もちろんゼクトルーパーの出動は遅れる事になる。こうしている間にも民間人は死んで行くというのに。
元管理局のメンバーは、ほぼ全員が民間人である。それ故に、彼女らは同じ民間人を見殺しにはしたくないのだ。
だからフェイト達は自分の足で旅をし、本来ライダーが派遣されないような場所でも救助活動を続けるつもりなのだ。
「でも、本当に良かったの?シグナム……はやてと一緒にいなくて……」
「構わん。それにテスタロッサに付いて行くのは、主はやての命令でもある」
「そう言ってくれると助かるよ……」
シグナムの言葉に安心し、フェイトはまた「フフ……」と笑い始めた。

所変わって、東京・ZECT本部。
ここは、元管理局勢力……通称『八神班』に割り当てられた、いわゆる作戦会議室である。
部屋の奥には大きめのデスクがある。壁にはいくつものモニターがあり、まさに秘密基地といった雰囲気だ。
基本的に、なのは達は本部にいる間はこの場所に集まっている。
現在集まっているのは、はやて・なのは・ヴィータ・シャマルの4人だ。一応小さいザフィーラはいるが、こちらは1匹とカウントしよう。
「それで……これ、どうするの?」
「どうするって言われても……本部からの命令やし……」
「たくっ……本部の奴ら、また私達に面倒事を押し付けやがったな……」
各々が困った顔で、同じ方向を見ている。
彼女らが見ているのは、部屋の中央の巨大なデスク。いや、その上に乗っているアタッシェケースだ。
「加賀美の野郎、どんなつもりで私達にこんなもん寄越しやがったんだ……!」
「まぁ落ち着き、ヴィータ……」
「……でもはやて、こいつは……!」
「わかっとる……まずは、どういう事か説明して貰わなな」
ZECT士官隊長クラスの制服を身に纏ったはやては、くるりとイスを回転させ、部屋の巨大なモニターに視線を移した。
同時に、ZECTロゴを流し続けていたモニターは、その画面を変えた。

「……これはこれは、八神班の諸君。全員揃って……は、いないようだな」
「大和さん……」
なのはがその名を呟く。モニターに映っているのは、ZECT戦闘部隊長『大和鉄騎』だ。
戦闘部隊長と言うだけに、大和はZECTの全戦闘部隊を統括している。それ故に、はやて達も、大和の命令には従わざるを得ないのだ。
「オイ大和、テメェ今度は何企んでんだ?私達にこんなモン送り付けてきやがって……」
ヴィータは、上官である大和を睨んだ。基本的にヴィータは、嫌いな相手なら例え上官であれ、タメ口で話すのだ。
だが、もちろん大和にとってそれは許し難い行為だ。大和は逆にヴィータを睨み返した。
「貴様……口の聞き方には気をつけろよ?」
「あんだと!?」
「フン……どうやら貴様は、上官に対する口の聞き方を知らないようだなぁ?」
「うるせーよ!矢車ならまだしも、私はテメェを上官だと認めた覚えはねぇ!」
拳を握り締めるヴィータ。どうやらこの大和という男、ヴィータとは犬猿の仲らしい。
大和はヴィータを完全に見下し、またヴィータは大和に敵対心を剥き出しにしている。
「まぁいい……貴様のようなガキには何を言っても解らんだろうからな」
「んだとテメェ!もっかい言ってみろ!」
「もう……ちょっと落ち着いて、ヴィータちゃん!」
フンッと嫌味に笑う大和。さらに食い下がるヴィータを、シャマルが宥める。このままでは一向に話が進まないと判断したからだ。
こういう話は隊長同士で進めた方が早い。今度ははやてが、アタッシェケースをモニターに向けた。
「で、大和さん……これは一体、どういう事なんでしょうか」
「これはこれは八神隊長、貴女ならそこのガキと違ってまともに話せそうだ」
その言葉に、はやては一瞬だけ眉をしかめた。それもそのはずだろう。ヴィータの悪口を言われて、はやてが喜ぶ訳が無い。
そもそも大和は、ZECTへの絶対的な忠誠心を誓っている。対象的に、はやて達はZECTにいながらも、ZECTのやり方に完全に賛同している訳では無い。
しかも、はやて達は元々は別の組織の一員であったのだ。それ故に、大和は八神班のメンバーをあまり信用してはいないのだ。
「そんなことより、このケースのライダーシステムを、私達にどうしろ言うんですか?」
アタッシェケースを開けるはやて。中に入っているのは、紫の刀。
「それは我々ZECTが開発したライダーシステム第4号・サソードシステム……その刀はサソードの変身ツール、サソードヤイバーだ」
「第4号……?」
大和の言葉に反応するなのは。
「第4号って……ガタックやケタロスよりも以前のライダーシステムですよね?それがなんで今更……」
「そういえば……ZECTのライダーには4号の型番が欠落してるって噂を聞いた事がある……」
今度はシャマルだ。
シャマルも噂話程度にしか聞いた事は無いが、今現在ZECT製ライダーは0号~8号まで存在する。
未だ資格者が発見されない1号-カブト-と、裏切った3号と6号を除くと、0号と4号が存在していない事になる。
「どういうことだよ?金のライダーって奴とは違うのか……?」
「ううん、黄金のライダーは私達に姿を見せないだけで、ちゃんと活動してるみたい……」
ヴィータの疑問に答えるシャマル。
流石シャマルと言うべきか。凄い情報網だ。八神班の諜報活動担当だけの事はある。

「貴様達が知らなくても無理は無い。サソードはまだロールアウトされたばかりだからな」
「……で、このサソードシステムをどうすれば……?」
はやてはアタッシェケースを閉め、話を戻す。
「どーせまた厄介な仕事押し付けるつもりなんだろ?」
後ろで腕を組みながら悪態をつくヴィータ。だが大和は既にヴィータなど眼中に無いらしく、そのまま話を続ける。
「本部からの通達だ。そのサソードヤイバーを、お前達八神班にくれてやる」
「「「……なッ!?」」」
大和の意外な言葉に、一同は目を見開いた。本来なら、受領するだけで部隊長クラスにまで昇格できる筈のライダーシステムを、何故?
ましてや、あの大和が八神班のメンバーにライダーシステムを譲るとは、どうにもきな臭い。
「何故、これをウチに……?」
「貴重なライダーシステムを貴様らにくれてやるのは癪だが、どうやら本部は八神班の……シグナムをサソードの資格者と判断したらしい」
「……確かに、シグナムさんなら、剣術にも長けてるしね」
納得するなのは。シャマルとヴィータも、シグナムならば似合うかもしれないと頷く。
「ですけど、シグナムは今いません。いない相手に、どうやってこの刀を渡せと……?」
「ならそれを奴に届けろ。ZECTに反旗を翻した愚か者共を叩き潰す為に、今は一人でも多くのライダーが必要だからな」
それだけ言うと、モニターはまた元のZECTロゴマークに戻った。向こうから通信を切られたのだ。
ヴィータからすれば、こう言った大和の態度がまた腹立たしい。

一同はため息をつきながら、サソードヤイバーを見詰めた。
「シグナムさんがライダー……か……」
「でも、やったじゃねぇか!これで八神班をバカにする奴も減るだろ。なんせウチにはライダーがいるんだからな!」
ヴィータは、浮かない顔をしたなのはを励ますようにサソードヤイバーを両手に構え、振り回しながら言った。
「私はできれば、シグナムにはライダーになって欲し無いねんけどな……」
「え……どうして、はやてちゃん?」
シャマルはキョトンとしながらはやてを見た。八神班にもライダーが居るとあらば、ZECT隊員達の見る目も変わるというのに。
「シグナムは今、ZECTから離れて、民間人の皆さんを助ける為に旅をしてるんや……
それやのにこんな物渡してもうたら、シグナムは今度こそ完全にZECTに従わなあかんようになってまう」
「そうだよ。そうなれば、一緒にいるフェイトちゃんにも、何かしら影響が及ぶだろうからね……」
なのはとはやての言葉に、ヴィータは動きを止めた。「あ……そっか……」というような表情だ。
事の深刻さに気付いたヴィータは、そのままサソードヤイバーをはやてに渡した。
こんな時は、なんでもいいから提案してみるに限る。シャマルは、恐る恐る声を発した。
「……じゃ、じゃあ、シグナムだけこのままZECTを離れちゃえば……」
「んなことしたらネオゼクトと一緒だろうが!」
「うん……シャマルさんも聞いたでしょ?大和さんの言葉……」
「はい、ごめんなさい……」
即効で二人に却下されたシャマルは、ショボーンと俯いた。
大和はさっき、「ZECTに反旗を翻した愚か者共を叩き潰す」と言った。
もしもシグナムがZECTを離反しよう物なら、シグナムは全てのZECTライダーを敵に回す事になってしまうのだ。

数分程、一同が「どうしよう……」と考え込んでいると、部屋のドアが開いた。
「あの……お話終わりました……?」
「蓮華ちゃん……?」
部屋に入って来たのは、『高鳥蓮華』だ。本部直属の隊員という噂だが、何故かZECT見習い隊員の制服を着用している。
なのはやはやての制服は赤いスーツに、左肩にはマントというスタイルだ。対象的に蓮華の見習い隊員制服はやけに動き安そうである。
「上官に言われて、サソードヤイバーの説明しに来たんですけど……」
「あ、どうぞどうぞ……まぁ座ってよ」
笑顔でイスに誘導するなのは。
ちなみに蓮華はまだ18歳……つまり、19歳のなのはよりも1歳年下だ。
着席した蓮華の前に、サソードヤイバーの入ったアタッシェケースが置かれる。
蓮華は開いたケースを、皆に見える角度に回転させると、説明を開始した。
「サソードヤイバー……これは従来のライダーシステムとは勝手が違います」
「勝手が違う……?」
「はい。まず、従来のライダーシステムとの大きな違いは、誰でも装着可能という所にあります」
その言葉に、ヴィータは目を輝かせた。ヴィータは以前から、心のどこかでライダーシステムに憧れていたのだ。
「誰でもって事は、私でも変身できんのか!?」
「いえ……それは……誰でもと言っても、資格者である事が前提ですから」
「なんだよ……じゃあ誰でもじゃねぇじゃんかよ……」
ヴィータは落胆しながら、着席した。心情的には、持ち上げて落とされた感覚だ。
「資格者がサソードゼクターを呼び出して、この刀に装着する事で、サソードへの変身が完了します。そこまでは従来のシステムと一緒です。
サソードの特徴は、全身を駆け巡るポイズンブラッドにより、どんな人間が装着しても、システムに同調できる……という所にあります」
「要するに、ゼクターに選ばれた人なら、そのポイズンブラッド?の効果で誰でも変身できる……って事でええねんな?」
「はい……このポイズンブラッドの調整に手間が掛かり、他のライダーよりもロールアウトが遅れたそうです」
蓮華は一通りの説明を終えると、立ち上がり、サソードヤイバーを右手に持ち、構えた。
「後は、サソードゼクターに選ばれるに足る精神の持ち主が居れば、サソードは誕生します。
そこで、八神班のシグナムさんがサソードの資格者として適任。と、判断された訳です」
次の瞬間、蓮華は見事な太刀筋でサソードヤイバーで空を斬った。なのは達も、「おぉ~」と拍手を贈る。
シグナムには及ばないまでも、かなりの腕前だ。

「確かに、シグナムさんは管理局……ううん、ZECT内部でもかなりレベルの高い剣術使いだからね」
「そうね……刀を使わせたら、シグナムに勝る人はそうは居ないわ」
「だからこそ、これはシグナムさんが持ってるべきなんです♪」
なのは達の言葉を聞きながら、蓮華はガチャッと音をたてて、サソードヤイバーをアタッシェケースにしまった。


一方のシグナム達は、東京から離れた場所で、ワームを斬り続けていた。
かなりの数のワームだ。道路を端から端まで角の生えた緑色のワームが埋め尽くしている。
「ハァーーーッ!」
燃え盛る魔剣を振るい、一匹、また一匹とサリスワームを爆発させてゆくシグナム。
だが今回ばかりは数が多すぎる。フェイトもシグナムも、お互いをフォローする余裕は無い。自分の戦いでいっぱいいっぱいだ。
フェイトとしても、この数の相手に、カートリッジと魔力を消費するザンバーフォームを使用したくは無い。
フェイトはバルディッシュをハーケンフォームに変型させ、ワームを真っ二つにしてゆく。

だが……
「キリが無い……!こいつら、倒しても倒しても数が減らない……!」
「らしくないぞテスタロッサ……弱音を吐くとは……!」
既に二人は百を越える数のワームを爆発させている。だが、一向に数が減らないのだ。
見渡す限り緑の体に覆われた道路は、かなり異様な光景だ。
「ZECTの戦闘部隊が来るまで、後どれくらいですか……!?」
「解らん!増援は期待するな!とにかく倒しまくれ!」
シグナムが刀を振るう度に、ワームは爆発し、フェイトが鎌を振り下ろす度に、ワームは数を減らしてゆく。
二人のすぐ後ろには、まだ多くの民間人が取り残された町が存在する。
故に、ワームを例え一匹たりとも、町には入れる訳には行かない。町の前方の防衛ラインは、なんとしても死守するつもりだ。
もしもこいつらを町に入れてしまえば、間違いなくこの町の人々は皆殺しだろう。
そんなことは絶対にさせない。
こんな奴らに、町を渡す訳には行かない。フェイトもシグナムも、自分にそう言い聞かせながら戦う。

それから、戦闘時間は軽く1時間は経過した。二人はワームを斬り続ける。斬って斬って斬りまくる!
シグナム達も、こんな数のワームと戦った事は無いことは無い。だが、それは八神班の皆が一緒に戦ってくれたからだ。
たった二人で、千匹近くいるワームを殲滅するのは、どうにも辛いのだ。
「チッ……!」
左手にレヴァンティンの鞘を持ち、ワームの攻撃を防ぎながらも、右手に持った刀でワームを斬り倒してゆく。
表に出してはいないが、シグナムの疲労はかなりの物だ。少しでも気を抜けば、すぐにワームに攻め落とされるだろう。
そしてそれはフェイトとて同じ事。二人はだんだんと防衛ラインに近づいてゆく。ゆっくりとだが、押されているのだ。
「クッ……ZECTどころか、ネオゼクトも来ないのか……!」
「きっと……もうすぐ来てくれるから!負けちゃダメだよ、シグナム!」
フェイトもシグナムも、少しずつだが魔力を消費している。もしもサンダースマッシャー等の射撃魔法を撃ってしまえば、すぐに魔力が底を突いてしまうだろう。
極力魔力を抑えながらも、ワームを爆発させ続ける……そんな努力を続けていた二人を神は見放さなかった。

「撃てーーーッ!!!」

この空間に、大きな声が響いた。同時に、先頭の数十匹のワーム部隊が、嵐の如きマシンガンの銃撃を浴びた。
「やっと来てくれた……!」
「ZECTか……!?」
フェイトとシグナムは、大量のマシンガンが放たれている後方を振り返った。
そこにいるのは、数十人のゼクトルーパー。それはまるで、町の入口を埋め尽くす黒アリの如く。
そして戦闘に立ち、ゼクトルーパー部隊に命令を下しているのは、紺色のスーツを纏った、この部隊の隊長だ。
シャツやマントも全体的に青色を基調としており、左肩に掛かったマントには、クワガタムシを模したZECTロゴマークが施されている。

「加賀美の部隊か……!」
「加賀美……来てくれたんだ……!」
ようやく増援が来てくれた。その事に、フェイトとシグナムの表情は、一気に明るくなった。
その間にも大量のゼクトルーパーが放つマシンガンは、次々とワームを撃ち貫き、緑の炎へ変えてゆく。

「シグナム、フェイト!お前達は下がれ!後は俺の部隊が引き受ける!」
この部隊を指揮する隊長……『加賀美新』が、大きな声でそう言った。
加賀美は隊長クラスである為に、フェイトやシグナムよりも階級は上だ。つまり、これは命令と取る事ができる。
「いや、私達はまだ戦える……と言いたい所だが、ここはその命令に甘えさせて貰おう」
「うん……流石に今回ばっかりは、疲れたかな……」
ここは大人しく、加賀美の命令に従う事にしよう。今はそれが得策だ。フェイトとシグナムはお互いの顔を見合わせた。

二人は、空を飛んでゼクトルーパー隊の背後へと後退してゆく。ここからは、スーパー加賀美タイム(?)だ。
加賀美が、手を挙げる事で、ゼクトルーパー部隊の射撃は止まった。
「俺が変身して戦う!お前達は引き続き援護を頼む……!」
「「「了解!!!」」」
加賀美はスーツのボタンを開け、天に手を翳した。加賀美の腰には、銀色のベルト-ライダーベルト-が輝いている。
そして、彼方から飛来した蒼き流星は、前方のワーム数匹に突撃。そのままワームを貫通・爆発させ、加賀美の手に納まった。
これが加賀美の蒼き戦いの神の力……クワガタムシ型昆虫コア-『ガタックゼクター』-だ。

「変身ッ!!」
加賀美はガタックゼクターを構え、勢い良く越のライダーベルトに装填した!
同時に、ガタックゼクターのランプは光り輝き、電子音が鳴り響いた。
『Henshin!!』
ベルトから拡がって行く銀色の光。加賀美の体は、だんだんと銀を基調とした、蒼きアーマーに包まれて行く。
そして次の瞬間、ゼクトルーパー部隊の先頭に立つ加賀美は、『仮面ライダーガタック・マスクドフォーム』へとその姿を変えていた。

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最終更新:2007年12月07日 22:27