第12話「敗北、そして新たな出会いなの」
「ゾフィー、ヒカリ……!!
ついに現れたか、宇宙警備隊め……!!」
異次元空間。
ゾフィーとヒカリの乱入という事態を目にし、ヤプールは歯軋りした。
宇宙警備隊の介入は、全く予想していなかったわけではない。
メビウスが時空管理局側にいる以上、時空管理局がメビウスの世界を見つけ出すかもしれない。
逆に宇宙警備隊側が、メビウスを探してこちらの世界にやってくるかもしれない。
そう、可能性としては考えてはいたが……実際に現れたとあっては、やはり厄介だ。
ヤプールは掌から黒いガスを噴出させ、それを凝視する。
「……まだだ。
仮に、奴等のコアを全て使ったとしても……まだ届かん。
完成さえしてしまえば、宇宙警備隊も時空管理局も……誰が相手であろうと……
暗黒四天王や、皇帝さえも……!!」
闇の書さえ完成すれば、全ての目的は達成される。
そうなれば、もはや止められる者はいない……だが、まだまだ完成には遠い。
フェイトのリンカーコアを吸収しても、まだ闇の書のページは埋まりきっていなかったのだ。
今の所、ページを大幅に増やす方法が一つだけ、あるにはあるが……それを用いても、まだ届かないだろう。
ヴォルケンリッターやダイナが、地道な蒐集を進めるのを待つか。
答えは否……こちらからも、出来る事をやらなければならない。
ページを増やす手立てが……無い訳ではないからだ。
(尤も、これで奴等が倒れてしまえばそこまで……かなりの賭けにはなるがな。
奴等に、それだけの力があるかどうか……)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「超古代の戦士……それが、ウルトラマンダイナの正体か。」
『うん……ミライさんの様な、光の国のウルトラマンってわけじゃないらしいんだ。』
時空管理局本局。
ユーノは、ウルトラマンダイナについて調べ上げた事に関して、なのは達に報告していた。
分かった事は、ダイナはミライと同じ光の国のウルトラマンではないと言う事。
ダイナは異世界において、超古代の時代に悪と戦い続けてきた光の戦士の一人。
そして、スフィアと呼ばれる知的生命体の火星襲来を機に、現代に目覚めたという事である。
ミライの予想は、見事に的中していたのだ。
「そう言われてみると、確かに納得できるね。
なんかダイナって、ゾフィーやヒカリと違って、色が派手だったしさ。」
「ダイナは、レッド族・シルバー族・ブルー族のどれに当てはまるのか、分からないウルトラマンでしたからね。」
「え……ウルトラマンって、そういう風に色で分けられてるんですか?」
「うん、そうだよ。
だからそれもあって、ダイナが異世界のウルトラマンだって思ったんだけど……
まあ、どれに分類したらいいのかっていう例外みたいなウルトラマンもいるにはいるから、不安だったんだ。」
ミライは、恐らく自分が知る限りは最強のウルトラマンであろう、ウルトラマンキングの事を考えて溜息をついた。
正直な話、あのウルトラマンキングだけは、どれに分類したらいいか未だに悩む。
シルバー族といえばシルバー族なのかもしれないが……カラーリングが、少々独特すぎる。
本人に聞いてみれば分かるのかもしれないが、相手が相手だけに、会える機会は極めて少ないだろう。
兎に角、この事は一旦置いておくことにして、ユーノの報告を聞くのに専念する事にする。
『ダイナのいた世界では、他にもウルトラマンは確認されてる。
ウルトラマンティガ……ダイナと同じ、超古代の戦士が現代に目覚めたウルトラマンなんだ。
一応、他にもイーヴィルティガっていうウルトラマンもいたらしいけど……こっちは悪党だったらしいからね。
怪獣とか侵略者とか、そっちの方に分類されてたんだ。』
「じゃあダイナは、そのティガっていうウルトラマンと、一緒に地球を守り続けていたの?」
『いや、それがそうじゃないんだ。
ティガが現れたのは、ダイナが現れる七年も前なんだけど……ティガはある戦いを切欠に、姿を消したんだ。』
ユーノは画面に、ティガに関する資料を映し出す。
ダイナと似た姿を持つ、もう一人のウルトラマン―――ウルトラマンティガ。
その異世界において、初めて人々の前に現れた、最初のウルトラマンである。
ティガが現れたのは、ダイナが現れるよりも八年も前。
超古代の戦士の遺伝子を受け継ぐ一人の青年―――マドカ=ダイゴが、ティガの力を手にした事が全ての切欠であった。
―――もっともなのは達は、ダイゴの名前までは分からなかったようだが―――
ティガは、数多くの悪と激闘を繰り広げ、人々を守り抜いてきた。
しかし、月日が経つに連れて戦いは熾烈を極めるようになり……ティガも、苦戦を強いられる用になっていった。
そして終には、ティガとは対極をなす『闇』の存在―――最強の敵、邪神ガタノゾーアが復活を遂げた。
ガタノゾーアの力は恐ろしく強大であり……ティガも、その前に敗れ去ってしまったのだ。
だが、それでも人々は希望を捨てなかった。
闇に屈しまいとした人々の希望は、光となってティガを蘇らせたのだ。
希望の光を得たティガ―――グリッターティガは、その圧倒的な力でガタノゾーアを打ち倒した。
そして、戦いが終わった後……ダイゴは、ティガへと変身する力を失ってしまったのである。
「希望が力になって、闇を倒した……」
「最後まで諦めず、不可能を可能にする……それがウルトラマン。
異世界でも、それは変わらないんだね。」
『それからしばらくの間、ティガは人々の前に現れることはなかったんだけど……
邪神との戦いから二年後に、ティガは再び現れたんだ。』
邪神ガタノゾーアとの戦いから、二年後。
超古代遺跡ルルイエより、闇の力を持つ巨人が復活を果した。
そのリーダー格である戦士カミーラは、かつてティガと恋人同士にあった。
彼女はティガと再び出会う為、ダイゴの前に現れ、ティガへと変身する力を与えたのである。
その後、ダイゴは彼女等を打ち倒す為にとティガへと変身を遂げたのだが……現れたティガは、かつての彼と違った。
その全身は、闇を連想させる漆黒のカラーリングをしていた。
そう……ティガは本来、彼女達と同じ闇の力を持つ戦士だったのだ。
二年前は、正義の心を持つダイゴがその力を手にした事により、光の戦士として覚醒した。
だが今回は、カミーラの力の影響が大きかった為か、闇の戦士―――ティガダークとして目覚めてしまったのである。
そして、その変身は極めて不完全なものであった。
正義の心を持ったまま闇の戦士として覚醒してしまったが為に、本来の力を発揮できないでいたのだ。
しかし、それでもティガは諦めず、彼女等に戦いを挑んだ。
その結果……奇跡は起こった。
ルルイエに眠っていた超古代の光の戦士達が、戦いの最中にティガへと光を分け与えたのだ。
ティガは戦士達の光を得、グリッターティガへと覚醒し……そして、カミーラ達を終に打ち倒したのである。
『そして、この戦いから六年して……終にダイナが現れたんだ。』
「じゃあ、それを最後にティガは消えたんだね。」
『いや、それがこれが最後じゃないんだ。』
「……ふぇ?」
『さっき言ったのと矛盾しちゃうけど……実はティガは、一度だけダイナと共闘してるんだ。』
それは、ティガが最後に現れてから六年後の話。
地球侵略を目論む異星人―――モネラ星人が、地球に襲来してきた時の事である。
ダイナは、モネラ星人の切り札である超巨大植物獣クィーンモネラに、敗れ去ってしまったのだ。
圧倒的な力を持つ巨悪の前に、ウルトラマンが倒されてしまう。
奇しくも状況は、かつてのティガとガタノゾーアとの最終決戦と、同じであったのだ。
そして……この絶望的な状況を救ったのも、かつてと同じもの―――希望の光であった。
希望を捨てず、諦めなかった人々の想いが光となり、そしてその光が……ティガとなったのである。
ティガは己の光を……人々の希望をダイナへと分け与え、ダイナを復活させた。
そして、ティガとダイナはついにクィーンモネラを打ち倒したのである。
「……全く、とんでもない話だね。
信じてさえい続ければ、必ず奇跡は起こるって……でも、そういうのも嫌いじゃないよ。」
『これが、ティガが人々の前に姿を現した最後の戦いだよ。
それからは、ずっとダイナが戦い続けていたんだけど……』
「……ダイナはある戦いを切欠に、姿を消した?」
『うん、その通りだよ。
ダイナは、暗黒惑星グランスフィアとの戦いを最後に……消え去ったんだ。』
地球と一体化を遂げようとした、暗黒惑星グランスフィア。
周囲に巨大なブラックホールを持つ、近づくもの全てを飲み込む巨大な闇。
ダイナは仲間達と力をあわせ、グランスフィアとの決戦に臨んだ。
そして、グランスフィアを消し去る事に見事成功し、地球を救ったのだが……
ダイナは、グランスフィア消失時に発生した巨大なブラックホールに、そのまま飲み込まれてしまったのである。
これが、人々がダイナを見た最後だと記録されている。
「えっと……そのブラックホールが、私達の世界に通じていたってことでいいんだよね?」
『多分そういうことだと思う。
そして、その後は……何らかの切欠でヴォルケンリッター達と出会って、行動を共にしてる。』
「しかし分からないのは、ダイナが何で彼等と一緒にいるかだな。
こうして見てる限り、ダイナはミライさんと同じ……人々を守るために戦ってきた、ウルトラマンなんだろう?
なら、どうして闇の書側の味方なんか……」
ダイナの正体が分かったのは良いが、御蔭で尚更謎が深まった。
何故ダイナが闇の書側についたのかが、皆目検討がつかなくなってしまったからだ。
もしも、ダイナが悪党であるのならば話は分かる。
だが……彼は正義の味方として戦い続けた、ウルトラマンなのだ。
ならば何故、闇の書を完成させようとしているのだろうか。
仮に、ヴォルケンリッターに恩義を感じているのだとしても……やはり、考えられない。
「……ザフィーラの奴は、自分達の意思で闇の書の完成を目指してるって言ってた。
主は関係ないって……もしかして、闇の書を完成させなきゃいけない理由があるのかな?」
「けど、闇の書は破壊にしか使えないはずだし……あ、ユーノ君。
その闇の書に関しては、何か分かってるのかな?」
『はい、御蔭で色々と分かりました。
とりあえず、今分かってる事は全部話しますね。』
ユーノは画面に、闇の書に関する資料を映し出した。
ここまで調べてみて、様々な事が分かった。
まず最初に、闇の書というのは正式な名称ではないということ。
闇の書の本来の名前は『夜天の魔道書』ということである。
その本来の目的は、各地の偉大な魔道師の技術を吸収して研究する事。
それらを記録として半永久的に残す為に造られた、主と共に旅する魔道書……それが、夜天の書であったのだ。
そんな夜天の書が破壊の為に力を発揮するようになったのは、ある持ち主がプログラムを改竄したから。
圧倒的な力を欲しさに、全てを捻じ曲げた者がいたからである。
この改竄の結果、旅をする機能・破損したデータを自動修復する機能が暴走してしまった。
転生と無限再生の機能は、これが原因で生じてしまったのだった。
だが闇の書には、これらを遥かに上回る凶悪な機能が、更に搭載されてしまっていた。
それは、主に対する影響の変化にあった。
闇の書は、一定期間蒐集がない場合……主自身の魔力を侵食し始める。
そして完成した後には、破壊の為だけに主の力を無際限に使い続ける。
その為、これまでの主は皆……完成してすぐに、その命を闇の書に吸い取られてしまったのである。
「……ロストロギアの持つ、強大な力を求めた結果か。
どこの世界でも、そんな奴はいるんだな……」
「封印方法や停止方法については、分かった事はあるか?」
『それは今探してる。
でも、完成前の停止は……多分難しい。』
「え……どうして?」
『闇の書が真の主と認識した人物でないと、システムへの管理者権限が使用できない。
つまり、プログラムの停止や改変ができないんだ。
無理に外部からアクセスしようとしたら、主を吸収して転生するシステムも組み込まれてる……
だから、闇の書の永久封印は不可能って言われてるんだ。』
「……ファイナル・クロスシールドも、破られる可能性がありえるんだよね……」
闇の書の封印は、流石のウルトラマンでも厳しいようであった。
かつてヤプールを封印したファイナル・クロスシールドでも、下手をすれば打ち破られる危険性がある。
そしてそれは、破壊に関しても同じ事が言える。
アルカンシェルで跡形もなく吹き飛ばしても再生するというのであれば、自分達の光線はまず通用しない。
例え、一撃で惑星を一つ消滅させるだけの破壊力を持つ最強兵器『ウルトラキー』を使ったとしても、恐らく結果は同じだろう。
しかし……それでも、主を闇の書の完成前に捕まえ、闇の書を破壊するしか手はない。
結果を先送りにするだけではあるが、現状を何とかする事は可能だ。
皆の顔つきが、一層険しくなる。
こんなに危険な魔道書を作り上げたかつての主に対して、少なからず怒りを感じているようである。
するとそんな中、アルフがふと口を開き、疑問に思ったことを訪ねてみた。
「ユーノ、闇の書を改竄したかつての主ってのがどんな奴なのかは、分からないのかい?」
『名前とか出身世界とか、詳しい事までは分からないけど……古い歴史書には、こう書いてあった。
まるで血の様な赤い色をした、悪魔の様な存在だって……』
「悪魔……」
悪魔という単語を聞くと、どうしてもヤプールの事が頭に思い浮かんでしまう。
散々、ミライやゾフィー達といったウルトラマン達が、ヤプールの事を悪魔と呼び続けていたためであるが……
流石に考えすぎだろうと、皆が苦笑する。
しかし……唯一、ミライだけは引っ掛かりを感じていた。
何故ならば、ヤプールも……赤い色をしているからだ。
(本当に……単なる偶然なんだろうか……?)
単なる偶然として片付けるには、何かが引っかかる。
ヤプールが闇の書を狙うのは、本当に、唯単に強い力の存在を感じ取っただけだからなのだろうか。
それとも……もしかしたら、最初から闇の書の存在を知っていたのではないだろうか。
そう……闇の書の改竄を行ったのは、ヤプールなのではないだろうか。
そんな悪い予感を……ミライは、少なからず感じていたのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「入院?」
「ええ……そうなんです。」
翌日。
はやて達は、彼女が通っている病院へとやってきていた。
今朝、急にはやてが強烈な痛みに襲われ、倒れてしまったのだ。
慌ててアスカ達は、彼女を病院へと運び込んだのだが……
そこで、彼女の担当である石田女医から、入院を勧められたのだ。
どうやら、麻痺が徐々に広がり始めている可能性があるらしい。
事態が事態だけに、流石にアスカ達もそれを承諾せざるをえなかった。
そして今、はやては病室でその事実を伝えられ、少し落ち込んでいる。
「あ、でも……検査とか、念の為だとか言ってたしさ。
そんな心配しなくてもいいって。」
「うん、それはええけど……私が入院したら、皆のごはんは誰が作るん?」
「う……」
「ま、まあそれは……何とかしますから。」
「大丈夫ですよ……多分。」
「はやて、毎日会いに来るからな。
だから……心配、しなくても大丈夫だからな?」
「うん……ヴィータはええ子やな。
せやけど、無理に毎日来んでも大丈夫やからね。
やる事ないし、ヴィータ退屈やろ?」
「う、うん……」
自分の身よりも、周りの者の事を第一に心配する。
そんなはやての優しさを前に、誰もが言葉を発せられないでいた。
彼女が何故倒れたのか……その原因は明らかだ。
闇の書の侵食が、早まってきているのだろう。
何としてでも、彼女を救わなければならない。
より早くの完成を……目指さなければならない。
この優しい主を、絶対に死なせてなるものか。
「あ、でもすずかちゃんからメールとか来るかもやし……心配せぇへんかな……」
「それでしたら、私が連絡しておきますね。」
「まあ、はやてちゃんは普段から頑張ってるんだしさ。
たまには三食昼寝つきの休暇ってことで、ゆっくりするといいよ。」
「そやな……じゃあ、ありがたくそうさせてもらうわ。」
「じゃあ私達は、一度荷物を取りに戻ります。
また後ほど。」
「うん、気をつけてな。」
アスカ達は、はやてが入院中必要になるものを取りに帰るため、病室を後にした。
しかし……それから、しばらくした後だった。
はやては胸を押さえ、苦しみ始めたのだ。
アスカ達に心配をさせまいと、ずっと痛みを堪え続けていたのである。
これまでに経験した事のないレベルの激痛が、体中を駆け巡る。
一体、自分に何が起こっているのか。
はやては、何も分からぬまま、ただ痛みに耐えていた。
(あかん……しっかりせな。
このままじゃ、皆が困るんやもんね……)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なのはちゃん、フェイトちゃん、アリサちゃん……ちょっといいかな?」
「すずか?」
翌日。
フェイトは無事に意識を取り戻し、なのは達と共に学校にいた。
彼女のリンカーコアの回復には時間が少しばかりかかるが、日常生活には一切支障はない。
その為、これまでと変わらずに学校生活を送れている様だった。
二人は管理局から指示があるまで、現場待機という形になっている。
そして今は、丁度下校時なのだが……仲良し四人組が教室を出てから少しして、すずかがふと口を開いた。
なのは達はその表情を見て、何か深刻な悩み事があるに違いないとすぐに察する。
そして、その予感は見事に的中した。
「実は……はやてちゃんが、入院しちゃったって。」
「え……入院?」
「うん……そうなの。」
すずかの心配事とは、昨日の事―――親友であるはやてが、入院してしまったということだった。
なのは達も、直接の面識がないとはいえ、はやての事はすずかから色々と聞いている。
メールの文面を見る限りでは、然程重い症状というわけではなさそうだが……事が事だけに、流石に心配だった。
彼女は、自分に何か出来ることはないだろうかと思っていたのだ。
そしてその思いは、なのは達三人も同じく感じていた。
ならばと、早速アリサが提案する。
「じゃあさ、皆でお見舞いに行こうよ。」
「うん、私もそれがいいと思う。
今日いきなりは流石にだから、連絡入れて、明日辺りに。」
「うんうん……メールに、励ましの写真とか一緒に乗せてさ。」
「皆……ありがとう。」
「何言ってんの、すずかの友達なんでしょ?
私達にも、紹介してくれるって言ってたじゃないの。」
皆ではやてのお見舞いに行く。
四人の意見は一致し、早速すずかははやてへとメールを打とうとする。
そのまま、四人は学校の外へと出てバス停へと向かう。
そして、十字路に差し掛かったときだった。
「あ、ミライさん。」
「あ、皆。」
四人は、丁度外に出かけていたミライと出会った。
アリサとすずかの二人は、翠屋で始めてあった時以外にも、ミライとは何度か会っていた。
なのは達がハラオウン家の夕食に招かれた時や、なのはの父である士郎が監督を務めるサッカーチームの応援に行った時。
エイミィがなのはの姉の美由希と意気投合して、皆で銭湯に行った時など、色々だ。
ちなみに当たり前だが、賑やかな女性人とは対照的に、ミライは一人男湯で過ごしていた。
ユーノは事情を知らないアリサ達がいる手前一緒には行けなかったし、クロノも都合が悪く仕事ときたからだ。
だが、一人で空しく過ごしていたかというと、全くそんな事は無い。
実は言うと彼は、その銭湯で偶々同じ境遇の男性と出会い、そのまま意気投合してしまっていたのである。
この出会いは後々、色々と波紋を巻き起こすわけなのだが……まあそれは別の話。
ここで、なのは達はミライにある頼みをする事にした。
「ミライさん、よかったら写真撮ってもらってもいいですか?」
「写真……いいけど、どうしたの?」
「実は、友達が入院しちゃって……励ましのメールを送ろうと思ったんですけど。」
「考えてみたら、誰かにとってもらわないと四人全員映れないんですよね。
それで、どうしようかって思ってたんだけど……」
「それで写真かぁ……うん、いいよ。
早速撮ってあげる。」
「ミライさん、ありがとうございます♪」
その後、ここでは流石に通行人の迷惑だからということで、五人は近くの公園へと移動した。
ミライははやての事は知らないが、きっと彼女達の良き友達なのだろうと思っていた。
だから彼は、早く良くなって欲しいと願いを込め、四人の写真を撮る。
しかし、この時はたして誰が思っただろうか。
この写真が、思わぬ波紋を呼ぶことになろうとは……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ、すずかちゃんからだ。」
数分後。
八神家では、シャマルが食事の下ごしらえをしている最中であった。
はやてが入院中のため、今は彼女がはやての携帯電話を預かっている。
早速、シャマルはすずかからのメールを確認する。
メールの内容は、明日の放課後に友達と共に、はやての見舞いに行くという事。
はやてにとって、すずかは誰よりの親友である。
彼女から励ましの言葉があれば、きっとはやても喜ぶに違いないだろう。
それに、すずかが友達を連れてきてくれるというのならば、はやてに新しい友達が出来る。
思わずシャマルの顔に、笑みが浮かぶ……が。
この直後、メールに添付されていた一枚の写真を見て……彼女の表情は、凍りついた。
「え……!?」
シャマルは目を見開き、硬直する。
思わず、握っていた菜箸をシンクに落としてしまった。
しかしそれも無理は無い。
その写真に、あの二人―――なのはとフェイトが映っていたのだから。
まさか、すずかが彼女達と友達だなんて、思ってもみなかった。
このままではまずい……そう感じ、すぐさまシャマルは他の四人へと念話を飛ばす。
『シャマルか……どうした?』
「た、大変なの!!
テスタロッサちゃんと、なのはちゃんと、すずかちゃんとが……!!」
『落ち着け、シャマル。
一体、テスタロッサ達がどうしたんだ?』
「あの二人が、管理局魔道師が……明日、はやてちゃんに会いに来ちゃうの!!」
『ハァッ!?
ちょ、それって……俺達の事、ばれたの!?』
「ううん、そうじゃないんだけど……あの二人、すずかちゃんのお友達だから……!!」
『何だって……?』
あの二人は、すずかの友人だった。
ヴォルケンリッター並びにダイナ達は、その事実に驚き言葉を失う。
何と言う偶然だろうか。
はやてが闇の書の主であるという事までは、どうやらばれてはいないようだが……それでもこれはまずい。
シャマルが焦りを覚えるのも、無理は無い。
「どうしよう、どうしたら……!!」
『落ち着け、シャマル。
幸い、主はやての魔術資質は全て闇の書の中だ。
詳しい検査をされない限り、まずばれはしない。』
「そ、それはそうだけど……」
『つまり、私達と鉢合わせることがなければいいわけだ。』
「うぅ……顔を見られちゃったのは、失敗だったわ。
出撃する時に、変身魔法でも使ってればよかった……」
『今更悔いても仕方ない。
ご友人のお見舞いには、私達は席を外そう。
後は主はやてと、それと石田先生に我等の名前を出さないようにお願いしておこう。』
「はやてちゃん、変に思わないかなぁ……」
『仕方あるまい……頼んだぞ。』
「うん……」
『……ちょっと待った。
確かに、シグナムさんとか皆はやばいけどさ……俺はセーフなんじゃない?』
「……あ。」
アスカの一言を聞き、皆がハッとした。
確かに蒐集の際には、アスカはウルトラマンダイナに変身して出撃している。
自分達と違い、顔も名前も知られていない筈だ。
彼だけは、なのは達と接触してもセーフなのではなかろうか。
誰もがそう思ったが……すぐにこの後、皆があることを思い出す。
『駄目だ、アスカ……お前も顔が割れている可能性がある。』
『え?』
『お前さ、一番最初に変身した時……ほら、あたし助けた時だよ。
あの時、一瞬だけど顔見られてなかったか?』
『……あぁっ!?』
自分でもすっかり忘れていた。
この世界に来て、一番最初にダイナへと変身した時。
あの時、一瞬だけとはいえ姿を見られていた可能性があるのだ。
ばれていない可能性もあるが、それでも顔を見せるにはリスクが高すぎる。
結局のところ、誰もなのは達の前に姿を現す事はできないということだ。
アスカは大きく溜息をつき、己の不運を呪った。
本当に今更ではあるが、この世界に来る前までの様に、隠れてこっそり変身すべきだったか。
いや、それではこうしてはやての為に戦うことも出来なかったし……どちらにせよ、どうしようもない。
『……落ち込んでいても仕方ない。
気を切り替えて、蒐集に戻るか……あ~、くっそ……』
「……兎に角、それじゃあ急がないと……」
早速シャマルは、身支度を整え外出しようとする。
はやて達に、自分達の名前を出さぬよう注意をしなくてはならない。
一体、どう説明すれば納得してくれるだろうか。
病院に着くまでに、いい言い訳を考えなければならない。
これまでにないこの事態に、シャマルは相当の危機感を抱いていた。
(怒っちゃうかな、はやてちゃん……)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「シャマルの奴、大丈夫かな……?」
異世界、大海原。
その上空を飛びながら、ヴィータはシャマルの事を考えていた。
自分達の名前を出さないようにとはいうものの、どうはやて達に説明するのだろうか。
下手な事を言って、彼女達を怒らせたり、不安がらせたりしないだろうか。
どうにも、マイナスな方向へばかり物事を考えてしまう。
「……いけねぇ。
今は、こっちに集中しないといけないのに……」
ヴィータは大きく頭を振り、蒐集活動に集中しようとする。
闇の書さえ完成させてしまえば、後はどうにだってなる。
はやてを一刻も早く回復させるのが、自分達の役目。
そう思おうとするが……ヴィータには、すぐにそれが出来なかった。
昨日から、何かが自分の中で引っかかっていたからだ。
(……何かがおかしいんだ。
こんな筈じゃないって、私の中の記憶が訴えている……でも。
今は、こうするしかないんだ……!!
はやてが笑わなくなったり、死んじゃったりしたら……!!)
しかし、ヴィータはその引っ掛かりをすぐに否定する。
自分がこうして躊躇ったりしている内に、はやてに何かがあったらどうしようもない。
彼女の命は、後どれだけもつか分からないのだ。
だから、やるしかない……やるしかないのだ。
自分達には、迷っている暇は無い。
「やるよ、アイゼン!!」
『Ja!!』
海中から、巨大な海蛇の様な魔道生物が出現する。
ヴィータはカートリッジをロードし、その脳天へと全力でグラーフアイゼンを叩きつけた。
だが、一撃で倒れてはくれない……どうやら、それなりに実力があるようだ。
ならばそれだけ、リンカーコアから蒐集できる魔力も期待できる。
久々に当たりを引いたと確信し、ヴィータは一気に勝負に出た。
再度カートリッジをロード、グラーフアイゼンの形態を変化させる。
とてつもなく巨大な破壊槌―――ギガントフォームに。
「ぶちぬけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
グラーフアイゼン最強の一撃が、魔道生物の横っ面にぶち込まれた。
流石にこれには耐え切れなかったようであり、魔道生物は悲鳴を上げて崩れ落ちる。
すかさずヴィータは、アイゼンを振り下ろして追撃。
その頭部に、強烈な一撃をぶち込んだのだった。
これで、魔道生物は完全に沈黙。
すぐにヴィータは、リンカーコアを生物から摘出させる。
結果は予想したとおり……これまでの生物に比べて、比較的強い魔力であった。
これなら、それなりにはページを埋められそうだ。
すぐに、蒐集に移ろうとする……が。
この直後……予期せぬ事態が、彼女に襲い掛かった。
ドッバァァァァァァァァンッ!!
「えっ!?」
「ギャオオオオオォォォォォォォォッ!!」
突然、背後から大津波が襲いかかってきたのだ。
ヴィータはとっさに障壁を展開、それに飲み込まれないようにと踏ん張る。
この津波は、自然に発生したものではない。
同時に聞こえてきた鳴き声こそが、何よりの証拠である。
すぐにヴィータは、その声の主であるだろう相手の迎撃に移ろうとする。
しかし、この直後だった。
もう一発、続けて津波が発生したのだ。
それも今度は、正反対……魔道生物のいた方からである。
よりにもよってこのタイミングで、敵は二体現れたのだ。
ヴィータは片手で障壁を維持しながら、もう片方の手でも障壁を展開し、背後の津波に対応する。
なのはの砲撃魔法なんかに比べれば、この程度の相手は何とかしのげるレベルだった。
そして、津波をしのぎきった時……彼女は、信じられない光景を目にした。
「なっ……嘘だろ!?」
「ギャオオォォンッ!!」
魔道生物がいた方に出現した、その大型生物。
まるで刃の様に鋭く尖った尾びれを持つ、紅い体色の二足歩行獣―――レッドギラスが、空を仰いで大きく雄叫びを上げた。
あろうことかこの怪獣は、今ヴィータの目の前で……彼女が倒した魔道生物を、食らったのだ。
それも……摘出したリンカーコアごとである。
これにはヴィータも、怒りを感じずにはいられない。
何としてでもぶち倒し、リンカーコアを引きずり出す。
すぐさま、彼女はレッドギラスに襲いかかろうとする……が。
それよりも早く、彼女の背後にいたもう一匹の怪獣が動いた。
レッドギラスと全く同じ、唯一の違いはその体色が黒色である怪獣―――ブラックギラス。
ブラックギラスはヴィータへと、全力で拳を振り下ろしてきた。
「くっ!!」
ギリギリのところで気付き、ヴィータはこれを回避した。
どうやら、二体纏めて相手にする必要があるらしい。
ならば、このままギガントフォームの一撃をぶち込んで、打ち倒してくれる。
ヴィータは大きく振り被り、そして二匹へと振り下ろそうとする。
しかし、それよりも僅かに早く……レッドギラスとブラックギラスが動いた。
二匹はまるでスクラムを組むように、互いの肩をがっちりと掴んだのだ。
そして……その体勢のまま、急速で回転し始めた。
これこそが、かつてウルトラセブンとウルトラマンレオを苦しめた、双子怪獣必殺の攻撃―――ギラススピンである。
グラーフアイゼンとギラススピンが、真っ向からぶつかり合った。
鉄槌の騎士必殺の一撃と、双子怪獣必殺の一撃。
相手にうち勝ったのは……
「ぐっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
グラーフアイゼンが弾かれ、ヴィータが大きく吹っ飛ばされる。
うち勝ったのは、ギラススピンの方であった。
ヴィータは当然知らなかっただろうが、ギラススピンはかつて、ウルトラセブンのアイスラッガーにもうち勝った程の攻撃。
彼女の最大の一撃をもってしても、うち破るには届かなかったのだ。
勝ち誇るかのように、双子怪獣は唸りを上げる。
そしてヴィータは、海面へと叩きつけられ……海中へと沈んでいった。
(嘘だろ……?
こんなんで、終わりなんて……)
まさかこんな所で、こんな敗北をするなんて、思ってもみなかった。
絶対にはやてを助け出そうと、そう誓ったばかりだというのに……何という様だろうか。
悔しくて仕方が無い。
こんな所で、終わりたくなんか無い。
ヴィータは、徐々に薄れ行く意識の中……大切な仲間と、そして主の事を思った。
(シグナム、シャマル、ザフィーラ、アスカ……はやて……はやてぇ!!)
「……はやてぇっ!!」
ヴィータが大声を上げ、起き上がる。
大きく肩で息をし、周囲を見回す。
するとここで彼女は、風景がそれまでとは全く変わっていることに気がついた。
大海原とは一転、緑色の木々が生い茂っている。
目の前では焚き火が燃えており、海水で冷えた体を温めてくれる。
もしかして、誰かが自分を助けてくれたのではないだろうか。
そう思ったヴィータは、他に誰かいないのかと、周囲を見渡してみる。
すると……少しばかり離れた位置から、何者かが近寄ってきた。
馬を連れた、カウボーイハットを被っている中年の男性。
そのわきに抱えられている薪を見て、助けてくれたのはこの人に違いないとヴィータは確信する。
「お、気がついたか……大丈夫そうだね。」
「はい……えっと、助けてくれてありがとうございます。
……助けてくれたんですよね?」
「ああ、そうだ。
浜辺に流れ着いていたところを見つけてね……本当、驚かされたよ。
……一体、何があったのかな?」
「……あたしは……」
先程の出来事を思い出し、ヴィータは唇をかみ締める。
突然現れた、謎の生物二匹に負けてしまった。
それも……グラーフアイゼンの最強形態であるギガントフォームが、真っ向勝負で破れたのだ。
鉄槌の騎士と鉄の伯爵にとって、これ以上ない屈辱だった。
そんなヴィータの表情を見て、男は少しばかり暗い表情をする。
どうやら、よっぽどのことがあったに違いない……これは、聞くのをよした方がいいだろうか。
そう思って、話を中断しようとするが……ヴィータが話をし始め、それを遮った。
「……あたしは、負けたんだ。
あの、黒と赤の二匹の怪獣に……アイゼンが……!!」
「……!!」
ヴィータの言葉を聞き、男は表情を変えた。
赤と黒の二匹の怪獣……場所は海。
彼には、思い当たる節があったのだ。
だが……それ以上に問題が、最後の一言―――アイゼン。
まさかと思い、男は確認をとろうとした。
「……よかったら、名前を教えてもらえないかな?」
「あ……ヴィータです。」
「ヴィータか……」
男はその名前を聞き、軽く一息をついた。
やはり、予想したとおりだった……偶然とは恐ろしいものである。
まさかこんな所で、出会う羽目になろうとは。
しばし、男は言葉を失っていた。
そんな彼をヴィータは、不思議そうな顔をして見つめてくる。
流石にこのままではまずいと感じて、男はすぐに口を開いた。
そして……己の名を、彼女へと告げる。
「……俺はダン。
モロボシ=ダンだ。」
モロボシ=ダン。
かつて、地球防衛に当たった一人の戦士。
ウルトラ兄弟の一人であり、そしてウルトラマンレオの師―――ウルトラセブンその人である。
最終更新:2007年12月01日 10:48